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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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模擬戦七番勝負 その2

 閉ざされた修練場に、甲高い金属音が木霊した。

 一合、五合、十三合……打ち合う毎に加速していくその剣戟は、互いの白き剣閃により火花を散らし、熱を帯びていく。

 「ははっ……! 流石師匠っ! その重たそうな剣で俺の速度に追いつきますか!!?」

 「見てわかんだろ! 遠心力でぶん回してるんだよこっちはよォ!」

 星矢は『白鶴八相』を片手で持ち、振るう速度はツカサよりも上だ。だがツカサは剣を絶えず自身の周囲を回すように、また時には自分自身も身体を回す事で、速度を落とさず同一方向へと振るい続けるという対処とした。


 言ってしまえばツカサを軸にした白狐剣の独楽(コマ)みたいなものだ。これによって両手剣と遜色ないサイズの白狐剣でも、切返しの手間や慣性を打ち消す必要もなく運用できる。

 もちろん腕には相応の負担が掛かるし、三半規管にも少なからずダメージが入るし、軸回転なだけあって咄嗟に距離を詰めたりはできない等のデメリットもあるのだが……。まぁ、模擬戦というのならばそこまで考えなくてもいいだろうという判断である。

 無論、星矢がわざわざ打ち合ってくれるかどうかは別の話で。


 「では……!」

 その一言と共に、星矢は大ジャンプで後方へと下がった。

 距離を離せばツカサが止まらざるを得なくなり、回転を止めた瞬間にまた切り込めばよいとの判断だ。確かにそれは間違いではないのだが……。

 「ベェェェェエエエイシュウウウウゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 ツカサはさも待ってましたと言わんばかりに、星矢が着地するであろう場所に向けて白狐剣を投げた。

 「なっ!?」

 これは星矢も予想外というか、己の得物を投げる剣士との試合がまず無かったというか。

 “気功”の使い手は徒手空拳でも不足なく闘える、という点を失念していたというべきだろうか。

 剣士としてならば普通はやらない選択肢を取れるのが、剣士と戦士の違いでもある。


 本来ならば一気に大幅な距離を離すべく大ジャンプをするのではなく、小刻みのステップで徐々に間合いを離すべきだったのだ。

 いくら星矢が“気功”を扱えるとはいえ、何も無い空中で軌道を変えるような術を持ち合わせているわけもなく、

 「どっちを防ぐか選べェ!!」

 星矢が飛んでくる白狐剣に対処するべく神経を集中していたところに、ツカサは己の全速力を以て飛び込んでいく。それも全天シールドの天井を経由して(蹴って)の上空からの襲撃だ。

 普通ならば間に合うハズもないが、ツカサには気を高めて放つ光線技がある。これにより天と地から同時攻撃を仕掛ける事が可能なのだ。

 もちろん、威力を考えれば光線を防ぐ方を選ぶだろうが、両手剣並の質量を受けて無事で済む保証はない。


 なので、

 「参りました!!」

 ツカサが光線を放つ前に降参を示した事で、星矢は飛んでくる白狐剣を防ぐだけで無事に着地する事ができたのだった。



 ◇



 「いやぁ、さすが師匠。まだまだ敵いませんね」

 自身はウォームアップ役だと言ったクセに割と本気で斬りかかってきていた星矢に、ツカサは半目を向けながら握手をする。

 「流石にその刀一本じゃ厳しいだろ。飛び道具とかあった方がいいんじゃないか?」

 そのツカサの言に対し、「習ってはいるんですけどね……」と言葉を濁す星矢。心境水天流剣術は普通の剣術のみならず、『水刃時雨』等の広範囲技も扱う流派なので、一応は体得しようと頑張っているらしい。

 まぁツカサが彼をここに送り込んだ理由が『ブレイヴ・ウンディーネの正体を探る』というものなので、既にその条件は達成してしまったのだが……。馴染んでいるならばいいか、とツカサはひとり頷く。


 「では、次も頑張ってください!」

 星矢はそう言って、他の者達がいる壁際のベンチへと移動していった。

 ……このベンチ、修練場用の観客席として作られていて自前でシールドも発動できるらしいのだが、高性能過ぎやしないだろうか。修練場内で暴れ回る想定の相手を怪人クラスで想定しているにしても、それを間近で見るためにシールドの中に観客席を設けるなぞ、正気とは思えない。


 閑話休題。


 「よし、じゃあ次は?」

 あまり時間を掛けすぎると日が完全に落ちてしまうと、ツカサは夕飯を思いながら白狐剣を構える。

 ツカサだけならばどうとでもなるのだが、母屋に仮住まいさせてもらっている身としては言伝してあるとはいえあまり遅くまで待たせたくはないものだ。

 「次は俺……なんだが、今回は趣向が違ってな」

 普段なら意気揚々と全身に“気功”を巡らせながらやってくるであろう霧崎だったが、何故か今日は歯切れが悪い。


 「せっかく弟子と孫弟子まで揃ってんだ。場所までおあつらえ向きだからよ、今回は教育の場って事にさせてもらうぜ」

 そう言って霧崎は、どこからか持ち出してきた案山子を三体、等間隔に並べる。そして、

 「さぁ弟子共、お前らに俺の“奥義”を教えてやる」

 そう宣った。



 ◇



 霧崎、ツカサ、星矢はそれぞれの案山子より10mほど離れた場所へと立つ。

 三人とも無手ではあるが、霧崎は『気を放つ技』を奥義としているらしく、拳さえ突き出せればあの案山子くらい簡単に消し飛ばせると豪語したのだ。

 ツカサも一度“オーラリゥム光線”と名付けた光線技を使った事があるが、流石に10mも離れていると減衰が激しくて当たる前に消滅してしまう可能性がある。

 それを奥義ならば、と言うのだから、相応の自信があるのだろう。


 「でもいいのか、そんな奥義をこんな人数に見せて」

 ツカサがイメージする奥義とは、正しく必殺技とも呼べるような特殊な技を指す。おいそれと他人に見せるものではなく、敵を倒す為にギリギリまで秘匿するようなもの、という考えがあるのだが……。

 「構わねぇよ。結局、“気功”を扱うのに必要なのは『イメージ力』だからな。今から見せるのだって、基礎をしっかりと学んでいりゃあいつか辿り着くモンだ」

 霧崎は笑ってそう言うと、案山子に対して右脚を後ろに下げる形で半身に構えた。


 「百聞は一見に如かず、習うより慣れろってな。見様見真似でいいから、俺の言う通りに動いてみろ」

 霧崎がそう言うならばと、ツカサも星矢も同じような構えを取る。

 左腕は前へと伸ばし、照準の代わりに。右腕は腰の横に構えて、拳を握る。

 深呼吸しながら気を高め、臍へとチカラが集まっていく様をイメージ。そしてその集めたエネルギーをゆっくりと右の拳へと移動させる。

 そうして全身の気が拳の一点に集中したのを意識したら、案山子へと向けて正拳突きと共に解き放つ!


 この単純明快な、しかし“気功”を扱う上での基本を寄せ集めた応用。これを今後の技術発展の基礎として“奥義”と称する。

 その名も、


 「「「気炎万拳!!」」」


 三者三様、それぞれに放たれる気の奔流の形は違えども、強く練り込まれ固められた気の弾丸は減速する事無く案山子へと殺到し、見事に撃ち抜いたのだった。



 ◇



 「これが、俺がお前らに教えてやれる奥義だ。こっからの発展はお前ら次第、好きなように派生させるといい」

 霧崎はそう言うと、あっさりと身を翻しベンチへと戻っていく。

 「「ありがとうございました!」」

 ツカサは体育会系ではないが、師弟として去る背中に頭を下げるくらいの事はする。

 “気功”使いの先達として、『これくらいの事ならできる』というイメージを掴ませてくれた霧崎。

 咄嗟の思い付き以上の発展をさせる事が出来なかったツカサにとって、これは感謝しなければならない出来事のひとつとなった。


 この技が使えるならば、あんな事やこんな事も可能なんじゃないかと、色んなイメージが湧いてくるのだ。

 あの漫画やアニメの技まで再現できるのではないか、という想像だけでもオタクとしての血が騒ぐ。

 まぁ、今はその検証をする前に三本目の試合が待っているのだが。

 「次は私の番ですね」

 そう言って模造刀を手に前へと出てきたのは、この道場の師範代である水鏡 真人。

 先程の技を見て興奮を抑えられないような表情をしながら、真人はツカサに対して正眼の構えをとる。


 「ようやく機会が巡って参りました。楽しみですよ……」

 やけにハイな様子の真人にちょっと引きつつも、ツカサもまた白狐剣を取り出し、構えるのであった。

気炎万拳のイメージ:流派東方〇敗が最終奥義ィ……

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