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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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模擬戦七番勝負 その10

 普段の2倍くらい長いですがご了承ください(心情まで書いてたら筆が乗ってしまった)

 互いに本気を出したハクとサラマンダーが激突する。

 その余波だけで空気は振動し大地は捲れるが、ふたりは何事もないかのように己の持つ全てをぶつけようと手数を重ねる。

 「「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」

 互いの口から漏れるのはずっと笑い声だ。

 それは己の全力を出せる事への悦びであり、全力を出してもなお倒れない相手への畏怖であり、笑う事しかできない状況への諦観等を全てを引っ括めた笑いだ。


 ……つまるところ、両者の実力は最初の数手で分かるほどに拮抗していた。

 もちろん互いに見せていない手札もあるし、切札もあれば搦手だろうと用意はできるだろう。でもそれはあくまでも『相手を倒す・殺す』場合の手段であり、模擬戦という場面で扱うものではないのだ。

 そして何より、互いに己の実力を知りたいという思いがこの状況を産んでいると言ってもいい。


 ハクは“気功”の使用を制限し、緩急をつけた戦闘を好むはずなのに相手の出方を待つカウンター型の戦法をとっている。

 これはサラマンダーのファンとして強いところが見たいという欲求もあるが、敵として戦い慣れた大槍ではなく短槍二槍流という未知の流派を相手取る為の様子見も含めている。

 サラマンダーは初お披露目の短槍二槍流による攻め手がどれ程有効なのかを知りたくて、他の手を使おうとしない。何せこれは槍の師匠が一子相伝の技だからと教えてくれなかった物を見様見真似で会得し、鍛錬を積んでようやく形となったものだからだ。

 ハクほどの手練に有効なのかどうかを試す為に敢えて解禁したこの技を崩されるまで、サラマンダーは攻め手を変える気はない。

 そうして成される戦場は、サラマンダーが修練場内を駆け回り中央に陣取るハクへと猛攻を仕掛ける、狼の狩りのような激闘である。


 多方面からサラマンダーが槍で突いたり槍を投げたり槍を蹴ったりして攻撃を仕掛けてくる中、ハクはそれを盾や尾で捌きつつ、時折サラマンダー目掛けて尾や剣を振るう。

 修練場という全天シールドによって囲まれた閉鎖空間の中が竜巻の被害にでもあったかのように荒れているのは、偏に互いの攻撃力が高過ぎるというのもあるが……。動き回るサラマンダーへとハクが攻撃を振るった結果、余波が全て地面やシールドに叩きつけられるという結果になっているのだから仕方ない。


 「司さん、どうやってそこまで強くなってんだよ!?」

 サラマンダーから届く理不尽に対する抗議。しかしハクとてそれはお互い様の為、返す言葉はたったひとつ。

 「目標となるヒーローが居るからな!!」

 それが特撮オタクとしてハクの……ツカサの本音。ずっとブレイヴ・エレメンツのライバルとなる事を目指し、その活躍を傍で見ながら強くなろうとここまで来たのだ。

 ようやくブレイヴ・サラマンダーと互角の戦いを演じられるようになった今、その本懐を達成しつつある悦びと共に、次なる目標がツカサにも生まれつつある。その目標はまだ誰にも話す事はできないけれど、それでも。


 「君達がより強くなってくれれば、私も嬉しい!!」

 ハクはそう言って笑い、一瞬で全ての尾を倍ほどに膨らませるとジェット噴射のようにそのエネルギーを放出し、前へと飛び出す。

 守勢をやめ、攻勢へ転じる時間だ。



 ◇



 (こ、な……くそっ!!)

 サラマンダーは眼前へと迫った刃を短槍二本を交差させる事で受け止め、弾く。

 即座に追撃を警戒するが、ハクはまるでサラマンダーの体勢が整うのを待っているかのように切っ先を揺らすばかり。

 (速度を上げた……だけじゃないな。まだ腕が痺れてるし……)

 今の一撃を受け止めただけで後遺症のような痺れが残っている。速度はまだしも受け止めた衝撃は先程までとあまり変わっていないにも関わらず、だ。

 「……さてはその尻尾の効果だな!?」

 サラマンダーは短槍に炎を纏わせ投槍しながらハクへと問う。七つも精霊のチカラをぶら下げながら、今までは鞭のように振るう攻撃しか使用してこなかった。それを解禁したのだろう。


 「正解。それで、どうする?」

 対して、ハクの答えは非常に淡白なものだった。

 サラマンダーの投げた槍を盾で受け止め、そこからハクを焼き尽くさんと燃え広がる炎を同じ属性の尻尾が吸い取り、吸収する。

 また奪われてしまわぬよう慌てて槍をワープさせ手元に戻すが、それに触れた瞬間、

 「バーン♪」

 ハクが愉快そうに言うのと同時、槍に触れた指先から全身へと電流が走った。


 「ガッ──!?」

 一瞬、何が起こったのをサラマンダーは理解出来なかった。

 大精霊アスカの加護により、大抵の攻撃には耐性を得ているはずなのに意識を奪われかける程のダメージを受けるとは。

 実際は攻撃ではなく神経を麻痺させる電流を槍に流し込まれていて、それに触れてしまったというのが真相なのだが、サラマンダーにそこまで思考する余裕はない。

 思わず膝をついて倒れ込みそうになる身体を、槍を地面に突き立てる事で何とか維持したのもつかの間、左右からサラマンダーを挟むかのように二振りの尾が走る。


 水と雷。

 一時的に麻痺した思考でも受けたらマズいと分かるその組み合わせを見て、サラマンダーは必死に膝を震わせ地を蹴ろうとするも、何故かその足は動かず。それどころか沼に沈むかのように足が地面へとめり込んでいく始末。

 (これは、ノームの……!?)

 機動力を奪われ回避は不可能と判断したサラマンダーは、咄嗟に全身から全力で炎を生み出し、己を中心に大爆発を起こすイメージでそれを広げる。

 爆炎と尾が触れ、尾が負けた。流石に上位精霊に敵うほど強いチカラではなかったのか、二振りの尾は綺麗に弾け飛んでくれたのだが。


 「悪くない答えだけど、次に繋げる事ができないとまた後手に回るよ?」

 その声が響いたのはサラマンダーの背後。そして首筋に冷たい何かが触れ、その感触にゾワリと鳥肌が立つ。

 咄嗟に背後に炎を拡げ牽制したのだが、気が付けば背後に気配はなく、先程と同じ場所に未だにハクが立っていた。

 何が起こったと疑念を巡らせる前に、ハクが堂々と尻尾の内のひとつを掲げ、振っている。

 それはたった一本だけ毛色が違う『幻属性』の尻尾。

 つまり一時的にとはいえ幻に五感を狂わされ、背後にハクが立って剣を突き付けているかのような錯覚を見せられたのだ。


 「あー……くそ、厄介だな」

 失念していたわけではないが、ハクは現在七種のエレメント能力を自在に操れる超人。

 出力はサラマンダー達に及びはしないものの、手数としてならばハクの方が断然多い。

 そして小手先勝負となれば異様に強いのがハクというヒーローだと、サラマンダーは思っている。

 何せあの『リーフカードシステム』というのが既に手数の多さを物語っている上に、おそらく各武装とエレメント能力の合わせ技も豊富な筈だ。


 対してサラマンダーが出来るのは火力勝負一択。

 今までも大半の事を力で捩じ伏せてきたのだ、技のレパートリーなんかはウンディーネの足元にも及ばないし、習った槍術もまだ対一般人仕様から昇華できていない。

 大精霊アスカのチカラを借りているというのに扱いきれてもいない、中途半端な戦士。それがサラマンダーの自己に対する評価だ。

 (……まだ、追いつけないなぁ)

 サラマンダーは未だに痺れる身体を必死に起こしつつ、ハクという人物について思考を巡らせる。



 ◇



 最初に出会った頃は多分、司さんはこういった変身能力を持っていなかった筈だ。

 そうでなければ最初にデブリヘイムが現れたあの日に変身しない理由がなく、司さんが負傷する事もなかっただろう。

 あの時はデートという名目で映画に誘ったのだったか。嫌な思い出になってなければいいけれど。

 その後、とある村の夏祭りで再びデブリヘイムに襲われた時は、司さんは既にハクというヒーローの仮面を手に入れていた。

 あの時はまだ実力について未確定で、任せていいのか不安にもなったが……怪我をしつつもデブリヘイムを退治していてホッと胸を撫で下ろしたのを覚えてる。


 その後の邪神戦線。胡散臭い占い師に熱海に行けと言われた時には半信半疑だったが、実際に向かってみれば人類存亡の危機であった。

 そこでも紆余曲折あり、司さんが大勢のヒーロー達の力を束ねてクラバットルを迎撃したのは今でも記憶に新しい。

 ……思えば、あそこから日向 陽(オレ)は司さんを意識していたのかもしれない。

 もちろん恋愛方面ではなく、尊敬するヒーローとしてだが。


 オレ達が大天使(エルゥ・エル)から口酸っぱく言われた『人前では変身するな』という制約。もちろんこれは変身者を守るためのもので罰則はないが、オレ達はその言い付けを律儀に守っていた。……守り過ぎていたとも言えるが。

 ブレイヴ・エレメンツや他のヒーロー達が敵対している悪の組織、ダークエルダー。その組織は日本を瞬く間に制圧し、ヒーローが駐在していない地域は既に奴らの支配圏だという。

 そんな相手に素性を知られれば、いつ家族や周りの人間に被害が及ぶか分からないと、そう言われて納得するしかなかった。


 今でも目の前で誰かが犠牲になりそうな時でもそれを思い出し躊躇してしまうのだが、司さんはそんな場面でも問答無用で力づくの解決をしてくれた。

 観衆の前だろうと関係なく変身し、時には生身で相手をぶん殴るその姿を見て、憧れを抱かない方が難しいと思う。


 そう、オレはいつの間にか司さんに憧れていたんだ。


 ヒーローとして、大人として、同じ趣味を持つ同士として。

 特撮を愛する同好の士。彼は夕方の公園に行けば時々会えたけれど、何となく頼りない印象があったと記憶している。

 そんな彼がここ最近では非常に大きな背中を見せてくれるから困ったものだ。


 そんな人に正体を明かし、実力を見てもらえるとなれば誰だって張り切ってしまうだろう。結果はまぁ……良いところを見せようとして空回りしてしまった部分もあるが、ご覧の有様だ。

 今だって追撃を掛けられたらその場で負けを認めるくらいに身体が動かないというのに、司さんはオレが動き出すまでぼんやりと突っ立って……いや、なんか紅茶セットを取り出した。マスクの口元だけを開いて器用に飲んでいる。

 『キミのことくらい簡単に倒せるけど、模擬戦なんだからもっと楽しもうぜ?』って事だろうか。


 「上ォ等ゥじゃん?」



 ◇



 ハクはサラマンダーの体の痺れが取れるまで、とりあえずのティータイムと洒落こんでいた。

 模擬戦の合間合間に小休止は取っていたが、取れる隙があるなら水分補給くらいしておきたいのだ。本来ならばペットボトルでも取り出せたならよかったのだが、何故か今はヴォルト・ギアで取り寄せられるのは冷めたアールグレイのみだった。

 見ようによっては煽りと受け取られるかもしれないが、背に腹はかえられない。


 「上ォ等ゥじゃん?」

 案の定、サラマンダーからしたら煽りに見えたらしい。

 背景が揺らぐ程の熱量を発しながらゆらりと立ち上がると、彼女は二本の短槍を頭上に掲げ、

 「燃えよ天輪、砕けよ外殻。全てを焼き斬る火炎焱燚(かえんえんいつ)を今ここに」

 その言葉と共に二槍が爆炎を纏い、その炎が一本の巨大な大槍を形成する。

 「なるほど、今度は奥義対決というわけか」

 ならばこちらも乗らねば無作法であると、ハクもまたホルダーから奥義用のリーフカードを引き抜こうとしたところで。


 「はいはいはいっ!! 試合しゅーりょーです!! 両者とも矛を収めて神妙にお縄につきなさい!!」

 と、いつの間にかベンチに引っ込んでいた審判役のカレンが突如として声を張り上げ割って入ってきた。

 「オイオイなんだよ、これからがいい所だってのに……」

 サラマンダーも全力全開を出そうとした矢先に止められたのを不満に思ってブツクサと言っているが、カレンが周りを見るようジェスチャーで促すとその通りに見回し、肩を竦めて攻撃モーションを辞めた。


 「……まぁ、やり過ぎたよな」

 ハクも改めて周囲を見回せば、そこには散々に荒れた修練場の様子が見て取れる。全天シールドの方にもかなりの負荷を掛けてしまっていたようで、時折ブレるようにして一瞬だけ外の様子が見えようになっている事から限界が近いのが分かる。

 そんな感じで、ハク対サラマンダーの決着はなぁなぁで終わってしまったが、今後を考えれば彼女の修行のモチベーションくらいにはなっただろうし、益はあっただろう。


 「では最後は私ですね」

 そんな惨状だろうと模擬戦をしないという選択肢がないとばかりに、ブレイヴ・ウンディーネがハクの前へと歩み出た。

 「出たなラスボス……」

 正直に言えばもう疲れたので終わりにして欲しいのだが、ウンディーネの事だし自分だけお預けを食らうなんて事は許さないだろう。ならばさっさと済ませてしまった方が面倒にならずに済む。

 「安心してくださいな。流石にもう暴れ過ぎて審判からストップされる、なんて同じ轍は踏まないので」

 それはつまり決着が着くまでやろうという事だろうか。


 何はともあれ、これでようやくラスト。

 勝ち負けはどうあれ、終われば夕食の時間だろう。

 最後の意地を見せるため、ハクは疲れた身体にむち打ちながらラスボスと対峙するのであった。

 初期からいるヒロインの筈なのに好感度低いのは何ででしょうか……。作者すら分からない。

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