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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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模擬戦七番勝負 その9

 「ぎっ──ぎゃああああああああああああああ!!?」

 ハクが火蜥蜴の尻尾を切り落とした瞬間、日向の絶叫が辺りに響く。

 どうやら咄嗟に変身を解除したらしいが、切断されたというダメージだけは残ったらしい。遠目に見た感じでは人体に影響はなさそうなのでそれだけは不幸中の幸いだろうか。

 「サラ……陽!?」

 慌ててベンチからウンディーネが走り寄って日向を抱き上げるが、当の本人はずっと臀部を押さえて呻いているのでなんというか絵面が……と、ハクはなんとなく目を逸らす。

 流石に美少女がそのポーズをしているところを眺めているのは申し訳ない気がする。


 「ケツが……ケツが割れるゥゥゥゥゥゥゥ!!?」

 「……こーら、流石に人の目がある所でそんな言葉使わないの。実はちょっと余裕あるでしょ」

 「……ちぇ、バレたか」

 余裕ぶってはいるが、それでもまだ臀部を擦りながら立ち上がる日向。ウンディーネは「お邪魔しました」と丁寧にハクへと頭を下げて去っていったので、まだ試合は続けるつもりのようだが。

 「その……大丈夫かい? 流石に幻肢痛とはいえ、まだ痛みはあるのだろう?」

 ハクが遠回しに降参しないかと問うも、日向は一度思いっきり自分の臀部を引っぱたいて(激痛で涙目になりながらも)気合いを入れると、再び瞳に闘志を燃やしハクを見た。


 「弱点を身をもって知れたんだ、有難いと思っておかなくちゃな。……そして、アンタが求めてるのはこっちだろ?」

 その言葉と共に、日向の背後に影……太陽の化身、上位精霊アスカの姿がうっすらと浮かび上がる。

 「お望み通り、ここからがオレのステージだ!」

 そう叫ぶと同時にアスカの姿が溶け、日向の掲げるブレスレットへと吸い込まれる。その様子はかつて熱海の海岸で見た時と同じ。

 眩いばかりの陽光を放つ日向……いや、ブレイヴ・サラマンダーの姿を一瞬足りとも見逃さないようにと、ハクはマスクの下で目を細めながらもその変身過程を凝視する。


 「デュアルエレメント・エスカレーション!!」


 唸る爆炎は陽光を纏い、烈火の火柱の如く直立し、その炎が散った後には先程までとは様相の違った精霊戦士が一人、立つ。

 「おまちどう! サラマンダー・アスカフォーム、ただ今見参!」

 先程まで臀部を押さえて半泣きになっていた少女とは思えぬほど凛々しい姿に、ハクは思わず拍手をしながら笑みを零す。もっともマスクで見えないのだが。

 「素晴らしい……ようやく本気になってくれたようだ」

 ハクとて真正面から彼女達と戦うのならばその全力を見たいと思っていた。どうせいずれは黒雷として彼女達の前に立つとしても、今この瞬間の感動を逃す理由にはならない。


 「準備はいいのかハクさんよ。オレはこうなったら、アンタが降参するまでフルスロットルだぜ?」

 サラマンダーは獰猛な笑みを浮かべつつ、いつの間にか持ち替えていた二振りの短槍を振り回し、構える。

 サラマンダーは普段使いの大槍がメイン武器だと思っていたが、どうやら相手を見て武装を切り替える事を学んだらしい。

 確かにサラマンダーほどの膂力で振り回す大槍は脅威的ではあったが、肉薄さえしてしまえばその距離を維持している限り剣の間合いで勝負できたのだ。だが短槍ならば棍やバトンのように扱えるだろうし、二振りとなった事で手数も増えている。

 ずっとブレイヴ・エレメンツの研究・対策を考えてきたハクにとっても初見である。これが一世一代の大勝負の舞台でなく、模擬戦であった事を感謝するべきか、否か。


 「まぁ……どちらでも一緒か」

 今は目の前の相手が本気で勝負を挑んできていて、自分にはそれに対応するだけのチカラがある。それだけで十分。

 ならば、とハクもまた本気を出すべくホルダーよりある一枚のリーフカードを取り出す。

 それは他のカードとは一風変わった装飾が施されており、カードに描かれた七尾の狐が立体写真(ホログラム)加工されている点においても特別感を出している。

 “彩・燭・賢・尾”

 そう書かれたカードはハクにとっての切札のひとつ。

 本来ならば対デブリヘイム等の危機的状況で使うべき代物ではあるが、実践的な運用データを取れないとカシワギ博士が嘆いていたのでここで使ってみるのも悪くはないだろう。


 白狐剣のスロットへとカードを差込み、切っ先を空へと向ける。

 このカードは特別仕様な為、使うにはカードの挿入と合言葉が必要なのだ。一見無駄なセキュリティに思えるが、万が一への備えというやつらしい。

 実際は「なんかセリフと共に変身した方がカッコイイよね」で満場一致となった結果なのだが、それはさておき。


 「──顕現せよ、プラチナ・アルビオン!」


 その叫びと共に一匹の狐型ロボットが現れ、ハクの周りを一周した後にパーツ毎に分離・展開する。

 そのパーツ群はハクの各部位に追加装甲として取り付けられ、全体的なシルエットがより狐らしさを増した。

 特徴的なのは、そのハクの腰あたりから七つの尻尾が生えた事だ。

 その尻尾は物理的には存在せず、大精霊ノアが恫喝して無理矢理気味に仮契約させられた下位の精霊達のチカラによって形成されたもの。

 すなわち、地・水・火・風・氷・幻・雷。この七属性がハクの装甲に埋め込まれた宝石に宿っており、それぞれのエレメント能力を小規模とはいえ振るえるようになったのだ。


 「ハク・狐月七甲(こげつしちこう)……。これが私達の辿り着いた答えの形だ」

 ダークヒーロープロジェクトの第一弾として、数々の戦闘を繰り広げた試作型にして傑作機。その最終形態とは、器用貧乏を極め万能へと至る、変幻自在の化け狐の有様。

 ダークエルダーの誇る技術の集大成である。

 「……んだよ、司さんもイイもん持ってるじゃないか」

 相対するサラマンダーもまた、ハクの姿に満面の笑みを浮かべ、短槍を構える。


 どちらも本気中の超本気モード。

 凡そヒーローと呼ばれる者達の、その上澄みに近い力を持った二人が向かい合い、そして。


 「じゃあ、ファイナルラウンド……」


 「レディィィィィ……」


 「「ゴー!!」」


 爆炎が爆ぜ、七属性が吹き荒び、激音が響いた。

アルビオンとはブリテンの『白亜の崖』の事を言うらしいので、プラチナ・アルビオンだと『白銀の白亜の崖』という直訳になりますが……。

まぁアルビオンとかファンタジーだと竜の名前だったりするし、多少はね?

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