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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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謳え唱え歌え、その御心のままに その10

 未来から来たロボットとナイトくんは言った。

 ラミィ・エーミルは異世界産の機械人形だと予測し、黒雷もまたそれで合っているだろうと思い込んでいたのだが、実情はどうやら違うようだ。

 「……なるほど、未来から来たとなるとこの世界に存在しない規格の部品とも辻褄が合うし、キャロルというたったひとりの少女を巡って戦争まで起こそうというキミらの行動にも説得力があるな」

 その納得理由の八割が昔に観た洋画の知識なのだが、要するにこういう事だ。


 「キミ達穏健派はキャロルの生死はどうでもいい又は生きていて欲しい勢力と組んでいて、過激派はキャロルが生きていたら困るから全力で殺しにきている。そしてどちらとしても、このコンサート・フェスティバルでキャロルが表舞台に立つと困ると言った感じか」


 未来からの来訪者が過去で殺人を犯す理由としては、人為的にタイムパラドックスを引き起こそうというのが大半だ。

 現状の黒雷達に見えている分岐は3つ。

 ひとつ目は『キャロルの生存+コンサート・フェスティバルでの目標達成』。これが今黒雷達が成そうとしている事だ。

 ふたつ目は『キャロルの生存+目標未達成』。これが穏健派が目指す分岐だろうか。

 みっつ目は『キャロルの死亡+目標未達成』。これが過激派が現在狙っている分岐だろう。


 実際には更に内部事情が複雑な可能性もあるが、そういうのは事が終わった後に詳しい奴に聞けばいい。例えば丁度今しがた、過激派の機械人形達を吹き飛ばして現れた偉そうな装飾品を身に付けた機械人形なんかに、だ。

 「……アンタ程の人物の生体反応が乱れたから何事かと思ったら、敵の幹部と当たってたか」

 そう流暢に話す機械人形は、全身が赤色のヒーローのような姿をしていた。

 頭部は恐竜系の戦隊ヒーローを思わせるマスク、腹部と胸元には赤の中に映えるアクセント、関節には広い可動域を見せるボール型ジョイント、背部には途中から二股に別れたマント。

 ──ハッキリ言って、滅茶苦茶カッコイイデザインだ。


 「よっと」

 彼は前転宙返りをしながらナイトくんの所へと飛んできたので、黒雷はあえて迎撃を選ばずに数歩下がる事で距離を置いた。

 彼はカッコよく着地を決めると、黒雷の方を向いて仁王立ち。親指を己へと向けて、高らかに声をあげる。

 「俺は灼竜の牙、マーテルレッド! 見ての通り機械人形(マーテル・ギア)隊の一員だ!」

 彼らの中では機械人形をマーテル・ギアと読むらしい。

 今更正式名称を出されたところで、とは思ってしまうが。

 「自己紹介どうも、私の名は黒雷だ。……キミが穏健派と組んでいるという一派のリーダーかね?」

 黒雷もまた挨拶を返しつつ、情報を探る。

 こういうタイプはきちんと話せばそれなりに情報を吐いてくれるはずなのだ。それが機械人形にも当てはまるかは分からないが。


 「いいや、俺はリーダーじゃない。リーダーは今、王子様の護衛で忙しいからな。代わりに俺がコイツの救助にやってきたってワケだ」

 この発言だけでも現場に王族がいるのとリーダー格の存在が確認できた。ナイトくんよりも話しやすいかもしれない。

 『オイレッド、無闇に喋り過ぎだ。コイツも危険だが、周りにヤツらがいる事も失念するな』

 ナイトくんがマーテルレッドの肩を掴んで諌める。

 このまま会話を続けていれば色々と聞き出せそうだったのだが、流石にナイトくんがストッパーになるか。


 「それで……救助との話だが、そこのナイトくんを連れ帰るのかね? それともマーテルレッド殿が私の相手をしてくれるのかな?」

 ナイトくんには既にGPSを仕込んであるので、そのまま本部へと直行してくれれば襲撃もしやすくなる。マーテルレッドが残るにしても別の部隊を向かわせればいいだけなので問題はない。

 ……そういえばそろそろ、過激派の機械人形達が湧いてくる拠点を他の部隊が制圧し終わった頃合だろうか。

 彼らが予定通りに任務を終えていれば、このまま穏健派の本隊に向かって貰いたいところなのだが。


 「あー……悪いんだが黒雷とやら、事態はどうやら俺が考えている以上に切迫したものになったらしい」

 なんだかバツが悪そうに後頭部を掻くマーテルレッド。何がどうしたのだと黒雷が訝しむ前に、その切迫した事態とやらは向こうから飛び込んできた。

 「あいぼーうぅぅ! 悪いがコイツの相手を手伝ってくれ!」

 「黒雷さん!! お元気でしたか!!?」

 「くそっ! なんなんだこの状況は!? み……ウンディーネ殿、説明してくれないか!!?」


 まるで遠くからぶっ飛ばされたかのように黒雷の下へと飛んできたのは雷瞳ミカヅチとブレイヴ・ウンディーネと……後は秩父山中にて世話になった銀騎士アウル・ナイト。

 そしてその三名を追うように現れたのは、それぞれが高さ20mはあろうかというような巨大な機械人形。

 犬、猿、雉をモチーフにしたらしいその機械人形は、ようやく本命を見付けたかのように黒雷達を睨めつけると奇怪な雄叫びにも似た不快音を鳴らした。


 「俺達と敵対し過激派と組んでいる組織、『オニガズラ』の侵略用最終兵器と言われる三機鬼神。あれを出したということは、アイツらはもう後先考えずに会場ごとぶっ壊そうとしているって事だ」

 マーテルレッドそう言って、黒雷へと向き直る。

 そして右手を黒雷へと差し出し、

 「俺達は目指す目標も違う敵同士だが、打倒過激派としてならば同じ方向を向けるはずだ。一時的でいい、共にヤツらを倒さないか?」

 示されたのは一時休戦の申し出。

 まだ互いに名乗ったばかりで、実力も何も分からないような相手に、だ。


 「──乗った」

 だからこそ、黒雷は“面白い”と感じた。

 この、未来から来たという機械人形。そんな彼になんとなくだが、この時代のヒーローに似ているような印象を受けたのだ。

 だったらもう黒雷は迷わない。

 「過激派を潰して、キャロルの出番が終わった後。……全てが終わった後に我々との話し合いの席を設けてくれるのであれば、我々は全力を以て応えよう」

 これは完全に黒雷の独断だが、このくらいの裁量が出来てこその幹部等級だろう。


 それに多分だけど、彼の返答は分かっている気がする。

 「──乗った」

 全く同じセリフで返された返答に、黒雷はマスクの下で笑みを濃くしながら差し出された手を取った。

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