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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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浴場にて声は響く その2

 揉む・揉まないの一悶着は置いておいて、キャロルが発端の口論は徐々にだが熱を帯びていた。

 「とにかく、私はなるべく司様と一緒に居たいのです! だから私も母屋に泊めてくださいまし!」

 と、そう宣うキャロルに対して水鏡は笑顔で「却下」と言い放つ。

 「何故ですの!?」

 憤慨したようにキャロルはお湯をバンバンと叩くが、何故そんな我儘が通ると思ったかと不思議なのはカレン達の方だ。


 「あのですね、母屋は主に私達一家と関係性のある人達を泊めているんです。部屋の鍵も最低限で護衛対象を泊めるのには相応しくありません」

 水鏡はそう言って、如何に宿舎の方が防衛拠点として素晴らしいかの力説を始める。

 要するに数多の防衛機構と陰陽術による多重の結界、更には常駐しているのが女性だけという整った環境。周囲はヒーロー達によって固められ、唯一の出入口には検問も敷いてあると、現時点でこれ以上ない程にキャロルを置くのに相応しい場所があるのに、本人の我儘を聞く通りはないということだ。

 道場自体の防護と合わせれば正に鉄壁というに相応しい護り。

 ……何故ただの剣術道場なのにそこまでの機能が備わっているのかは疑問ではあるが、家の歴史は古いようだし何かしら理由はあるのだろう。聞くだけ野暮というものだ。


 「そ、それなら司様をコチラに泊めてくださいまし! それならば問題はないはずですわ!」

 「いや、問題しかない上に本人が間違いなく断りますけどね、それ」

 思わず、兄の代わりにとカレンが口を挟む。

 あの兄が好き好んで女性だけの園に泊まりたいとは絶対に言わないだろうし、限界まで譲歩したとしても玄関前にテントを張って野宿をするくらいだろう。兄ならば距離的に母屋からでも数歩で宿舎まで辿り着けるので、やるだけ無駄な行為だ。


 「ぐぬぬ……」

 どうにかあの兄の傍に居たいと知恵を絞っているようだが、周囲の人間からしたら『あと二日くらい大人しく待っていてくれ』というのが正直な感想だろう。

 せっかく全国からヒーロー達が集まり、機械人形迎撃のローテーションを組んで活動しているというのに、肝心の護衛対象が我儘を通して好き勝手していたら対処しきれなくなるかもしれないのだ。

 兄の事はひと夏の淡い体験だったと思ってくれた方がカレンとしては有難いくらいである。


 「……あっ、そうですわッ!」

 唐突に、露骨なまでの笑顔を浮かべてキャロルがパンッと手を叩く。

 その視線はまっすぐカレンの方を向いており、唐突に矛先が向けられた事で非常に嫌な予感がしたカレンは楓を盾にして逃れようとしたが、

 「わぷっ」

 【あら、急に浅瀬で走ったら危ないわよ?】

 お湯に脚を取られ、倒れ込んだ先には貂蝉アンコウの豊満な双丘。

 ごめんなさいっ! と本気で謝りながらも埋めた顔を持ち上げるために仕方なくその豊満な双丘を触り、一瞬幸せな気持ちになったのもつかの間。


 「捕まえましたわ!」

 カレンの背後から抱きしめるようにしてキャロルが抱き着いてきた。

 「わぁっ! すっごいスベスベのお肌が背中にぃ~!」

 カレンもどうにか逃れようと足掻くが、キャロルの細腕のどこにそんな力があるのか、全く拘束が外れる事はない。

 「アナタ、邪神騒動の時にもお会いしましたわね。司様の妹さんなんですって? ……大丈夫です、危害は加えませんわ。ただちょ~っと情報提供をしてくれれば、それなりの報酬はお約束致しますわよ」

 ぬるりぬるりとキャロルの細指が肌の上をなぞるように動く。流石に変な所を触ろうとはしないようだが、それでもなんだかエロい動きだ。


 「お断りしますぅ! 私は諸事情でアナタの味方をするワケには……」

 カレンとしては楓の恋を応援したい。それが成就であれ玉砕であれ、挑む前から終わってしまう恋では寂しいではないか。

 だから些細な情報提供だろうと、仮想敵であるキャロルにアドバンテージは渡すまいと抵抗を試みている。……のだが、そっとキャロルがカレンの耳元へとその唇を寄せると、

 「先程のやり取りは聞こえていましたわ。どうでしょうか。対価として私の胸を触ってもよい、という話ならば……」

 と囁いた。


 その美しきロイヤルおっぱいを触ってもよろしいのですか!!?


 なんて大声で叫びだそうとした口を必死に押さえ、カレンは自らの意思で水面へと頭を叩き込んだ。

 兄の会話をたまたま傍受してキャロルが王族だと知ってしまった為、下手に触れないようにと距離を置いていたカレンなのだが、ここにきてその身体に触れても良い等と言われるとは思ってもみなかった。

 というか小国とはいえお姫様の胸など触ったら不敬罪で処刑されたりしないのだろうか。しかし本人が良いと言っているのだから、関係者のいないところでかつ証拠を一切残さねば問題ないような気も……いやそれよりも友情を優先すべきであって……。


 一秒、二秒、三秒……三十秒程の葛藤の後に顔を上げ、カレンは不敵な笑みを浮かべながらキャロルの方へと顔を向ける。


 「……ふふふ、残念でしたね。そんなものでは私達の友情は壊せませんよ」


 「質問への回答ひとつに付き一揉み」


 「揉むっ!? 触るでなく!?……くっ、ですが私は……」


 「二揉み」


 「うっ……ぐぐぐっ………」


 「三揉み」


 「わ゛、私゛は………絶対゛に゛……ま゛げな゛い゛……!!」


 「五揉みと頬擦りを許可いたします」


 「───あ」


 プツンと、カレンの中で何かが切れた。

 もはや力の入らぬ四肢で必死になりながら、倒れ込むギリギリのところで四つん這いを維持し、波紋に揺れる己の鏡像へと向き直る。

 そこには情けなくも心を折られた敗北者の顔が写り、目元から落ちた水滴の波紋が一重二重とそれをかき乱していた。

 「フッ──呆気ないものですわね。私は先に上がっていますから、なるべく早く来てくださいましね?」

 勝者の余裕とはこの事か。先程まで日向や水鏡に対してレスバを挑みぐぬぬと唸っていた様相は何処へやら、キャロルは颯爽と湯船から上がり、身支度を整えて脱衣場へと出ていった。


 後に残ったのは敗北者と、小声でのやり取りが聞き取れなかった者達だけである。

 「あの……歌恋、大丈夫?」

 あまり事情の分からぬ土浦だが、『OTZ』の状態から動こうともしないカレンの様子を恐る恐る伺う。

 その声掛けにカレンはゆっくりとだが顔を向け、「楓」と小さく名を呼んで。

 「私を……私をふしだらな女と笑ってください……」

 「いや意味わかんないし」


 紆余曲折あって最終的にキャロルの胸を50揉みくらい堪能した。周囲のヒーロー達はキャロルとカレンが邪神戦線時の被害者同士なのを知ってか、二人で密室に閉じこもっても不審がらなかったそうな。



 ◇



 一方その頃、男湯では。

 「……そして、ここをこうすれば。このように水を操れるワケです。“気”と違って液体なので、陰陽術を少しかじればこのくらいはできるのですよ」

 「「すげー!」」

 と、印を結んで曲芸師のように水を操る真人と、それに興奮して自分でもやれないかと必死になって講説を聴くツカサと星矢の姿があった。

 女性側がヤケに静かだろうが気にもとめない人達である。

 気が付いたら今年の更新もあと1回ですね?

 本当に終わらせる気があったのか疑問に思うくらい遅遅として進んでいませんが、次からようやく話が進むかと思います。


 たった五日間をどれだけ引き延ばしたんだ……?

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