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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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謳え唱え歌え、その御心のままに その1

 朝6時。

 コンサートの開演は10時の予定だが、関係者は今からでも会場入りして準備をしなければならない。

 当然ゲストたるキャロルも早めに道場を出ねばならず、その移動中はどれだけ防御を固めても要塞化している道場を攻め落とすより楽だと誰でも考えるだろう。

 だからどう対処すればキャロルを無事に会場まで送り届けるか、それが今日の最初の任務となる。


 街中で対物狙撃銃なんかを使う輩を相手に大統領専用車両や戦車を持ち出しても棺桶にされるだけだし、地下道は捕捉された時点で文字通りの袋のネズミ。

 空を自由に飛べたって、相手に航空戦力が有ることも確認済だ。

 過去にツカサ達を北海道まで飛ばした『鬼灯』は現在再建中。使えたとしても着地をどうするか等の問題は付きまとう。

 ではどうすればよいのかと言うと……。



 ◇



 ギィィィイ……と重苦しい音を立てて、道場正面の門が開く。

 ヒーローには目もくれず、キャロルを発見し次第自爆特攻を仕掛けるようプログラムされた機械人形達は、本命が出てくるのを虎視眈々と狙っていた。

 きっと大勢のヒーローに囲まれ、林の中に木を隠すが如く守られているものだと誰もが予想していたのだろう。

 だが現実はそれよりももっと奇怪だった。


 まず最初には出てきたのはキャロルだった。

 周囲には誰も連れず、剣を片手に堂々とした様子で門から出てきたのだ。

 次に出てきたのはキャロルだった。

 二丁拳銃を握り締め、時折威嚇するように周囲に銃口を向けては数秒静止する変な様子だった。

 その次に出てきたのは五人組のキャロルだった。

 次にキャロルが出てきてその後に続くようにキャロルが現れ、そのキャロルを追うようにキャロルがキャロルを引き連れて現れて……。


 そうやって門から現れた約50人ものキャロルらは、示し合わせるわけでもなく別々の方向へと移動を開始する。

 道路を全力で走る者、塀の上を歩く者、屋根へと飛び移り駆けていく者。それぞれがキャロルの姿形を保ったまま散っていく。

 これに困惑したのは機械人形の側だ。

 彼らは全ての個体にカメラが備え付けられ、キャロルの外見データと一致する者を攻撃するようにできている。

 しかし同時に、目標が複数存在した場合に混乱してしまうだけの知能も持ち合わせていたのだ。

 キャロルを攻撃しないといけないが偽物相手に自爆特攻をしても意味がないと考えてしまい、行動が鈍る。

 その間にも大勢のキャロル達はそれぞれの移動手段で離れていってしまう為、機械人形達は仕方なく互いに役割分担を行ってバラけた。


 結果的に、外に出たキャロルは全てヒーロー達が忍術によって姿を真似ただけの偽物だった為に返り討ちに遭い、道場前に残った機械人形達も突然の落雷によって撃破されたので奇襲作戦は失敗に終わったのだった。



 ◇



 外に出たキャロルが全員偽物だとしたら、本物のキャロルはどうしたのか。

 それはもう至極簡単な事である。

 道場から出たら襲撃されるのであれば、道場から出ずに移動すればいいだけだ。

 「もう目隠しを外しても構わないよ」

 ツカサはキャロルにそう声を掛けつつ、今しがた使用したワープ装置をヴォルト・ギアへと格納した。

 「……突然薄暗い倉庫の中で目隠しを付けるように言われて、黙って指示の通りに進んだら外してもいいって言われるの、理解が及ばないのでキッチリ説明が欲しいですわ」

 文句を言いつつも、キャロルはさっきまで居た倉庫とはまるで景色が変わっていることに驚きの表情を浮かべる。


 そりゃあ誰だって、染み付いた汗の匂いが鼻につくような倉庫の中から一瞬でコンサート会場の控え室へと移動していたら驚くだろう。

 ツカサはキャロル本人にどう移動するかを説明していないし、何ならヒーロー達にも『我に秘策あり。何とかするから任せてくださいよ』と詳細を説明しなかったのだから。

 やった事は単純で、会場にワープ装置の出口側を設置してもらっただけ。会場の設営はダークエルダーの担当だから怪しまれる事もないし、キャロルを危険に晒す心配もない。

 後は入口側のワープ装置を設置して移動をし、道場に残っている筋肉部隊に片付けてもらえれば証拠隠滅もできる。


 ワープ装置はダークエルダーが社畜達を矯正施設に送り込むのに使う常套手段なのでヒーローの巣窟となっていたあの道場で使うのも怖かったのだが、一応信用は勝ち取れていたらしく誰もツカサを疑う事はなかったらしい。

 「こ、ここはどこですの!? 司様は瞬間移動も使えますの!?」

 「まあそこは企業秘密ってことで」

 今更になって『実は悪の組織の一員でした』と伝える必要はないだろう。

 今日で決着が付くのだ、変に薮をつつく気はない。


 「じゃあ、ここがキミの控え室になるらしいから好きに使って。一応必要な物は揃えたらしいけど、足りない物とかあれば内線1番に連絡してくれれば用意するらしいから」

 詳しい説明など受けていないツカサは、とりあえず分かる範囲で伝えてドアノブに手を掛ける。

 そっと開けて廊下を見回すと近くに警備員が複数名。ジェスチャーでゲストの到着を知らせると、ひとつ頷いてインカムで連絡を取り始めた。

 後は彼らに引き継いでも構わないだろう。


 「待ってくださいな! 司様はどちらに行かれますの?」

 最後にサムズアップだけして出ていこうとすると、何故かキャロルに呼び止められた。

 「どこって……会場の警備に回らないと」

 ツカサは一応特記戦力として今回の会場警備には必須要員となっている。

 流石に即出撃という事態にはならないだろうが、待機するにしても警備員の待機所が用意されているのでそちらで待つのが合理的だ。

 入場が始まるまではシールドで守られているとはいえ、いつ何時攻めてくるかも分からない敵が相手なのだから油断はできない。


 「キミの護衛はスズと枢さんに任せてるから安心して。二人とも凄腕の忍者なんだから」

 その凄腕の忍者は二人して何故かキャロルの後ろでキャロルの姿をしたままジョ〇ョ立ちをキメているが、すっかりダークエルダーの朗らかな雰囲気に慣れたようで何よりだ。

 「それじゃ、また後でね」

 暗に約束は忘れてないよというアピールをしつつ、ツカサは控え室を出て待機所へと向かった。



 ◇



 「ふぅ……」

 司が出ていった後、キャロルは大きく一息ついてソファへと腰掛けた。

 凄腕の忍者さんとやらは既に姿が無く、しかし呼べばすぐに来れるであろう距離にいるのは間違いないだろう。

 「……まだ少し、早いですわね」

 開演時間まではまだ遠く、キャロル自身はあまり準備の必要性がないので手持ち無沙汰なのだ。

 出来ることならあの場で司を引き止めて、しばらく雑談に興じていたかったのだが。


 「まったく、働き者に働くなと言うのもおかしな話になりますわよね」

 本当にあの人はよく働く。

 例え仕事だったとしてもキャロルの為に全ての段取りを行い、こうしてコンサートまで無事に届けてくれた。

 あの王子達の手勢の前でも一切怯まずに、だ。

 「貴方はどんな修羅場を潜ってきたんですの……?」

 恐ろしい程の物量攻撃を「面倒」の一言で文字通り切って捨てる強さの根幹はなんだろう。

 一体どのような体験を経たら、たった一人の人間の為に国家を敵に回そうと思うのだろう。


 興味の尽きない人だ。できたらあの人には……。

 「おっと」

 凄腕の忍者さんがいる前で思わず思いの丈を打ち明ける所だった。

 こんなものを聞かせたら誰だって困惑してしまうだろう。できればギリギリまで心中に留めておきたい。

 「で、あるならば」

 まずは朝食を頂こうかと、キャロルは机に置かれていたメニュー表を手に取った。

 スズ(なんでこの人忍装束になると体型が変わるんだろう……こわっ)


 枢 環(なんでこの人は小道具もなしに声帯模写とかできるんだろう……こわっ)

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