表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
329/385

模擬戦七番勝負 その1

 スイーツバイキングより戻ったその日、女装を解除したタイミングで32回目の襲撃が発生したのでツカサは嬉々として参戦してきた。

 というのも、先の椎名ファーストキス事件 (ツカサの中では大事件である)の衝撃を処理しきれずに悶々としていた為、憂さ晴らしがしたかったのである。

 あの後、椎名のツカサに対する対応はそりゃあもう()()()()()であった。

 ファーストキスを捧げたからって何か特別な事が必要ですか? とも言わんばかりに相変わらず。なのでツカサから話題に上げる事もできず、関係性を変える一手もないまま母屋にて別れたのだから、ドーテーボーイには対処のしようがない。


 そりゃあツカサだってもう大人だ。キスという行為にそれほどの神秘性が含まれている、なんて幻想は捨てたつもりでいたが、ファーストキスと聞くと「どうしたもんだ」と悩みもする。

 流石にツカサと付き合いたい、なんて酔狂な願いは持ち合わせてはいないだろうとは考えているのだが、それにしたって日々の御礼にしてはちょっと豪華過ぎるという気も……。

 なんて、いつまでもウジウジウダウダと考えに考えていたところで、不意に背後に影が現れた。


 「精霊式秘孔突き貫手!」

 「あべしっ!?」

 「精霊式電極六十四拳!」

 「ひでぶ!?」

 「これはオマケ! 安室 希空モード(GカップVer.)からの……アムロ・ブリーカー!! 死ねぇぇぇえええ!!」

 「ぎゃああああああああ!! …………がくっ」

 振り向く間すらなく、何をされたのか分からぬまま、ツカサの意識はそこで途絶えた。


 ………

 ……

 …


 「──はっ!?」

 ツカサが目を覚ますと、最近ではよく見る天井があった。

 ここは水鏡さん家の母屋であり、今はツカサが間借りしている一室だ。どうやら畳の上で大の字になって眠っていたらしく、時刻は既に夕方らしい。

 流石にスイーツ食べ放題の後にちょっと激しい運動をしたのがマズかったのか、ドカ食い気絶部みたいな入眠をしてしまったようだ。

 節々が痛むのを認識しながら上半身を起こし、スマホを手に取る。普段は組織からの定例メール(もちろん暗号マシマシの一見するだけではただの社報)しか届かない半ゲーム機みたいな物だが、今日は珍しい事にカレンから連絡が届いていた。


 なんだなんだとロックを解除し確認してみれば、そこには簡素な一文のみ。

 『模擬戦をやるらしいとの事で、何名かが張り切って修練場に集まってアップしてます。起きたらさっさと来るように』

 とのこと。

 日向と約束した件が既に他者に漏れた上で複数名が集まった挙句、今日の内に修練場の貸切も取り付けたらしい。

 受信した時間を見れば現在時刻の十分前。人が眠っているのを承知で集まっている謎の事態なのは置いておくにしても、今から身支度を整えて向かうには丁度いいくらいではある。


 「……仕方ない、向かいますか」

 あくびを噛み殺しながら、ツカサはまず洗面所へと向かう。

 この時、気を失う前までずっと悩んでいた一件がすっかり頭の中で整理がついていた事について、ツカサが疑問に思う事はなかった。

 一眠りしたら頭がスッキリした、という楽観的な感想と共に、ツカサは顔を洗って歯磨きを済ます。

 ヴォルト・ギアの中でノアが人知れず嘆息している事なぞ、知る由もない。



 ◇


 特に何事もなく修練場へと着いたツカサ。そこには既に巨大なドーム状のシールドが張られており、中身を一切視認する事ができなくなっていた。

 おそらくはシールドの中にいるであろうカレンに連絡を送ると、修練場に張られたシールドの一部分のみが解除される。

 特に警戒もせずに入っていけばすぐにシールドは閉じ、中から外の様子を伺う事はできなくなったものの、思っていたより広い空間を区切っているようで閉塞感を感じる事はないのだが……。


 「この配色は何とかならなかったのか……」

 例えるならば、巨大なシャボン玉の内側に入ったような感覚。

 赤とかピンクとか紫色のマーブル模様が常に揺蕩い、日光を通しながらも視界は通らない、なんて不思議な壁が空まで覆い尽くしているこの光景は、あまり長く見ていたいものではない。

 しかしその中で、おそらくはツカサとの模擬戦をやりたいが為に集まった面々がずっと待っていたと言われると、文句を言えようもなかった。


 ツカサは改めて、集まっている面子の顔を見る。

 まず視界に入るのはやはりブレイヴ・エレメンツの三人だ。サラマンダー、ウンディーネ、ノームがそれぞれ柔軟体操をしており、カレンがそれぞれを手伝うように背中を押したりしている。

 次に目に入るのは、準備運動なのか本気なのかも分からないくらいのスパーリングをしている霧崎と貂蝉鮟鱇(アンコウ)だ。剛と柔の打撃の連なりは見ていて爽快なものがあり、最早それだけで見世物として成立しているのではないかとすら思える。


 そして最後に、シールドの端の方で己の得物を眼前に置いて瞑想をしている二人、真人と星矢。

 こちらはどちらも落ち着いた様子というか、はっきり言って近寄り難い雰囲気すら纏っている。

 見えないトランプタワーを積み上げているような、その集中を壊してしまうのが無粋なような。

 星矢なんかはついこの前まで普通の学生だった筈なのに、いつの間にか師範代と並んで瞑想なんてするようになるとは。

 この短い期間に何があったのか聞きたいような、そうでないような……。

 付き添いなのか宝条 瑠璃も傍にいるが、流石に模擬戦には参加しないだろう。


 とにかくこれが、今回の模擬戦の参加者達のようだ。

 カレンや瑠璃を除いた計七名。彼らがツカサとの模擬戦を望んでいる者達ということで間違いないのだろう。


 ……いや、ぶっちゃけ多くない?


 サラマンダーとウンディーネは直接申し込んできたので分かる。ノームもまぁ、一緒にいるんじゃないかとは思っていた。

 しかし戦闘狂三人衆たる霧崎、貂蝉、真人はどうやって嗅ぎつけたのだ。

 ブレイヴ・エレメンツが正体を明かせないからと言うので秘密裏にやろうとしているのに、コイツらは平然とやってきているのはなんでだ。

 真人はまだ父親として打ち明けました、というのならば分かるけど、明らかに接点のないハズの二人はマジでなんだ。

 星矢はもう、なんというかオマケっぽいので気にしない方向で。



 ◇



 まぁもう、この場に揃っているのならば考えても仕方がないのだろう。

 なのでツカサは白狐剣を取り出し、鞘を付けたまま肩を叩く。

 「で、早速なんだけど。一番手は?」

 そのツカサの問いに、予め順番が決められていたのか瞑想していた星矢が白鶴八相を手にしてツカサの前へと歩み出る。

 「まずは俺から。師匠のウォームアップ役ですよ」

 「アホ言え。絶対それだけじゃ済まさんって目ェしやがって」

 不敵に笑う星矢を前に、ツカサは鎧を展開せずに鞘付きのまま白狐剣を構える。


 少々ゴテゴテしてはいるが、今のままの白狐剣も武装として充分機能する。重くて頑丈でリーフカードが使えない大振りなスタンソードみたいなものだ。弟子相手には不足ないだろう。

 何を教えたつもりもないけれども。

 「では、開始の合図は私、大杉 歌恋が務めます。両者、準備は宜しいですね……?」

 カレンの声に両者は頷く。ツカサも星矢も、既に全身に“気功”のチカラが満ちており、今にも破裂せんばかりに昂っている。


 「それでは七番勝負一本目……はじめっ!」


 ──合図と同時に、ふたりは真正面から激突した。

Q:ブレイヴ・エレメンツの正体をいつ知った?


A:


カレン:楓の親友なら、という事で北海道旅行の後に教えられていた。実は前々から勘づいてはいた。


霧崎:今回の事件で変身前の2人と接触した事で、変身後と気配が全く同じだと確信。その後、邪神戦線の時に世話になったなと話しかけた。


貂蝉アンコウ:夏の初邂逅の時から分かってた。


真人:前々からなんとなくそうではないかと思っていたのだが

、娘がきちんと報告してくれるまではと知らない振りをしていた。今回修練場を使いたいと言われた事でツカサとの模擬戦をするのだと確信。自分も連れて行けとせがんだ。


星矢:「香水って汗と混ざる事で香り立つから、個人で匂いが違うんだよ、知ってたか? んで、お前らブレイヴ・エレメンツとまったく同じ匂いが」

   「ああっ、ごめんね皆、ウチのセイが気色悪くって。この子、鼻と勘が無駄にいいからそれで人を判断してるっぽくて。よくよく叱っておくから……」

   「瑠璃、なんでそんなオカンっぽい感じに……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ