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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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スイーツバイキング その8

 「司さん、アンタとっくにオレ達がブレイヴ・エレメンツだって気付いてたよな?」

 耳元で囁かれたその言葉に、小毬は咄嗟に反応する事が出来ずにいた。

 こんな平凡な、それなりに人気の多い場所というのもあるか、彼女達がずっと隠し通してきた秘密をいきなり公表してきたという驚きも大きい。

 なぜ今、という気持ちもあるが、日向はずっと話したいと言っていて、二人きりになるタイミングを計っていたとも思える。


 確かに、水鏡 美月がブレイヴ・ウンディーネだった時点で日向がサラマンダーであるという確信はあったが、確定情報ではなかった。

 人前での変身をまず行わず、変身後のカメラ映像まで人相を認識させない処置を施していたのだ。隠し通したいだけの理由がある様にも思っていたのだが……。

 「ど、どうしてそんな話を、今?」

 あまりの驚きに、小毬の口から漏れ出た言葉はそんなもの。これでは『知っていました』と言っているのとほぼ同義なのだが、耳へ掛けられた美少女の吐息と、その一言に込められた情報量の多さに小毬の頭はそこまで回らない。


 「だって小毬ちゃん、いつも危険な事からオレ達を遠ざけようとしていたのに、今回のキャロ……クドの件は割と素直に通したろ? だからもう、焼肉の時にはバレてたんじゃないかなって思ってたんだ」

 日向はそう言うと、なんでもない話題かのようにシュークリームを手掴みで食べ始める。

 たったそれだけの理由で重大情報を暴露するに至るとか、一体どういうつもりなのかは分からないが……。もしかしたら小毬の事を完全に“味方”として捉えている可能性もある。

 不用心だと言ってしまうには、小毬は彼女達の前で正義の味方然とし過ぎてしまっているワケで。少女としての彼女らの前で身を呈し、ヒーローとして背中を預けた相手を“それでも疑え”というのは、この年頃の子には難しいかもしれない。


 「ふぅ~……」

 一旦落ち着く為に、小毬は一度自分の席に戻ってケーキを頬張り、咀嚼し飲み込み再び日向の隣へと戻る。「何してんだ」と日向は笑っているけれど、小毬としては情報過多でフリーズしかねない脳みそを糖分で無理やり動かしているのだと理解して欲しい。

 「……この話、他の人には?」

 「してないぜ。あっ、美月やエルゥ・エル……丸っこい大天使サマには内緒にしてくれよな。隠し通さないと周囲の人間に迷惑がかかるからって言われててさ」

 そもそも今キミが話した相手が宿敵ダークエルダーの幹部である黒雷だとは言い出せない小毬は、ちょっと遠い目をしてこくりと頷く事しかできない。

 まぁ小毬は水鏡 美月の正体も秩父の時点で知っていて、未だに組織に報告していないので、今更感はあるけれども。


 「……うん、まぁなんだ。秘密の共有をしてくれたのは嬉しいけど、何故急にそんな話を?」

 いくらなんでもタイミングというものがあるだろう。少なくともこういう話は、先に『二人きりで話がしたい。〇時にいつもの公園で』みたいに呼び出してからするものだ。

 こんな何気ない日常に挟むものではない。

 「いや何、オレ達も強くなったつもりではいるんだけどさ。オレひとりだとどこまで戦えるのかってのが分からないままなんだよ」


 そう言って日向はじっと己の手のひらを眺める。その手はずっと大槍を振り続けていたせいで幾つものマメが潰れ、容姿にそぐわぬ武人の手に近付いている。その鍛錬に裏打ちされた実力で数々の修羅場を越えてきた筈だが、それでもまだ納得できていないらしい。

 「つまり、私にスパーリングの相手になって欲しいと」

 「そう。それも手加減なしの全力の勝負がしたいんだぜ」

 ふむ、と。小毬ら己の顎に手を当て、考えを巡らせる。


 『手加減なし』というのが小毬にできるかどうかは置いておくとして、ここで一度サラマンダーとしての実力を見せてもらうのも悪くはないかもしれない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、しばらく再戦の機会はお預けになるかと思っていたのだが……。大杉 司として、ダークヒーローのハクとしてならば問題はないのだ。

 クドリャフカの護衛任務中だというのがネックではあるが、ヒーローが集結している今ならば小毬が抜けるくらい問題はないだろう。


 「……うん、いいわ。道場に戻ったら、また打ち合わせをしましょう」

 色々と兼ね合いも必要になるため、ここでは口約束しかできないが。それでも、いずれ近い内に実現するだろう。

 これは組織の目的のひとつとして、必要な事でもあるのだから。

 「っし! ありがと小毬ちゃん! 恩に着るぜ!」

 日向は心底嬉しそうな笑みを浮かべて己のお盆へと手を伸ばしたが、そこにあったはずのシュークリーム達は全て無くなってしまっている。話しながらもずっと日向が食べ続けていたのだから当然と言えば当然だが。


 そこで一度休憩をとるものかと思いきや、日向はまたお盆を持って立ち上がると、小毬に向けて軽いジェスチャーをして今度はゼリー系の列へと吶喊していった。

 「よく入るなぁ……」

 小毬もまだ若いつもりだが、あそこまで甘いものを腹に詰め込める自信はない。

 未だにもたれた事のない腹を摩りつつ、小毬もまた小休止にとコーヒーメーカーを目指した。



 ◇



 「で、陽と何を話していたんですか?」

 恐るべき嗅覚というか、小毬がコーヒーメーカーへとカップをセットしたその直後に背後から水鏡の声がし、恐怖で小毬が一瞬でも硬直したその隙にエスプレッソのボタンを押されてしまった。

 自動で豆が挽かれるその暇さえも娯楽にしてくださいと言わんばかりに、ガリガリと子気味のいい音を立ててマシンは唸る。

 「いやぁ、大した話じゃなかった、よ……?」


 「お聞きした通り、私達は守られるばかりの一般人では御座いません」


 「ここのケーキの味について、とかさ?」


 「私も貴方には既に正体がバレているんじゃないかと感じていたところです。ずっと貴方を疑っていましたが、楓さんが無事でいるという事は“少なくとも黒ではない”と思っておきましょうか」


 「ここの焼きプリン、凄く美味しいんだよ?」


 「あ、立ち会いを申し込まれたのならば私ともお願いしますね。修練場は視界を遮る事のできるシールドも張れますので、楓さん含めて三人共にアドバイスをくださると」


 「ねぇ私の話聞いてる?」


 もはや小毬の言葉を聞きもせずに別の話題を話し続けている水鏡。しかもそれが的外れな事を言ってないのもまた怖い。

 「……分かったよ。道場に戻ったら打ち合わせしよう」

 「はい、喜んで!」

 小毬が諦めたように嘆息するのと対称的に、水鏡は嬉しそうに笑うとさっさと離れていってしまった。

 今の話がしたくてわざわざ小毬の側まで来て、やった事がエスプレッソのボタンを押す事とは。

 お茶目なイタズラ、でいいのだろうか。


 「まぁ嫌いじゃないんだけどね」

 誰に言うでもなく独りごちて、小毬は席に戻る前に一口だけ啜る。

 「苦っ」

 口の中の甘さをリセットして余りあるその味を思い知った小毬は、ドリンクバーに寄り道をしてド〇ターペ〇パー手に取った。

その8……長いんですけどヒロインズとの貴重な会話シーンなので、ご容赦ください。

もうちょっとだけ続くんじゃ。

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