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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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浴場にて声は響く その1

 カポーン……と、誰が鳴らしたでもない音が浴場へと響く。

 「ふぅ~……」

 いい湯ですね、と誰に対してでもなくカレンは呟く。その音は割と大きな音となって反響するが、それを咎めたり気にしたりする者はここには居ない。


 ここは水鏡家が敷地内に作った大衆浴場、所謂銭湯である。

 普段は門下生や周辺住民の為に解放されていたが、機械人形の襲撃もあってここ暫くは閉鎖していた。しかしヒーロー達が道場に常駐してくれるようになったので、せめてこれくらいはと無料解放してくれたのだ。

 模擬戦から帰った皆は砂や土埃で酷い有様となっており、水鏡 真人の勧めもあってみんな揃って一番風呂を頂いているのである。


 「自宅の敷地に道場と銭湯が建ってるとか、水鏡先輩の家はお金持ちだねぇ。ボクも(あやか)りたいものだよ~」


 「今後も通えばいいのでは?」


 「ボクは拳闘士スタイルであって剣は専門外なので、剣術道場通いはちょっと……」


 「銭湯だけならば通えるでしょうに……」

 いい感じのお湯加減ですっかり極楽モードへと移行した楓と駄弁りながら、カレンは髪に巻いたタオルを湯につけないように気を付けつつ「ほぅ」と息を吐いて……おもむろに湯を手のひらで掬って匂いを嗅ぐ。

 銭湯ならばただのお湯の筈なのだが、何故かフワリと香る硫黄の匂いが鼻をついたのだ。

 「ああそれ、ウェンディちゃん……水の精霊が浄化したところに、ボク達が温泉っぽい成分になるように鉱物を溶かしたんだ。おかげでい~感じになってるでしょう?」

 ボク達……というか土の精霊ノームのチカラということか。確かに『鉱物の混ざった適温のお湯』を作れるならば、人工……精霊工? 的な温泉も作れるのだろう。


 地下水脈から汲み出してこない分、その場限りの温泉ではあるが、それでも自分達で楽しむ分には問題ない。

 まぁ問題はあるにはあるが。

 「温泉はいいですが、硫黄の匂いは少々マズイのでは? 流石にこの人数が外に出て温泉の香りを漂わせたら、皆さんに期待されますよ」

 ここは銭湯であって温泉施設ではないのだ。流石に大浴場いっぱいに温泉の素を入れました、という言い訳も通用しないだろう。

 「おっと、それもそうだね。最後にウェンディちゃんのチカラできれいさっぱり洗い流してもらってから上がるべきかも」

 好意でチカラを貸してくれている精霊に対しておんぶにだっこで良いのかと不安になるが、残念ながら今の水鏡先輩達は忙しそうで聞くに聞けない状況だ。最悪の場合は密かにシルフィに頼んで匂いを散らして貰おうかと思案しながら、カレンは先程から騒がしく話し合っている集団へと目を向けた。


 ◇



 「全く……皆さんで司様を独占など、あってはならない事ですわっ」

 そう言って心底怒ってます、と全力アピールをするキャロルと並び、宥めるようにしているのは日向や水鏡ら『先程まで司を独占していた組』。

 要するにキャロルは模擬戦七番勝負の間、司と離れて隔離されていた事を怒っているのだ。

 たった数時間の間だと言うのに、何をそんなに……とカレンからすれば思ってしまうが、まぁあの兄は妹であるカレンの知らないところでフラグを立てて回るのが趣味らしいので気にするだけ無駄だろう。

 もちろん恋愛フラグを1、死亡フラグを4の割合である。

 残りの五割で兄に敵対した相手が滅ぶ。アクティブに動き回って外敵と接触したら討ち滅ぼすとか、兄は死神か何かだろうか。


 「まぁまぁ、そろそろ落ち着きなってキャロル。たった二時間とかそこらだし、な?」

 メロンでっ……ではなく、日向先輩が何とか宥めるようとキャロルに話し掛けるが、今は火に油を注いでいるようなもの。

 あれは間違いなくEかFはあるんじゃないかという思考はさておいて、少々小ぶりながらも美しい形を持つキャロルは日向先輩へと向き直る。

 「ねぇ歌恋、キミからすっごい邪な圧を感じるんだけど……どこ見てるの?」

 「お気になさらず。私はただの壁にしておっぱいソムリエなので」

 「何それ!?」

 「大丈夫、私達はまだ成長の余地がありますから」

 「どうしちゃったんだよ歌恋!? なんかキミらしくないよぉ!!」


 楓に肩を揺さぶられながらも、耳は会話に集中。収拾がつかないようであれば風呂上がりの兄をキャロルに献上する事も視野に入れつつ、いつでも割って入れるように準備はしておこう。

 「皆様にとっては“たかが二時間”ですけどもね、私にとっては司様と過ごせる“貴重な二時間”なんですのよ! イベントまでになるべく一緒に居たいという気持ちを理解してくださいませ!」

 日向先輩の言葉に噛み付くようにキャロルが反論する。

 まぁ確かに、カレンが聞いた話によればこの護衛という名目のお泊まり会は『コンサート・フェスティバル』当日までが期限の筈だ。


 そこでキャロルの事情に一区切りが付くらしく、その後はおそらくほとぼりが冷めるまでダークエルダーの下で保護という形になるのだろう。

 つまりキャロルと兄はそれまでの関係であり、キャロルが向けている矢印に対して兄が振り向かねばその後の関係性は絶望的である。

 あの朴念仁を落とすのにたった五日間とは、かなり無茶と言わざるを得ないだろう。

 あの兄はアレでいて女性を信用していないのだ。長年ネット文化に触れていたせいなのかは分からないが、自分に対して好意を向ける相手なんて存在しないと半ば盲信しているし、女性の吐く言葉には必ず裏があると思っている。


 兄はあまり過去の話をしようとしないが、特撮オタクとして後ろ指を指されて生きてきたのだろうし、誰かと付き合ったという話も無いことから童貞を拗らせている可能性もある。

 そんな逃げ腰チェリーボーイの好感度を一週間足らずで稼いで物にしろ、というのも酷な話だ。

 「えーっと……その、だな。キャロルは、司さんの事が好きなのか?」

 あまりにもあんまりなド直球。

 女湯にいた誰しもが身動きを止めてしまうような質問に、カレンは思わずシルフィに頼んで男湯に音が響かないように処置してもらった。

 流石に壁越しの本人に聞かせる話ではないだろう。


 「すっ……! き、とは断言できませんが……。それでも、良い人だと思いますわ! 容姿はそこそこだし声もあまりタイプではありませんけれど、二度も助けて頂いて、こんなに良くしてくれるんですもの! 惹かれているのは間違いありませんの!」

 堂々と、しかし言い切れない感じの発言に、同じ男(兄)を好きになった者として楓が物凄く()()()()()いるが、こちらはまぁ接する時間がキャロルより長いのでヘタレなのが悪い。

 ヘタレなのは兄も楓も、ではあるが。


 「お、おう……。いやまぁ、ノリはいいし話も合うしで悪い人ではないとは思うけど。司さんはなんか、本性を隠してるっていうか、無理してあのキャラをやってるって感じじゃないか?」

 日向先輩の言う通り、兄は普段からロールプレイ紛いのキャラ作りをしている。

 家での態度はどうしようもないダメ人間なので、私の存在とラミィさんの甲斐甲斐しい努力のおかげでギリギリ一般人並に留まっているだけである。

 風呂上がりにドライヤーも使わずスキンケアもしないし、自炊はほとんどしない惣菜と出前とカップラーメンの食生活。挙げ句の果てに消耗品の類いは全て安物とか、人生舐め腐ってるとしか思えない。


 「それもまたいい味が出てますわ」

 驚くことにキャロルは肯定的らしいが、いつかボロを見せた時にどう態度が変わるか見物ではある。

 ……いや、私は楓の恋を応援するべきなのに何故キャロルが兄とくっ付く所を想像しているのだ。

 なんだか傍で話を聞いているだけなのにイライラしてきた。

 あの兄が悪いのに、何故私がこんなに気を揉まねばならないのか。揉むのならあの巨大なマスクメロン方が断然いいに決まってるのに。


 「ねぇ歌恋、邪気が物凄いよ? もう上がる? それともお祓いいく?」


 「……ねぇ楓、お願いがあるのですが」


 「うん、何? 部屋まで付き添う? それともお水かな?」


 「揉ませてください」


 「………………は?」


 「揉ませてください」


 「いや聞こえなかったとかじゃなく」


 「大丈夫です、私はこれでも同級生20人くらいは揉んで大きくした実績があるので」


 「前科あり!? そして何を揉むと言ってないのになんだか分かっちゃったよボク!! そして何も大丈夫じゃない!」


 「同級生曰く『テクニシャン』らしいですよ、私」


 「だから何!? ヤダよ、絶対揉ませないからねっ!!」


 「ちぇー。じゃあ仕方ないので……椎名さん、如何ですか?」


 「コラ、他の人を巻き込むな!!」


 「では楓、揉ませてください」


 「ダメって言ってるでしょうがっ!!」


 ワーワーギャーギャーと騒ぐ声は、いつまでも男湯には届かない。

 カレンがバイ・セクシャルというわけではなく、『柔らかいモノを揉みしだきたい』という欲求が人より強いだけです。

 なので部屋には大量のぬいぐるみが置いてあるし、同級生の胸を揉む為だけに専門知識を全力で吸収したりもしました。

 お気に入りは実家で飼ってる犬っぽい狸の『ゴンザブロウ』。小一時間揉みほぐしてぐでーっとなってる所を眺めながら揉むのが快感らしい。

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