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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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祭りの前日 その3

 何の巡り合わせか、ツカサは現在般若面に導かれて喫茶店にやって来ていた。

 「いらっしゃいま……ヒッ」

 店員さんにドン引きされようと気にせず、般若面はさっさと空いてる席を陣取るとツカサにも座るよう促す。

 随分と図太いというか、全身フード般若面と和服狐面という組み合わせでよく喫茶店に入ろうなどと思ったな……なんて思わないでもないが、キャロルの国ではこれくらい平常運転なのかもしれない。

 これがグローバルってやつかと戦々恐々としながらも、ツカサは般若面と向かい合わせに座り、メニューを広げた。


 「ごっ……ご注文は……?」

 「私ハブレンドとツナトースト、デザートにシフォンケーキをお願イしまス」

 「……あー、私はミルクティーで」

 敵との話し合いをするというのにガッツリ食べるなコイツ。ツカサは帰ったらキャロルのクリームシチューが待っているので控えているというのに。

 ますます人物像が分からなくなってきた般若面を警戒しながら、ツカサはサービスで出された豆を摘む。この狐面は口元が開閉するように設計されているので、食事の時も外す必要がないのは助かる。


 黒タイツの頃からとはいえ、素顔を隠しながら飲食をしなければならない状況というのを見越しているのはなんだか複雑な心境になるが……まぁ、あって嬉しい機能とは言えよう。

 対する般若面は市販品らしく、そのような機能は無さそうに見える。いちいちズラしながら食べるのかと注視していたのだが、

 「フン……私がそう易々ト素顔を見せルとデモ思ったのカ?」

 なんて言いながら、彼はあっさりと般若面を外した。

 般若面の下から出てきたのは……ベネチアンアイマスク。

 仮面の下に仮面を付けていたらしい。


 「変人だ……」

 ツカサが思わず呟いてしまった言葉はどうやら聞こえなかったようで、般若面……もとい変人仮面は口元に僅かな笑みを浮かべながら豆を口に含んでいる。

 「お待たせしました。こちらツナトーストとブレンドコーヒー、こちらはホットミルクティーとなります。デザートは後からお持ちします」

 般若がベネチアンに変わろうともはや今更……なんて死んだ目をした店員さんが去っていき、店内には小さなBGMのみが鳴り響く。


 「さて、早速だガ本題に入ろうカ」

 変人仮面はツナトーストにかぶりつき、咀嚼しながらツカサへと声を投げ掛ける。

 ……てっきりキャロルの兄弟が身分を隠して現れたのかと思っていたのだが、所作からしてとても王族には見えない。

 ツカサ相手に作法を気にする必要はないと考えているだけの可能性もあるが、ベネチアンマスクに認識阻害の効果があるのか人相を読み取れないので考えても仕方のない事かもしれない。

 「私の要求ハただヒトツ。……キャロラインと名乗ってイルのだろウ? あの子をコチラに渡しテ貰いタイ」

 「断る」


 分かりきった答えだ。事情を話さずに要求を通そうなんて、問屋が卸す筈もなし。

 変人仮面も承知の上だったようで、苦笑しながら珈琲を啜っている。

 「ではキチンと説明しヨウか。まず大前提としテ、私はキャロラインの生命を狙う一派ではナイ。……信じろとは言わナイがナ」

 変人仮面はまず始めにと指を立てる。

 「今回の騒動にハ大雑把に3つの勢力が絡んでイル。ある程度の情報ハ把握していル前提で話をするガ……」


 最初の勢力は第一、第三王子の穏健派連合。

 現状維持をモットーに、他国と和平を結んで恒久平和を求める一派らしい。

 ふたりは元より仲が良く、順当に第一王子が王位を継げば第三王子はそれなりの地位が約束されていた。第一王女(キャロライン)に対しては不干渉を貫くつもりであったと変人仮面は語る。

 変人仮面はここの勢力の人物らしく、内乱に巻き込んでしまった妹を救うべく第一王子が変人仮面を遣わしたのだそうな。

 変人仮面にそれを証明するだけの証拠は無いので、半信半疑と言ったところだが。


 次に第二王子と第五位以下の継承権所持者を加えた過激派連合。

 どうやらこちらが主犯格で、軍備拡張をひたすら追い求め他国に負けない最強の国を目指したいらしい。その為には穏健派が邪魔らしく、王位を奪い取るついでに過激派以外の兄妹を皆殺しにするつもりだそうだ。おっかない話だね。

 何やら穏健派の知らぬ内に謎の組織と手を組んだらしく、機械人形はその組織から提供されているとのこと。おかげで穏健派はだいぶ不利に追い込まれているらしい。

 あの物量攻めに勝つには一騎当千の強者達かそれと同等以上の物量を用意しなければならないのだから、国を割った内乱の最中にはキツかろうね。

 継承権を破棄したキャロルくらい見逃せばいいのに……とも思ってしまうが、何かしらの事情が絡むようだ。


 そして最後にキャロルを中心として集まった日本のヒーロー連合。

 つまりツカサ達ダークエルダーも含めたコンサート・フェスティバルを成功させようとしているグループの事だ。

 元々は穏健派が過激派より先にキャロルを確保しようとしていたのだが、成り行きでツカサ達が保護し安全過ぎる場所へと隔離してしまったと。

 おかげで過激派の戦力が分散し穏健派もギリギリ生きながらえているらしい。

 その点については感謝しているとの事。


 「で、なんで劣勢にも関わらずキャロルを渡して欲しいと?」

 何やら今回の騒動のキーパーソンとして狙われているキャロル。今はツカサ達が保護しているので比較的安全なのだが、穏健派に引き渡したら過激派は本腰を入れてそちらを叩き潰すだけだろう。

 むしろほとぼりが冷めるまで保護して欲しいと頼んでくるくらいはするものだと思うのだが。

 「……それニついてハ我々の都合なのだがネ。穏健派も過激派も、トアル一点についてハ意見が一致しているのダ」

 変人仮面はそう言うと、運ばれてきたシフォンケーキをフォークで切り分ける。口に運ぶ手前で珈琲が無くなった事に気付き、店員さんを呼び止めて(もはや店員さんは能面のような表情をしていた)ダージリンをホットで注文。


 「……で、とある一点とは?」

 ツカサは既にミルクティーを飲み終えているのだ。あまり長引かされても腹が減る一方なので早くして欲しい。

 変人仮面は『まぁまぁ落ち着け』とジェスチャーをし、改めてフォークを握ってツカサへと先端を向けた。

 「明日のコンサートに参加すルのを止めたイ」

 フォークを向けたのは敵対の意思か。変人仮面はベネチアンマスク越しにじっとツカサを見つめるのみ。

 ツカサの返答を待っているのだろうか。だとしたらツカサの答えなんてひとつしかない。


 「そんなもの、俺に言われても困る」


 それがツカサのシンプルにして唯一の答え。

 正直に言ってしまえば面倒事過ぎて深入りする気になれなかったので、キャロルがどうしてコンサートに出席するのかすら理解していないのだ。


 微妙に間の抜けた静寂の中、店員さんがポツリと「早く帰ってくれないかなあの変態ども」と呟いた気がした。

 ツカサ:名乗る気は無い。どうせ敵なんだろう?

 早くしてくれないと夕飯に遅れるからちゃっちゃと済ませてもらえないかなぁ……(少しずつ増していく不機嫌オーラ)(段々と殺気に変わり始めている)(俺もシフォンケーキ食いてぇ……)


 変人仮面:できれば友好的に接したいのだが名前を明かすと色々とボロが出てしまう立場なので要点しか話せない。

 元々はフードにベネチアンアイマスクのみだったのだが、日本に到着して早々お土産屋で般若面を見付けて一目惚れしてしまったので着用していた。ツカサの付けている狐面もファンキーで素晴らしいと思っているので、仮面仲間として仕事を抜きに仲良くしたいと考えている。

 (ここのシフォンケーキ美味しい)(コーナーで差をつけろ)(目の前の人間が段々とツキノワグマレベルの驚異に見えてきたが臆したら負けだと思っている)

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