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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』

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謳え唱え歌え、その御心のままに その11

 過激派が繰り出すは『オニガズラ』と呼ぶ組織の最終兵器、三機鬼神。

 対するは穏健派勢力のマーテルレッドと名も知らぬナイトくん、そして黒雷と雷瞳ミカヅチにブレイヴ・ウンディーネとアウル・ナイトを加えた混成チーム。

 『すまないな黒雷、襲撃チームが最後に抑えようとした拠点からソイツらの出撃を許してしまった。現段階ではこれ以上敵の戦力は増えない筈だから、悪いが早急にソイツらを討ち取ってもらえると助かる』

 大隊長も状況を把握しているらしく、できる限り周囲の機械人形は他の隊員で受け持ち、ここにいるメンバーが全力で戦える場を作るようにサポートするらしい。


 「手伝いは出してくれないのか?」

 『逆に聞くが、アンタらみたいな特記戦力の戦場についていけるヤツの名を上げられるのか?』

 そう言われてしまうと黒雷としても黙るしかなくなる。

 ダークエルダーという悪の組織に所属し、戦闘員として働きたいと願う方が稀な中で、黒雷やミカヅチのように特殊な怪人スーツを貰える人間はごく僅かだ。

 戦闘系の幹部クラスなら話は別だが、生憎とこの戦場にいる幹部は黒雷とカシワギ博士だけである。

 ダークヒーロー達は他の機械人形の相手で手一杯なので、わざわざ呼び付けるワケにもいかない。


 後は個人で戦場に参加しているヒーロー達だが、彼らには自分達の好きに動いてもらったほうがいい成果が出るので参戦したければ勝手にやってくるだろう。不確定要素なのでメンバーには数えられない。

 なので必然的に、三機鬼神と相対するのはここにいるメンバーだけとなる。

 「分かった。では周辺の建物のシールド強度を上げておいて欲しい。それと周囲にはなるべく人を近付けさせない事と、一応追撃部隊を用意しておいてくれ」

 『了解した、健闘を祈る』

 大隊長との通信を切ると、先程上げたメンバーが揃って黒雷を見ている。


 何をどうしてか、黒雷が指示役として選ばれたらしい。

 ならば黒雷の好きなように采配させてもらおう。

 「そうさな……ウンディーネとアウル・ナイトに猿を任せても良いだろうか?」

 この二人は実質ペアというか、アウル・ナイトの正体は前に道場で倒した斉藤くんだというのだから同じ流派同士ウマが合うだろう。

 何故かウンディーネは不服そうではあったが、不承不承ながら頷いてくれた。


 「犬はマーテルレッド殿とミカヅチだな。すまないが名も知らぬ騎士殿は帰ってくれ」

 『貴様……っ! この後に及んでまだ私を愚弄するのか!!?』

 率直に邪魔だと伝えたら案の定ナイトくんが怒り始めたのだが、こればかりは居てもらうだけ邪魔なので仕方ない。

 ぶっちゃけランスの赤い閃光が強かっただけで他は並のヒーロー以下なので、居ても巻き添えを食らうだけな気がする。

 「いや、確かにマルギット殿は本隊に戻った方がいい。……いや、前線にいる部隊に合流して本隊には別の伝令役を向かわせてくれると有難いな」

 『レッドまで! ……私が直接本隊に戻ってはいけないのか?』

 「アンタがそのまま戻ると本隊の居場所がバレるからな。今本隊を攻められるとマズイんだ」


 マーテルレッドも黒雷の案に賛同したが、どうやら黒雷の付けたGPSに気が付いたらしい。

 ノアの眷属である下位精霊をくっ付けただけなので気付かれないと思っていたのだが、なかなか勘がいいようだ。

 あとナイトくんはマルギットというらしいが、余談でしかない。

 『そうか、ならば言う通りにしよう。……気を付けろよ』

 そう言ってナイトくんはランスを拾い上げこの場を去っていった。

 これで犬と猿の采配は済んだ。

 残るは雉と黒雷のみ。


 「こっちはタイマンだ。日本の空が自分だけの領域だと思うなよ?」

 機械人形に挑発など効かないだろうが、それでも黒雷は雉に対して手招きをしつつ翼を広げる。

 「「「■■■■■■■■■■■■■■■ーッ!!」」」

 三機鬼神が咆哮を上げたのを合図に、黒雷達は三方へと別れて戦闘を開始した。



 ◇



「──以上、裏見 恋歌さんの『笑顔☆満開☆百万点(ピース☆フル☆サイン)!』でしたー! いやー、ド派手なパフォーマンスでしたねー! 思わず火花が顔にかかりそうになってビックリしましたよー!!」

 司会者が何やら不満を漏らしているが、カレンとしては大満足の演奏だったので未だに隣に座る楓と共に拍手を打ち鳴らしている。

 「まさかここにきて新曲を出してくれるなんて……! ボク、このイベントにこられて良かったよ!!」

 カレンもそれには同感なので、無言で楓とハイタッチを交わす。


 北海道でやる予定だったコンサート・フェスティバルでは当時一番人気の曲を演奏となっていたし、今日もその曲だとばかり思っていたので思わぬサプライズだ。

 素晴らしい演奏の余韻に浸っていたところで、司会者が袖口にいたスタッフから何かしらメモのような物を受け取ったのが目に入る。

 「えー……たった今スペシャルゲストの準備が整ったようです! この度は皆様に少々お時間を貰いたいとの事で、プログラムにはございませんが枠を取らせていただきます!」


 スペシャルゲストという事はおそらくキャロルの事だろう。

 つまりようやく、今回の目標達成が目の前まで迫ったという事だ。

 「でもゲストとして登場して何するんだろ……歌うのかな?」

 「さぁ……? その辺は私にもサッパリですね……」

 キャロルがこの場を借りて何をするのかは誰も把握していない。

 彼女が何をするのかは分からないが、敵がその行為を阻止するべく戦力を投入するくらいなのだから余程の事態なのだう。


 「それではご登場願いましょう! キャルロッツェ・エヴィン・グラハムイェーガー第一王女殿下、どうぞ!!」

 やたらと長い名前を読み上げられ登場したのは、華美に着飾ったキャロルと思わしき人物。

 確信が持てないのは髪型と化粧と衣装のせいで自分の中の人物像と一致しないからなのだが、見れば見るほど本当に別人ではないかと疑いたくなるほど様変わりしている。

 「あれ……キャロル……?」

 「聞かれても分かりませんってば」


 「皆様、はじめまして。ご紹介に預かりましたキャルロッツェ・エヴィン・グラハムイェーガーですわ」

 「あ、キャロルの声だ」

 ご本人だったようだ。

 これから何が始まるのだろうかサッパリ分からないのだが、これが今回の作戦の目標なのだからやってもらう他ない。


 お願いだから無事に終わりますようにと、カレンは祈るように瞳を閉じて両手を合わせた。

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