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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
352/385

謳え唱え歌え、その御心のままに その5

 空飛ぶウィンドウを追い掛ける美月。

 そのウィンドウは蛇行しながらも迷うことなく道を通り抜け、時には警備員の背後や整備用の通路を通り、とある場所へと美月を誘導した。

 その場所とは一見行き止まりにも見える広い空間。

 しかし数本のレールが壁際まで延びており、その壁はいかにも開きますと誇張するかのような境目が存在する。

 まぁ、つまりだ……。


 「もしかしてここって、カタパルトだったりしますか……?」

 美月の疑問に対してウィンドウは『Exactly(その通りでございます)。ただしただの射出機(カタパルト)ではございません。我々の技術の粋を結集させた電磁式カタパルトにございます』との文章を示す。

 電磁式の所に何やら拘りがある様子だが、美月の不安はそこにはない。

 何せそのレール上にセットされているのは映画などでよく見る戦闘機ではなく、明らかに人が上に乗る事を前提として設計されているような2m程の板状の物体。


 言ってしまえばスノーボード。しかも足を固定するのではなく、板に付いた取っ手を握ってしがみつかないといけないらしい。

 つまりこのウィンドウは、美月に生身でその板の上に乗ってここから飛び出せと言いたいのだ。

 「本気(しょうき)ですか……?」

 このカタパルトは人間用として作られていて、つまりはここから戦闘機などを発艦させる気などないということ。

 それはつまり、人間をただ打ち出す為だけにこの設備を用意したという事に他ならない。

 ……ハッキリ言って正気の沙汰ではない。


 『正気を疑うとは失礼ですねぇ。意外とコレ、人気なんですよ? 本来ならば特記戦力を敵船に撃ち込んで、内部から破壊工作をしてもらおうというコンセプトで用意したものなのでぇ、その“滑空板”以外にもミサイル型や打ち上げ型にも……っと、話が逸れましたね』

 何やら文字の表示速度的にテンションが上がっているみたいなのだが、生憎と美月にはカタパルトに浪漫を感じる事ができない。

 しかし……これ以外に外へと出る手段がないというのであれば………致し方、ないのか……。


 『めちゃくちゃ苦悩しているみたいですが、覚悟ができましたらそちらに更衣室を用意してあるので、中で変身してくださいね。私の権限で船内のカメラ映像には貴女の行動の一切が残らないようにしてあるので、どうぞ遠慮なく』

 至れり尽くせりと言えばいいのか、最初から誰かしらが外に出ることを想定していたような用意周到さだ。

 今回関わったほとんどのヒーローが会場にいるのだから、誰かしらは外の戦闘に参加しようとすると予想はできたのかもしれない。


 『ちなみに今から二名ほどコチラに案内しますので、早くしないと鉢合わせになりますよ? ……更に言うと、外ではつい先程黒雷が出撃致しました』

 「あーもう、分かりましたっ! 行きますよ行かせていただきます!」

 ここまで来てまた席に戻る気にもなれないし、覚悟を決めるしかない。

 更衣室へと入り、変身する前にスマホを取り出し陽達へと手短にメッセージを送信。

 ……一瞬、司さんにも送った方がいいのかと迷ったが、彼も外で警備をしていると言っていたから途中で出会うかもしれないのでいいやと思い、送るのをやめる。

 どうせ送ったところで『必要ないからコンサートを楽しみなさい』と言われるのがオチだろう。


 「……今更ながら、黒雷さんと司さんが同じ戦場にいる状況は珍しいのでは?」

 美月はふとそんな考えが浮かぶ。

 黒雷さんはダークエルダーの一員であり、司さんはダークエルダーと秘密裏に敵対する組織の所属だ。

 最初に司さんと出会った頃は『国家公務員をしつつダークエルダーの監視を行っている』みたいに言っていた気がする。

 あの頃の司さんはただの一般人だったようだが、デブリヘイム事変の後からハクへと変身し戦えるようになったらしい。


 模擬戦の後にさりげなく問い掛けた時には確か……。

 「裏向きの事情は秘密組織に属しているけれど、表向きにはダークエルダーの下請けみたいな立場にいる、ハクの変身者に選ばれたのもその一環……でしたか?」

 なんとなく獅子身中の虫らしいというのは伝わるが、表向きは協力関係ならば今回は共同して作戦に参加している可能性もある。

 黒雷さんとは別部署な為に面識はないが、できる限り追っているとは言っていた。まさか幹部にまで上り詰めるとは思っていなかったらしいけど。

 流石にこの状況で互いに攻撃し合うような事態にはならないだろうけど、どちらも立場というものがあるからどうなるかは分からない。


 「ブレイヴ・エスカレーション!」

 どんな状況でも、対処するには現場に行くしかない。

 美月はようやく覚悟を決め、その身をブレイヴ・ウンディーネへと変身させると、更衣室のドアを開けた。



 ◇



 「……あの、これ本当に飛ぶんですか?」

 覚悟を決めたのはいいが、やはり不安というか疑問は残る。

 『執拗いですね。この“滑空板”は成人男性を一人乗せた状態でも射出後に182秒の滑空に成功しています。三分も飛べたら十分目的地にたどり着けるでしょう?』

 そうウィンドウは自信満々そうに言ってのけるが、怖いものは怖いのだ。

 これならまだ自身の扱う水圧で空を飛んだ方が何倍もマシな気がするが、『射出のタイミングに合わせてシールドを開けるのでこれ以外に戦場へと出る手段はありませんよ』と言われてはどうしようもない。


 「やはり一度誰かに先に飛んでもらってから……」

 『はいはい、発射シークエンスに移行しますので、決してその取っ手から手を離さないでくださいねぇ』

 どうにか先延ばしにできないものかと思案しても、無常にも射出口のハッチは展開し、ウンディーネの乗った“滑空板”は小型のロボットに牽引され所定の位置へと移動していく。

 『6番ゲートオープン。射角20で固定、推定飛行距離ロクフタマル。射線上に障害物なし。上空に多数の飛行物体を確認。いずれも脅威判定1、問題なし。快晴微風、絶好のフライト日和です』

 あからさまにテンションの高いウィンドウは次々と()()()()()文字列を表示しては、ウンディーネが読み終わる度に次の言葉を羅列する。


 ……正直、やってみたいという気持ちは分かるのだ。

 陽ならば間違いなくノリノリで付き合ったのだろうが、生憎とウンディーネは戦争物よりも時代劇の方が好きだったので、この『発進シークエンス』みたいなものにイマイチ乗り切れない。

 だが、それでもやれ、という圧が強い。手元にあるウィンドウは『ウンディーネのセリフ』まで指図してくるし、それを言わない限り発進しないとまで豪語する。


 「……やりますよ、ここまできたら」

 何せもう次のヒーローがこの格納庫に到着して、自分の順番が回ってくるのをワクワクしながら待っているのだ。

 行くしかない。

 「スゥー……ハァァァァァ……」

 覚悟を決め、いざ。


 『発進シークエンス完了。ユー ハブ コントロール』


 「アイ ハブ コントロール。……ブレイヴ・ウンディーネ、出ます!」


 そのセリフと共に強烈なGがかかり、ウンディーネを乗せた“滑空板”は物凄い勢いでレールを滑走し外へと押し出される。

 本当に一瞬だけ開いたシールドの穴を通り抜けた先は、かつて邪神戦線の時に見たような大軍勢との衝突戦だった。

 どこからでも湧いて出てくるような機械人形の大群を相手に、数多の黒服達がそれを迎え撃つように展開している。


 「黒雷さんは……分かりやすいなぁ」

 北海道で空を飛ぶようになったとは聞いていたが、実際に見ると本当にワイバーンによく似た者が空を飛び機械人形達と戦っている。

 かなり優勢のようだが、いかんせん数が多くて攻めきれてはいないようだ。

 「今行きますからね」

 割と良く飛んでくれる“滑空板”を傾け、ウンディーネは黒雷の下へと向かう。


 キャロルの出番は未だ遠い。

 “滑空板”とはどんな物かと言いますと、ナ〇シカのアレとかティア〇ンの翼のゾナ〇ギアとかそんな感じのやつです。

 電磁式カタパルトは黒タイツ達に大人気なので、応援要請があれば中の待機組がカタパルトを使って外に飛び出していきます。その為に待機組を勝ち取った者達もいます。

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