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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
336/385

模擬戦七番勝負 その8

 初撃は“気功”による光線と炎の塊による激突だった。

 両者は拮抗することなく大爆発を起こし、その爆煙を掻い潜ってハクとサラマンダーが衝突する。

 「「オラァ!」」

 甲高い金属音。突き立てられた穂先を白狐剣が跳ね上げた音だ。

 さしものサラマンダーでもヒーロースーツ+気功全開のハクのパワーを前に槍を保持できず、弾かれた勢いによって槍を手放す。


 「フツー真っ直ぐ突っ込んでくる槍の先端を弾くかよ!?」

 サラマンダーは文句を言いつつ痺れた腕でなお槍を確保せんと動くが、ハクが剣を戻す方が早い。一切の容赦なく胴へと放たれた突きを、サラマンダーは身体の各箇所から炎を噴射し無理矢理後退する事で回避とする。

 「……そりゃあ、ヒーローの動体視力は矢でも銃弾でも弾き落とすだろう? 来ると分かってる攻撃ならば弾くことだってできるさ」

 敢えて追撃を選択しなかったハクは、落下してきたサラマンダーの大槍を片手でキャッチし保持する。その大槍はサラマンダー本人以外が持つと手の平を焼くように発熱するらしいが、白亜の盾をグローブへと変化させる事で解決し、構える。


 「さぁ、私は容赦しないぞ? キミは槍を奪われたらどう戦うのか、見せてもらおう」

 かたや付け焼き刃の大槍。かたや慣れぬ徒手空拳。

 ハクが高速で繰り出す連続突きを紙一重で避けながら、サラマンダーは幾度となく槍へと手を伸ばすが、その度に巫マフラーや石突によって足払いを仕掛けられバーニアによる後退を強いられてる。

 「大人気ないなぁ司さんは、よ!」

 サラマンダーは笑いながら、両手より炎の渦を発生させ、ハクへと向ける。

 槍が無くても精霊戦士、自らの精霊が司るエレメント能力は健在なのだ。


 「ファイア・トルネード!」

 それはハクの視界を覆う程の爆炎が渦を巻く巨大な竜巻。空気中の酸素を燃焼させながら、その炎はハクを焼き付くさんと唸りを上げる。

 だがハク……ツカサにとっては一度見た技だ。

 対ブレイヴ・サラマンダー対策として、その技の対処法を協議し訓練を重ねた今のハクならば、

 「おお……ッ!!」

 身体に、槍に、穂先に“気”を集中させたハクは、目の前に迫った炎の渦に対して一閃を振るう。それは一条の光線となり渦を両断し、形状を保てなくなった炎はその場で爆散した。


 だが、その閃光の先にサラマンダーがいない事は百も承知。

 「今のはただの目眩しだものなっ」

 ハクが技を放った瞬間、手元から急に大槍が消えたのだ。ならば()()()()に成ったのだろうと、ハクは再び白狐剣を取り、全天シールドを背にするように距離を離す。

 そして、それは顕現した。

『トランス・エレメント・マジェスティ!』

 少女と男性の声……おそらくは精霊サラマンダーのものだろうか。その二人の声が重なって聴こえるのは彼女達が新たに手にしたチカラの証明。

 「出たな火蜥蜴! 残念ながら報告は受けているから全くの初見ではないぞ?」


 そう、ハクとてサラマンダー達の新たなる姿というのは報告書ではなく生で見たかった。しかし自分が北海道へと遠征している時に何があったのかを調べている内に自然にたどり着き、かぶりつくように映像を3周してしまったので完全な初見ではないのだ。

 まぁ映像は謎の処理が施されているので生で見るのは別の感動があるのだがそれはそれ。ノアに聞いたらあっさり内情を教えてくれたので、ある程度の対処法だって構築できているのである。

 特撮オタクとしては喜んでいいやら悲しんでいいやら、だ。


 『どうにかできるってんならやって見せてくれ! オレ達もこのチカラがどこまで通用するのか、それを知りたかったんだからな!』

 獰猛な肉食獣そのものの笑みで笑うサラマンダーに対し、ハクが取った行動は至ってシンプル。

 リーフカードを一枚手に取り、白狐剣のスロットへと差し込んだだけだ。

 『アクア・ブレード』

 その合成音声と共に、白狐剣へと水が纏わりつき刃が生成される。

 その水は大精霊ノアがウェンディ(ブレイヴ・ウンディーネの契約している水の精霊)とは別の個体へと依頼して用意させた特注品で、炎の精霊には確実に特効が取れるとお墨付きの品だ。


 精霊の属性とは要するに五行思想等を根幹とした相性ゲーであり、どれほど強く熱い炎だろうと『水は火に強し』という明確化された弱点からは逃れる事はできない。

 ……今は何故か『電子の精霊』だとか『歌の精霊』だとかがいるそうなのだが、彼女達にだって相剋する属性はきっとあるのだろう。

 属性相性がポ〇モン並に複雑になっていようが、とにかく今はサラマンダーに対して特効が取れるという一点が大事なのである。

 いつかまた天翔る天竜寺ようなエレメント能力使いと相対する時に切り札として披露するつもりだったのだが、相手が精霊そのものへと成った精霊戦士であるのならばココで使うのもやむを得ない。


 「悪いが、精霊のチカラで精霊を斬るというのは初めてでね。なるべく急所は外すが、危険を感じたらすぐにギブアップして欲しい」

 あくまでも相性の上ではコチラが有利だぞと、注意喚起の意味も含めてサラマンダーへと声をかける。

 いくらあの身体では物理攻撃のほとんどを無効化できるとはいえ、弱点属性を受けたらどうなるかを試したことはないだろう。それはつまり、『精霊状態で前脚を切り落としたら、人間体に戻った時にも腕が地面に落ちたままだった』となる可能性も否定できないのだ。

 流石に模擬戦でそんなスプラッタな光景を見たくは無い。


 『……へへっ。じゃあ先にアンタを倒せば済む話だな!』

 対するサラマンダーはというと、逆に闘争心に火がついてしまった様子。まぁ斬られるより早く倒せばいいというのは真理なので、何も間違ってはいないのだが。

 「まぁ、甘く見られたもんだよな」

 ハクとて対抗策がこれだけとは言っていないし、やろうと思えばいくらでも手段は出てくるのだが。こればっかりは言うより実際に見せた方が早いのだろう。

 「こっちはその形態を通過点として見ているんだ。さっさとアスカフォームになってもらうぞ」

 ハクはそう独りごちて、突進してきたサラマンダーへと剣を振るう。



 ◇



 快音が鳴り響く。

 それは金属同士がぶつかるような音ではなく、空に花火が咲いた瞬間のような空気を震わせる音だ。

 発生源は高速で動き回るふたつの影。片や地面どころか全天シールドにすら貼り付き、縦横無尽に駆け回るブレイヴ・サラマンダー。片やサラマンダーを追いかけ回し、執拗にしっぽの付け根を狙い続けるハク。

 度々起こる正面衝突が空気を震わせ、その都度火の粉や水滴が飛び散る。

 そしてその衝突回数が二桁に届こうかというところで、ハクが動いた。いや、()()()()()()()


 「そろそろ第三ラウンドに入ろうか」

 追いかけっこはもう飽きたと言わんばかりに、ハクは修練場の中央にて動きを止めたのだ。

 『もらった──!』

 例え罠であろうと最速最短での攻めならば突破できるはずと、サラマンダーはその槍の如く鋭い尾をハクに向けて突き刺そうと伸ばす。

 だが、それが届くことはなかった。何故ならば、ハクがずっと“気”を溜め続けていた左手を振るう方が速いのだから。


 「気炎万“水”拳ォ──!」

 それはハクの“気功”と精霊の“水”を織り交ぜた奥義。

 人の成す技に精霊の力を纏わせる。これ自体は既にジャスティス白井の幹部、天翔る天竜寺が実践していた事だ。その天竜寺がダークエルダーの拷問によって吐いた情報を元に、ハクが似たような技を修得しただけ。

 理屈としては単純なものだが、奥義とされる大技に弱点属性が加わった一撃はサラマンダーにとって非常に重い。

 「がっ……!?」

 予想外の一撃と飛び掛る形で空中にいたのも相まって、サラマンダーはその攻撃をモロに胴体へと受けてしまい、その身体は自身でも制御できない動きで宙を舞った。


 「痛いかもしれないが、堪えてくれよ?」

 そしてその隙を逃すほどハクは甘くない。

 ハクは白狐剣を両手で持ち、渾身のチカラでソレを振るう。狙うのは、人体には存在しない蜥蜴の尻尾部分。

 「チェストォォォォォォオオオ!!」

 水の精霊の加護を得た剣は確かにその尻尾の根元に近い場所を捉え、叩き切った。

 「ぎっ──ぎゃああああああああああああああ!!?」


 絶叫が辺りに木霊する。

 人の体には尻尾なんて無いし切り落としても平気だろう。

 ↓

 それはそれとして精霊と一体化している以上、弱点属性で身体を切断されたら滅茶苦茶痛いよね。

 ↓

 精霊サラマンダーが咄嗟に変身を解いたが間に合わず、日向 陽には無いはずの尻尾を斬られた事への特大の幻肢痛だけが残る←イマココ

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