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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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祭りの前日 その4

 「……キミはキャロラインの護衛隊長でハないのカ?」

 「違うが?」

 変人仮面の疑問も分かるが、キャロルの護衛は全員初日に病院送りにされているしツカサ自身は別に隊長とかではない。

 強いて言うならば組織に命じられて防衛を任せられはしたが、知り合いを集めた程度の烏合の衆を『隊』とは呼ばないだろう。


「そもそもあの子ひとりがコンサートにゲスト出演したとして、一体何の問題が起こるというんだ」

 ツカサも含めてキャロルの能力を測ろうとした者達が数日一緒に過ごしたが、至って普通の女の子としか思えなかった。

 ノアやラミィなんかは既に知っている様子だが、教えてくれないのだから脅威ではないのだろう。

 他のヒーロー達にも変わった様子はないし、誰もキャロルを危険視しない事から問題はないと思っているのだが。


 「……既に絆されタ後だったカ? まぁ、聞く耳が無くとも聞かせルだけハしてやろウ。いいか、あの子の能力ハ──」

 変人仮面の声に被さるように、店にあったアンティーク古時計が六度の鐘を鳴らす。

 店内のBGMを適度に遮る程度の鐘の音ではあったが、変人仮面の声はそれでもツカサへと届き、余さず聞き取る事ができた。

 話が終わり、数秒の間。

 「……なるほどなぁ」

 なるほど確かに、その能力は王子とやらが危険視する理由も分かるし、ノアが脅威と看做さないのも理解できる。


 あまりにも単純だが、だからこそ強力だとも言える能力。

 この数日間の出来事を思い出しても確かに、ツカサにも影響が出ていた事はあった。だがそれは全てノアが秘密裏に解除してくれていたのだろう。あの腕の痺れはその為のものだったに違いない。

 全てに納得のいったツカサは、大きく頷いてから変人仮面へと向き直り、「俺の中では結論が出た」と告げる。

 「おお、デハこちらに協力ヲ……?」

 変人仮面は何故かホッと胸を撫で下ろしているようだが、何か勘違いをしているようだ。


 「俺は俺の出した結論に従い、キャロルをコンサートに参加させた上でアンタら両方を叩き潰す」


 「……は?」

 理解できぬと疑問符を浮かべる変人仮面。

 それに対しツカサは、仮面の下で満面の笑みを浮かべながら変人仮面へと人差し指を突きつける。

 「アンタが俺に現在の状況を説明する時、意図的に隠した情報があるはずだ」

 ツカサを警戒して情報を隠すのは理解できる。こんな狐面を付けた人間をすぐに信用できるはずがないし、する方がおかしい。

 だけど、相手に先に話しておかないと“不義理”として受け取られる情報だって存在するのだ。


 「アンタらも機械人形を使ってるんだろ?」


 「……はて、何ノ事やラ?」


 「惚けても無駄だ、こっちは当てずっぽうで言ってるんじゃない。……なんなら具体例も上げてやるよ」


 ツカサは当時に回収して、そのまま倉庫の肥やしになっていた物をテーブルへと出す。

 それは千切れた燕尾服人形の左脚。キャロルと出会った日に襲ってきたアイツのものだ。

 「コイツは道場を襲う機械人形共よりも高性能で作りも一味違うらしい。……どうしてコイツは対話ができて、他の量産型共が喋ることすらできないのかと疑問に思っていたんだが」

 そこでツカサは言葉を切り、変人仮面の出方を伺う。

 彼は無言でツカサを見るだけで、何も言い出す気配がない。


 答え合わせは最後までしろ、という事ならツカサも気兼ねなく言ってやるだけだ。

 「穏健派ってのは、この執事ロボを使ってたんだろ? キャロルを追いかけ回していたのも、俺の頭を吹っ飛ばそうとしたのも、街中でロボを自爆させようとしたのも、全部お前ら穏健派のやった事だ」

 確たる証拠を出せと言われても出せないし、違うと言い続けられたら決定的な反論はできない。

 あくまでもツカサの直感がそうだと告げているだけなのだが、これなら幾つかの疑問点にも筋が通るのだから取り消す気もない。


 「アンタ、俺が交渉事に弱そうだと感じてこれ幸いにと強硬派に罪を擦り付けようとしたな?」

 全て強硬派がやった事だ、穏健派悪くない。そう印象付けできたのであれば確かに巻き返しはできるかもしれない。

 何せ腐っても日本をほぼ征服した悪の組織ダークエルダーと、それに抗う一騎当千のヒーロー達による連合だ。

 キャロルという旗印の下に集った過剰戦力は、矛先を変えるだけで容易に国を滅ぼす事も可能となる。

 それを向けられたくないから襲った事を黙っていよう……という気持ちも理解できなくはないが、実際に対物ライフルで側頭部を狙撃された身からすれば許せない項目がひとつ増えただけだ。


 「こっちは関わってしまったキャロルさえ守れれば、アンタらの国がどんな未来を辿ろうが知ったこっちゃない。勝手に争って勝手に滅べばいいとさえ思っているさ」

 一息。

 「だから明日は互いに争わずに全力で向かってこい。真正面から叩き潰してやるよ」

 ツカサ達の目標はあくまでもコンサート・フェスティバルの成功。そしてそれに付随するキャロルの護衛と会場を攻めてくる敵軍の撃破が必須項目として挙げられる。

 会場の警備は既に蟻の子一匹逃さない厳重体制だ。内部に入り込もうとするならば検問ですぐにバレるだろうし、事前にチケットは全て売り切れている事から正規入場すら困難となっている。

 だから彼らが取れる手段は力押しのみなのだ。


 「……ヤレヤレ。今から謝ったラ赦してもらえタリしないかネ? ホラ、ジャパニーズ・ドゲーザも練習しタんだヨ?」

 変人仮面は思いのほかすんなりと事実を認め、おもむろに椅子から立ち上がるとツカサの横へと回り、

 「確かこうやっテ……両足を揃えテ膝から下ろすンだ、ろ!!」

 土下座をするように見せ掛けた、最小の動きから繰り出されるナイフによる奇襲。

 店内に入っても全身を覆うローブを脱ごうとしなかった為、何かしら仕込みはあるとは思っていたが……よりによってナイフとは。


 「態度を豹変させるにしてもお粗末過ぎない?」

 変人仮面のナイフはツカサに刺さる前に薄いシールドに防がれ、逆にツカサの持つスタンロッドは変人仮面の腹を強かに打ち据えている。

 「……がッ……は………!」

 変人仮面は腹を抱えて蹲り、今度こそ土下座に近いポーズを取った。“気功”も使わず腕力のみでの打撃であったが、接触と同時にそれなりの電撃を当てているのだ。生身の人間であるならばまず数分は身動きが取れなくなるだろう。


 「対物ライフルを防がれた事は知ってて、なんでナイフなんかが当たると思ってたんだ? 素顔すら見せない相手を前にして油断するわけないだろうに」

 ワス〇ナイフか何かの一撃必殺狙いだったとか?

 刺した瞬間に凍結ガスを噴射して内蔵粉砕、とか人体に向けるなよ怖いよ。

 「さて、俺を殺しにきたということは敵対する意思あり、って事で。残念ながら貴方は捕虜だ」

 何もせずに帰るなら放っておいてもよかったのだが、明確に殺意を見せられたら捕縛せざるを得ない。

 メッセンジャーがいなくなるのは問題だが……まぁどの道どちらの派閥も明日には衝突するのだ。互いに潰し合ってくれるなら楽ができる。


 「……おやおヤ、仮にもヒーローが他国の要人ヲ私情で拘束なんてシテ、国際問題にならないとでモ?」

 未だ蹲りながらも、変人仮面は勝ち誇ったかのように笑う。

 「私にハGPSの受信機が付けられテいまス。私ガ無事に帰らなけれバ、政治的にモ問題になりマスよ?」

 だからここは見逃せと、そう言いたいのだろう。

 ……だが、ここでひとつ問題がある。

 「それ、俺に対してはこけ脅しにもならないんだよね」


 まずは脳内でノアを頼ります。

 すると受信機の場所を教えてくれるので外します。

 ついでにその他電子機器類も全てダメにしてもらいます。

 受信機をラミィが手慰みで作った鴉型ドローンにくっ付けます。

 ドローンを飛ばします。

 このドローンにはラミィの分身が内蔵されているので、彼女を電源としていつまでも飛んでいられます。

 とりあえず沖ノ鳥島まで飛んでもらいます。

 以上。


 「と、いうわけでアンタを捕まえて拷問したところで救助はこないってワケだ」

 変人仮面のローブの下に隠されていた暗器の類を全て没収し、ロープで拘束する。

 身体に触れた感触は男だ。セクハラにならずに済みそうだなとツカサは安堵しつつ、久々に社畜回収用のワープ装置を取り出し設置する。

 「ま、待ちなさイ……。捕虜の取り扱いニついてハ国際法に則った上で」

 「黙らっしゃい。……いいか、何やらずっと勘違いして余裕ぶってるからネタばらしするぞ?」


 ツカサはずっと付けていた狐面を外し、その下の素顔……ではなく、素早く装着した黒タイツのマスクを変人仮面へと見せつける。

 外国人とはいえ、日本という国家を相手取り内乱を仕掛けた悪の組織を知らぬ者はモグリというもの。案の定変人仮面は驚愕したような様子を見せてくれた。

 「そう、お前がずっとヒーローだと勘違いしていた相手は、実は悪の組織ダークエルダーの一員なのでした」

 悪の組織が国際法に縛られるか否か、そんなものを論じる暇があったらまだ「助けてヒーロー」と叫び続けた方がマシだろう。


 「そ、そんナ……」

 「今日の食事代だけは奢ってやるよ。しばらく美味い飯は食えないだろうからなぁ」

 実際は三食オヤツ付きで食べさせてもらえるらしいが、間に人格矯正や尋問等が挟まるからしばらくは味が分からないとの噂だ。

 「じゃあな。キャロルの身の安全だけは保証してやるよ」

 それだけ言って、ツカサは変人仮面を装置へと投げ入れる。

 カシワギ博士も通話越しに一連の会話は聞いていたハズなので、後の処理は任せてもいいだろう。


 あとは……

 「店員さん、お会計お願いします」

 「お会計3210円となっております」

 意外とシフォンケーキが高かった。

Q:キャロルの能力はまだ秘密?

A:一応ヒントは出ている。とはいえ現段階では作者の脳内当てクイズみたいな状態なので、ネタばらしまで待っててください。


Q:穏健派と強硬派にロボを売り付けたのは同じ組織?

A:別ではあるけど、根っこの部分は似たようなもの。


Q:変人仮面は何がしたかったの?

A:被害者ぶってキャロルを確保し軟禁か処分してしまいたかった。キャロルを生かしておけばヒーロー連合を上手く使えそうだったので、誰か交渉できないものかと道場の傍で待機していた。

 なんか一番やべー地雷を踏んだ。


Q:A:いりまぁぁぁぁすっ!!

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― 新着の感想 ―
軽く寝ぼけ頭で能力について考えてみました!的外れの可能性大 ノア様が脅威に思わないことから、多分電気系か出力が低いかのどちらかかな?「影響がでてる」という話からも多分操作系?もしくは別のもの? あ…
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