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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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謳え唱え歌え、その御心のままに その7

 最初の激突は快音だった。

 ランスとトンファーが勢いよくぶつかり合い、衝撃波が周囲の機械人形達をまとめて吹き飛ばす。

 鍔迫り合いならばスーツと“気功”のダブルパワーで強化されている黒雷に分があるが、ナイトくんはそもそも力比べなぞする気はないらしく、

 『死ね』

 その一言と共にナイトくんの持つランスが展開し、内部に秘されていた砲口がその姿を現す。

 その砲口から溢れる粒子は、先程戦場を薙いだばかりの血のような赤い色。


 「そうだと思っていたとも!」

 ただのランスではないと思っていたが、ガンの付く方のランスであったか。

 対し黒雷は後方に跳躍して距離を取り、同時にベルトに嵌められているルミナストーンへと意識を集中させる。

 ルミナストーンはその意思に応え、溢れんばかりの緑光がルミナストーンへと収束、そして。

 『……!』

 「ルミナァァァスビィィィィーッム!」

 両者の光線は同時に発射され、中間地点でぶつかった。


 拮抗していた時間は三秒ほど。どちらも押される事なく大爆発を以て照射は終了し、黒雷は爆煙に乗じて空へと舞い上がる。

 予想通り、ナイトくんは煙の中を駆け抜け黒雷の居た場所へと突撃をかけており、手応えがないと見るや即反転、空にいる黒雷へと穂先を向けてくる。

 「だが遅い!」

 黒雷はトンファーをナイトくんへと向け、雷を針状にして連射。散弾のように飛び散る針が豪雨の如くナイトくんへと襲いかかるが、彼は盾を構えてそれを受ける姿勢を取った。

 

 この雷針は薄い鉄板程度なら軽く貫通するだけの威力を秘めているが、流石に防御を選択する程に盾に自信があったらしい。

 凄まじい音と共に雷針が盾や周囲にいた機械人形達へと突き刺さっていくが、どうやら貫通せずに持ち堪えているようだ。

 「だが二の矢はどうかな?」

 黒雷は空中に浮遊したまま右腕を空へと掲げる。上空にはいつの間にか小さな雷雲が生成されており、その中で生成された静電気が落ちる先を狙い定めている。

 『くっ……!』

 ナイトくんはその状況を一瞬だけ見て、その場で盾を捨て突き刺さった雷針から距離を取った。

 直後に雲から発生した雷が雷針を目掛けて落ちたのだが、ナイトくんは盾を失っただけで無事である。



 「ふむ……?」

 一点気になることがあった黒雷は、一旦仕切り直しとばかりに地上に降りて声の届く距離を保つ。

 これを確認しない事には戦いを続ける事はできないからだ。

 「騎士殿、ひとつ聞かせてもらいたい。貴殿は機械人形ではなく生身の人間だろうか?」

 機械人形にしては動きが生物らしく、咄嗟の時に声を上げる。これで人形であるならば精巧な出来だと評価するだけなのだが、人間であれば話は別だ。


 「……いかにも。して、それがどうしたというのだ」

 親切にも兜の口元だけを開け、人間アピールをしてくれるナイトくん。どうやら声がくぐもっていたのは全身鎧を着ていたかららしい。

 「いや何、相手が人か人形かで手加減するかどうかを決めねばならんのでね。全力を出すのはまた今度となった」

 流石に鎧を着込んでいるとはいえ、黒雷が本気を出すと生身の人間では原形を留める事すら困難になる。

 せめてヒーローや、ダークエルダーの黒タイツ程の防御力があれば話は別だが……日本国外の組織にそこまでの期待はできない。


 「手加減をする、だと……?」

 何かが癪に障ったのか、ナイトくんは肩を震わせ荒々しげに黒雷へとランスの穂先を向ける。

 「極東の島国から出た事もないような弱小怪人が、キャロライン様の元近衛騎士たる私に向かって“手加減”だと? ふざけるなよ貴様!」

 どうやら自分の強さと地位に誇りを持っているタイプの人だったらしく、黒雷の言葉にカチンときてしまったらしい。

 黒雷も本来ならば低姿勢でなぁなぁに流すのだが、“弱小怪人”とまで言われてはそうも言っていられない。

 勝手に頭の中でゴングを鳴らし、レスバの為にとマスクの下で唇を湿らせる。


 「はは、貴殿の目標はキャロルの確保なのだろう? それなら私に手加減“してもらえたら”嬉しいはずではないか?」

 初手の火力は上々。あくまでも“してもらえたら”にアクセントを置くのが基本だ。

 「ああそれとも、目先の名誉に固執するからキャロルのボディガードとして選ばれなかったのかな? 無理もないな、こんな雑魚狩りをして公園にわざわざ山を作っておくほどの“暇人”では、な」

 今のはいい当たりをしたようだ。表情は見えないが、穂先が小刻みに震えているのは視認できる。

 黒雷はネトゲで散々レスバを体感した人間だ、場数が違うのだよ場数が。


 「貴様……! 言わせておけばっ!! 貴様はこの場で原形すら残さず消し炭にし、私に逆らった事を後悔させてやる!!」

 とても心地よい怒声である。こちらの煽りで完全に頭に血が登った相手を見るのはとても楽しい。

 ……しかし、どれだけ楽しくてもどこかでトドメを刺さなくてはならない。でなければ勝手に冷静になってしまい、煽った効果も半減してしまうから。

 なので黒雷はできるだけ優雅に見えるように、紳士らしくお辞儀をひとつ。

 「そういえば名乗り損ねていた。我が名は黒雷。ダークエルダーが六星大将のひとり、双竜の黒雷だ」


 何故このタイミングで名乗るのか、それは続く言葉で更に煽るためにほかならない。

 「ああ、貴殿は名乗らなくて結構。どの道忘れてしまう名だからね。それに……」

 一息。

 「私が名乗ったのはキミが手も足も出ずに負けた相手の名を知っておきたいだろう、という心遣いからだ。有難く思たまえ」

 決まった。

 ブチギレているところにこんな漫画から引用したようなセリフを言われたら誰だって血管が切れそうになるだろう。


 予想通り、ナイトくんは言葉にならない怒りの声を上げている。煽り耐性が低くて笑ってしまいそうになるほど哀れな存在だ。

 「きっ……貴様はっ……!! タダでは殺さん!! 四肢を引きちぎりっ! 顔面を汚物に塗れさせっ! 屈辱的な死をっ!!」

 「あー、もういい。もういいんだ」

 ナイトくんの言葉を遮り、黒雷はヤレヤレと首を振る。

 そして、トドメの一言。


 「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ?」


 『……殺す』

 もはや殺意を全面に出すしかなくなった憐れなナイトくんは、盾を失ったにも関わらず突撃する気満々でランスを構えている。

 流石にここまで煽る気はなかったのだが、何ともいいリアクションをするのがいけないのだ。

 なのでレスバに勝った余韻に浸りつつ、黒雷は上機嫌にトンファーを回し、構える。

 「来いよ、クソザコナメクジ。違うというなら実力を示せ」


 やり過ぎたとも思いつつ、両者は再び激突した。

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― 新着の感想 ―
かつてここまでレスバしたことがあっただろうか、、、ってくらいにはキレッキレだねw
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