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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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スイーツバイキング その3

 たまには第三者視点から主人公の変態(誤字では無い)具合を見たいですよね?

 という事でモブがネームドになりましたが覚えなくてよいです。

 ダークエルダー〇〇支部機動隊第三兵団所属、コードネーム:ミモリ。

 彼女は今年になって採用された新人であり、持ち前の運動神経を評価されて現場組にスカウトされた逸材だ。

 彼女の仕事は多岐に渡るのだが、今はOJTの一環として現場を見て覚えるように、という指導のもとベテラン達の後ろを付いて歩くのが現在の業務である。

 今日もまた活動家達による迷惑行為が通報されたので現場へと急行したのだが……。


 「おっと……。今はあのツカサが出張ってるらしい。こりゃあ楽ができそうだな」

 ワゴン車での移動中、小隊長がタブレットを見ながらそう言うと、ほかの隊員達が一斉に笑い出す。

 どうやら有名人なようだが、ミモリには誰の事だかさっぱり分からないので、

 「えっと、すいません……。その人ってウチの支部の怪人役か誰かなんですか?」

 そう誰にでもなく問い掛けたら、皆が一様に顔を見合わせ、「あーっと……」「えーと、なぁ……?」と何やら答え難い様子となってしまった。


 これは何か失言だったのかと、慌てて言い訳をしようとしたのだが。

 「あー、すまんすまん。ミモリはまだウチの名物を見た事がないんだもんな。でも悪いが、アイツばかりは口で説明するより見た方が早いんだ。だから到着まで答え合わせは待ってくれるか?」

 そう小隊長に言われ、何だかよく分からないまま、とりあえずミモリは首を縦に振る。

 元より珍妙な悪の組織という空間の中で、更に名物と呼ばれるほどに変な人とはどれ程の者なのかと、期待と不安を抱えながらも、ワゴン車は最寄りのパーキングへと到着した。



 ◇



 それは、異様と言う他ない光景であった。

 2グループの活動家が人通りの多い通路を封鎖して演説をしているのは、この部隊に入ってからは普段から見る光景ではある。

 しかしそのグループの間に割って入るゴスロリ少女を見たのは初めてであり、その少女から発せられた謎の“圧”によって場が静まり返るなど、前代未聞だ。

 そのプレッシャーに圧された訳ではないが、小隊長が「これから面白くなるからしばらく様子を見よう」と言い出したので、皆して野次馬の更に後方からステルスドローンを使用して高みの見物と洒落こんでいる。


 「でも大丈夫なんですか? アイツら、巷で噂の不良グループとか雇って用心棒にしてるって話ですけど……」

 金さえ積まれれば恐喝や暴行、拉致監禁に拷問や売り飛ばしまで、何でもやるアウトロー集団が最近になって頭角を現し始め、活動家達が彼らを雇ったらしい、という情報が入っていた筈だ。

 ヒーローや怪人スーツ姿ならばいざ知らず、生身のゴスロリ少女に彼らの相手ができるとは思えないのだが……。

 噂をすれば影というか、そんな話をしていたら本当にその集団が出てきてしまった。

 先程までビビって及び腰だった活動家達も、もう一安心だと言わんばかりに思い思いに肩の力を抜き、のど飴等を取り出している。

 どうやらゴスロリ少女の公開処刑を休憩中の見世物にしたいらしい。


 「小隊長! 助けに行かなくていいんですかッ!?」

 多勢に無勢どころか、30人ほどの不良を相手に生身の少女が勝てる未来が見えない。例えそれが支部で有名な人物であろうと、か弱い少女に変わりはないのだから。

 しかし小隊長は軽いジェスチャーで助けは不要だとミモリをあしらう。

 「アイツはお前さんが思ってるよりも格段に強いよ。……そして勘違いしてそうだから言うが、アイツは男だ」

 小隊長が指を指すのは、画面に映るゴスロリ少女。

 どう見てもそれなりの美少女に見えるその人物。

 小隊長の言葉を処理するのに、数瞬を要した。

 「……は? おと、こ………?」

 ミモリは目を擦ってもう一度、カメラが捉えている映像を観る。

 そこには衣装も化粧もバッチリ決めた、それなりの美少女しか映っていないはずなのだが。

 「あれ、が……?」


 「アレは男だ。忍者の技術ってのはすげーよな。……ほれ見ろ、身長(タッパ)が周りの男共より若干上だろ? 厚底なしでな。しかも肩幅は筋肉がある分ツカサの方が広い。どう見ても男さ」

 まぁ認識阻害装置のせいで、初見だと勘違いするけどな、と小隊長は笑う。

 いやまぁ、彼女……いや彼が男なのは百歩譲ってヨシとして、

 「何故女装をして外出を?」

 「んなもん知らん。自分で聞いてこい」

 別にダークエルダーによる作戦中とかでもなく、何故か私用で女装をして外出しているらしいツカサ氏。

 おそらくは、近寄ってはならない人種なのだろう。


 とか何とかやってる内に、ツカサ氏はアウトロー集団に囲まれ、まるで品定めでもするかのような下卑た視線を浴びせられている様子。男なのに。

 ステルスドローンをギリギリまで近付け、何とか音声を拾える距離を保つと、聞こえてくるのは世紀末の三下共がやっていそうな笑い声だ。


 『なぁネェちゃん。アンタ暇なようなら俺達と遊ばない? あんまりあの人達に絡むと、こわ~いお兄さん達にイジメられちゃうよ?』

 アウトロー共はツカサ氏を完全に女性だと信じているようで、舐め腐った態度で半笑いしながら己のリーゼントを梳いたりしている。

 しかしツカサ氏はビビるどころか完全にバカにした顔で、

 『あら、恐いお兄さんってどなたの事かしら? まさか、そんなサ〇エさんみたいな髪型して気取ってる貴方達の事じゃあないわよね?』


 そう言い切った刹那、ノータイムで金属バットが振られ、ツカサ氏の横っ面を打った。

 「うわ痛っ!?」

 そう、他人事ながら思わず声が出た。

 まさか女性相手に(正しくは女装だが)容赦なく顔面を狙ってバットを振るうなんて、ミモリには想像すらできていなかった。

 どこか、このまま口論の延長線上で引き伸ばされるのかと、そう思っていたのだが。どうやらこのアウトロー集団はかなりぶっ飛んでいるらしい。

 今回は挑発したツカサ氏も悪い気がするが。


 「い、今の大丈夫なんですか? 助けに入らなくて……」

 明らかに不意打ちかつ凶器が凶器だ。歯の何本かはやられた可能性もある。助けに入るタイミングとして遅いくらいだが、行かねば更にヒートアップするかもしれないワケで。

 しかし、小隊長達は画面から目を離す事すらしない。

 というか、誰も心配している素振りすらないのだ。


 「行っても邪魔になるから、座ってろよ」


 「あーあーアイツら、ウチの喧嘩大好きマンに正当防衛の理由を与えやがった」


 「アイツらが何分間生き残れるか賭けるか? 俺は五分に100円」


 「四分に200円」


 「三分に100円」


 「お前ら、小隊長である俺の前で堂々と賭け事始めんなよ……。俺は大穴、一分三十秒以内に100円だ」


 「小隊長まで……」


 大の大人でも金属バットで顔面を殴られて平然としていられる筈がないのに、彼らはどこまでも呑気だ。

 ツカサ氏、見捨てられて可哀想に……なんて思いながら、ミモリは画面を覗き込む。

 そこでは、

 『……あらあら、ねぇどうしたのリーゼント坊や。そんな驚いた顔をして』

 殴られた筈なのに可笑しそうに弾んだツカサ氏の声と、()()()()と握り潰された金属バットの成れ果てを見て、驚愕に歪むアウトロー達のあほ面が並んでいた。


 殴られる瞬間に金属バットを片手で受け止めて、なおかつ握力だけで握り潰したのだと理解するのに、そう時間はかからない。

 「……私は、二分に100円賭けときます」

 そう言ってミモリは、自らのスマホでストップウォッチアプリを起動して無言でタイマーをスタートさせた。

 スイーツバイキング、遠くね?

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