謳え唱え歌え、その御心のままに その8
「──プラリエッタ轟さん達による『PpPp路地カル』でしたぁ!」
「彼らのグループはね、今北米ツアーの真っ最中って事でモニター越しにはなりましたけどもね。無理言って参加してもらったんですよ」
「海外からの中継なのにタイムラグ無しなんて、技術も急に進歩しましたねぇー!」
壇上の司会者達が小粋なトークで場を持たせている中、澱みなく消化されていくプログラム表を見つめてカレンは小さく溜息をついた。
このコンサートフェスティバルの開催予定時間は最大5時間。10時に問題なく始める事ができたので、予定では15時にアンコールを含めた全てのプログラムが終了する予定となっている。
現在時刻は12時なので、もうすぐ半分といったところだろうか。
「流石に大トリではないとは思いますが……」
カレンもツカサ同様、キャロルがどのような形でこのコンサートフェスティバルに関わるのかを理解していない。
同居生活中にそれとなく聞き出そうとはしたものの、毎回上手くはぐらかされてしまうのだ。
「どうせ見に来るのならばサプライズがあった方が楽しいではないですか」とは本人の談だ。
彼女がこの場で何を成すか、が今回の作戦において重要な項目なので、できれば予定時間だけでも教えて欲しかったのだが……。
「流石に誰かしらは知っているのでしょうけど、外で何も知らずに防衛するのはちょっと気が滅入りそうなのが……」
交代制ではあるだろうが、それでもすでに2時間。スタミナ制限のない無尽蔵の機械人形を相手に防衛戦はしんどいだろう。
先程の休憩の時に戦況ログを確認してみたら、すでに相手のエース機を相手する為に黒雷と雷瞳ミカヅチが出張るような状況らしい。
これで本当に体力が保つのか怪しいところだが、数人ずつでもヒーローが参戦しているらしいので、しばらくは戦況が悪くなる事はなさそうなのが救いか。
「私も出るべきなのでしょうけど……」
カレンが黙って外に出ようとすれば、きっと日向先輩が気付くだろう。未だにシルフィとして正体を明かしていない以上、ここでそのアドバンテージを失うのも勿体ないので動くなとは組織からも言われている。
そして何より、カレンが楓と共に『裏見 恋歌のファンである』という話を日向先輩が知っているのが問題だ。
プログラム表には裏見 恋歌の出番はあともう少し先とある。
それを見ずに席を長く外しては、勘のいい日向先輩なら何かしら気付いてしまうだろう。
あと単純に見逃したくない。
「ままならないものですね……」
自身が無力でない分、こうもヤキモキする事になろうとは。
そこでカレンはふと、日向先輩がヤケに大人しい事に気が付く。
普段の彼女であれば、いくらコンサート好きであろうと一も二もなく飛び出しているだろうに、今日はずっと落ち着いて席に座っている。
水鏡先輩の方はすでに外に出たらしいのだが、この対比は何故なのだろうか。
「そういえば水鏡先輩は外に出たらしいですけど、日向先輩は気にならないんですか?」
(楓、ナイス)
カレンが聞きにくいと思っていた事を、楓が率直に聞いてくれた。
楓だってずっとどうしたらいいかを迷い続けている身として気になっていたのだろう。
その問に対し、日向先輩は欠伸を噛み殺しながら笑みをひとつ。
「気になるっちゃなるけど、司さんが「俺に任せろ」って言ってたんだから大丈夫だろ。美月が出てった分、オレは会場の中で何か起こらないか見張ってる方がいいと思ってな」
そう答えて、日向先輩は眠気覚ましなのか濃いブラックコーヒーを喉奥へと流し込んだ。
なるほど確かに、ブレイヴ・エレメンツは現状グループだが、個々人での戦闘力もかなり高い。
こうして戦力を割いたとしても何か起きた時に対応できるだけのチカラがあるという自負もあるのだろう。
それに兄の強さを信頼して、自身はあまり興味のないコンサートの会場へと無理して残っていてくれる。
役割をきちんと理解している素晴らしい先輩だ。
……まぁそのおかげでカレン自身も身動きが取れないのだけれど、それは仕方ない。
「さて、それではお次はこのお方! 大人気Vシンガーとして早3年! 今年はあの特撮の劇場版主題歌を担当致しました、大輝元 響希さんです! どぞー!」
長らくトークで場を保っていた司会者が、ようやく準備を終えたゲストを紹介しステージを降りる。
次々にスポットライトが照らす中、一層強く照らされた場所にはホログラムによってヴァーチャルシンガーの二次元チックな姿が浮かび上がる。
ココ最近の技術の進歩は凄まじいもので、二次元のキャラクターであってもその場に存在するような立体的な映像を映し出せるようにまでなったらしい。
裏見 恋歌もVドルだが、アレはホログラムを人体全身に投影して別人に成りすましている為、また別の技術なのだそう。
ダークエルダーの最先端技術は多岐の分野に貢献しているみたいだ。
(まぁ、今は楽しみますか)
外の様子は気になるが、それでもキャロルがこのコンサート・フェスティバルで何を成すのかへの興味が勝る。
そしてそれを邪魔しようとする者がいるならば、それを阻止するのがカレン達の役割だ。
(何事も起きないのが一番ですけど、ね)
カレンは無言で特撮グッズとペンライトと団扇を取り出した日向先輩から少しだけ距離を取りつつ、再びスケジュール表へと目を落とした。
◇
一方その頃、ブレイヴ・ウンディーネは大混戦の真っ只中にいた。
何せ会場へと向かって進行する大量の機械人形と、それを防ぐべく立ち塞がるミカヅチとウンディーネら警備隊、その両方へと攻撃を行う謎のグループが現れたのである。
彼らの攻撃は赤い閃光を纏い、光線で戦場を薙ぎつつ隙を見ては防衛線を突破して会場に取りつこうと動くので油断ならない。
「……もう! これではいつまでも黒雷さんのところに行けないじゃないですかっ!」
「耐えてくれウンディーネ! ここをコイツらに突破されたらいつ会場に穴を空けられてもおかしくないっ!」
「まったく、面倒極まりない!」
いつ途切れるかも分からない両戦力を相手にしつつ、ウンディーネは人知れず悪態を吐きながら剣を振るう。
戦場は未だに落ち着く様子もない。




