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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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スイーツバイキング その2

 自動人形達の妨害もなく駅前へと到着した一行は、しかしその場で足止めを食らう事になってしまった。というのも、


 「悪の組織は即刻解体せよー!」

 「ダークエルダーなんかのさばらせるなー!」

 「ウチの女房を返せぇー!!」

 「怪人のビジュ本出して!! お金なら払うから!!」


 「ヒーローはんたーい!!」

 「子供に戦争をさせるなー!」

 「暴力による統治を赦すな! 善も悪もなく、全てを牢屋にぶち込めー!!」

 「うおおおぉぉぉぉ魔道少女まりりんたんカワユス! 汗だくの脇をスーハースーハーしたいお!!」


 という、悪の組織反対派連合とヒーローアンチ一派による対立で道路を塞がれてしまっているのである。

 なんか互いの陣営に変人が紛れ込んでいるようなのだが、あれは問題ないのだろうか。

 「うわぁ……」

 これにはその場にいた無関係の市民達もドン引きというか、普通に迷惑を被っていて。皆やるせない表情をしながらなるべく巻き込まれないように遠巻きに眺めている。

 塞がれているその道を通らねば大きく迂回する羽目になるので、しばらくは待ってみよう、という考えなのだろうが。活動家達からすれば、自分達の主張がこんなにも聞いてもらえると勘違いして更なるヒートアップに繋がるだけにも思える。


 「どうするつか……小毬ちゃん。迂回するか?」

 正体を隠しているとはいえ、日向達もヒーロー。このような両極端な論争を見ていたくはないのだろう。他の面々も同様に、避けて通りたいと思っているらしいが。

 「……残念ながら、予約したスイーツバイキングの店は丁度あの辺りなんですの」

 そう言って小鞠が指を指すのは、ヒーローアンチ達の丁度真後ろ。

 そこのデパートの上階にスイーツバイキングのお店があるのだが、彼らはその入口を完全に封鎖してしまっているのだ。


 別に遠回りして裏の入口から入っても問題はないのだが、それだとなんだか負けたような気がしないでもない。

 「……ごめんなさい皆さん、ちょっと巻き込まれないように離れていてもらえますか?」

 そう言って小鞠は、袖口からベネチアンマスクを取り出し身に付ける。もはや正体なんてバレないレベルまで変装……もとい女装しているが、念の為だ。

 「兄さ……小毬ちゃん。下手に絡むと余計な事になりますよ?」

 こういった主張をする奴らは大概どこかのネジが外れているのだと、ジャスティス白井の一件で身に染みているカレンが忠告してくれるが、それは小毬も百も承知の上。


 既に通報済なので、あと数分もすれば警察に扮した筋肉部隊がやって来て彼らを拘束してくれるだろう。だが、小毬的には彼らをこのままにしてはおけないと本能が囁きかけているのだ。

 物申さねば気が済まない。

 悪の組織を憎む民衆とヒーローアンチ。その存在は何より、今のツカ……小毬が立ち向かうべき、最大の敵なのだから。



 ◇



 日向達が見物人達に紛れ、遠巻きに眺めているのを確認した小毬は、争っているワケでもないのにより一層ヒートアップし続ける両陣営の方へと向かう。そして両者をどちらも眺められる位置に立ち、

 「双方、お黙りなさい!」

 そう、大声で怒鳴った。

 両陣営の丁度真ん中での一喝により、どちらも一瞬だけ口を閉ざしたが、しかし相手がベネチアンマスクを付けた厨二病ゴスロリ少女だと認識するや否や、すぐに視線を逸らし、再び拡声器を手にして主張を再開する。

 変人如きに何ができると、そう決め付けての行動だろうが。


 「──黙れと、言ったハズですわよ?」


 それは先程よりも低く小さな声。しかし、小毬の内に眠る『気功』のチカラを最大限の殺気に換えた、怒気を孕む一言。

 小毬としては今の見た目とアニメ声も相まって、レッサーパンダの威嚇程度でも効果があればと思ってやったのだが、その効果と言うと……。

 「ヒッ……」

 その場の誰もが息を飲み、恐怖に顔を引き攣らせながら小毬を漠然とした様子で眺めていた。


 ──おや、思ったより効果あり?


 実際はノアが面白半分で周辺に怪電波を流し、活動家達の生存本能を無理やり刺激する事で殺気に気付かせたのだが、それはそれとして。

 小毬としてはここでどちらかの陣営から若手が出てきて絡んでくれれば、話し合いなどせずに乱闘に持ち込めるかもと淡い期待を寄せていたのだが。こうして独壇場となってしまったら、言葉で説得するしかなくなってしまう。

 言葉を尽くすのも面倒だから暴力で手早く済ませてしまおうという考えが無駄になったが、仕方ない。

 暴力は良くないと言われようが、正当防衛からのスタンロッドの使用までなら事後承諾でヨシとされるのがダークエルダーの良いところだ。

 閑話休題。


 「貴方達、行政の許可も取らずにこんな道を塞ぐような行為は禁止されていますわよ! 即刻解散し、然るべき認可を受けてから人様の迷惑にならない場所で行いなさい!」


 「……わっ、我々は悪の組織に対して抗議という行動を起こしているんだ! この正義の行いを邪魔するというのは……」


 「黙らっしゃい! 道を塞いで人様に迷惑をかける者のどこが正義ですか! 迷惑をかけてまで何かを主張したいのならば、堂々と“悪”を名乗りなさい!」


 「俺達が悪者だと言うのか!? 俺達は被害者なんだぞ!? 悪いのは怪人とかダークエルダーの連中だろ!」


 「今の貴方達はそれと同類だと申し上げているんですのよこのスットコドッコイ! このままデモ行為を継続するのならば、正々堂々と私が叩き潰して差し上げますわ! 再度拡声器を握ってみなさいな。次に目覚めるのは病院のベッドの上ですわよ!」


 そこで悪の組織憎しの陣営は沈黙したので、今度はヒーローアンチの方へと向き直る。

 そして、さてどのような文句から始めようかと思案し始めたところで、

 「おうおうおうネェちゃん、随分と威勢がいいようやないかい。けどな、大人達の邪魔したらアカンでぇ?」

 なんて言いながら、ヒーローアンチ達の後方から如何にもな“チンピラ”共が湧き出してきた。

 特攻服にリーゼントに金属バットや釘バット、更にはスタンガンやチェーンを振り回しているやからなんかも混じっていたりして。


 なんと言うか、小毬にとっては渡りに船と言わんばかりのグッドタイミングであった。

 言葉を尽くすより、暴力と恐怖で支配する方が何かと楽なのだ。

 それはお互いが思っていて、彼らはその為の手札として用意されたのだろうけど、その程度で小毬が動じるわけがない。

 相手がベネチアンマスク装備のゴスロリ少女と侮った馬鹿共に、本当に怖いものは何なのかを教えてやるチャンスである。

 望むべくした闘争に、小毬はマスクの下でニヤリと笑った。

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