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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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スイーツバイキング その1

 昨日の夜のことはイマイチ覚えていない。

 母屋に泊まる事を決めたあの時、夕飯のおかずには大根ステーキを所望し、軽くシャワーを済ませて夕食後に夏映画の鑑賞会をして眠ったはずだ。

 夕食の時点でうつらうつらとしていたから、その時に何か受け答えをした記憶はある。確かにあるのだが……。


 「まさかまた女装をさせられる羽目になろうとは……!」

 そうボヤキとも後悔とも取れる慟哭を発したツカサの姿は既に日向達にも引けを取らぬ程の美人へと変貌しており、何故か水鏡母が「こんな事もあろうかとッ!!」と叫びながら押し入れの奥より取り出したゴシックロリータな洋服一式(本当に何故かサイズがピッタリ)を着せられて馬子にも衣装所でない騒ぎになっていた。


 どうして平均男性よりも筋肉質であるツカサにピッタリのゴスロリ服が出てきたのか聞いてみたのだが、のらりくらりとはぐらかしながら小物を増やされるので三度目で辞めた。

 おかげで手持ちメガネとヘッドドレス、それにレースカフスまで付け加えられてしまっている。


 「くっ……くく……! に、似合ってますよぉ……兄さんっ……ぶふっ! ギャハハハハハハハ!」


 「キャラ崩壊するほど面白いか、え?(アニメ声)」


 「ひーっひっひっひっひっ! も、もうやめてぇー!!」


 変声機の調整もそれっぽくされ、通り過ぎたヒーロー達も物見遊山がてら眺めては事情を知っている人に教えられて愕然としている。

 ええそうなんですよ、その可愛らしいゴスロリ少女っぽい何かは実は男なんですよ。人は化粧と衣装とボイチェンと化学のチカラでどこまでも変われると、それだけ覚えて帰ってくださいね。


 さておき、忍者的小道具を大量に出す性質上、ひとつの部屋でひとりずつ変装させなければならないのは分かるのだが、何故ツカサを真っ先に変装させて門前で待ち合わせとされるのか、これが分からない。

 二番目に来たカレン(こちらはボーイッシュな女子校の王子様風)以降のメンツはなかなか合流してこないので、完全に見世物だ。


 「仕方ないじゃないですか。女子の着替えには時間がかかるものなんですよ」

 そうカレンは言うが、それにしてはカレンだけ早いではないか。まぁ元々顔がいいし髪型のセットとナチュラルメイク、衣装チェンジだけで済むのならば、他の人より早いのは当然とも言えよう。

 それとカレンは機械人形達と出会っていない為、顔が割れていないというのもある。

 椎名はともかく、キャロルや日向達は燕尾服に顔を見られてしまっているから警戒は必須だ。


 「……まぁ、警戒が必要だと言いながらスイーツバイキングの為だけに外に出ようっていう俺達もおかしいんだけど」

 何を隠そう、こうして女装や変装を駆使してまで人相を変えて外に出ようとしているのは、ツカサが前に椎名と約束していたスイーツバイキングの約束を果たそうとなった結果なのである。

 この辺り一帯は避難区域となっているが、駅前まで出られればまだ営業しているお店はある。これまでの囮捜査の結果、キャロルの姿をしていない少人数を襲う事は無かった為、この作戦が決行されたという事だ。


 「いいじゃないですか。ずっと篭っていてもストレスが溜まりますし、キャロルさんの影武者となってくれる人も快く引き受けてくれました。行って戻るだけならば大丈夫ですよ」

 そう美月の声がしたので振り向けば、そこには本日のメンバーが勢揃いしていた。

 ……先に申しておくが、ツカサは女性服の種類とか違いとか、そういう物が分かる大人ではない。

 なのでかなりアバウトになってしまうのだが、一応の紹介だけはしておこう。


 まずは陽。

 彼女は普段の活発な印象を抑え、ベージュのニットに同色のロングスカートを合わせて大人っぽい落ち着いたコーディネートとなっている。

 黒縁の伊達メガネと薄緑のウィッグ、厚底のサンダルとの組み合わせで別人のような印象になった。

 元々のタッパがあるせいで、ツカサを見下ろせるほどの目線の位置になっているのもポイントが高い。

 「やっほー、お待たせ!」


 次に美月。

 デニムパンツに七つ星柄の痛Tシャツにサングラス。長い黒髪をヘアクリップで留め、僅かに覗くワンポイントカラーの赤がアクセントとして入っている。

 陽の対になるようにか、こちらはパンク寄りだ。

 普段の清楚な物腰からは想像し難い、思い切ったイメチェンである。

 「どうでしょうか。かなり、普段とは違うイメージにしてもらいましたが……」


 お次は楓。

 この子はなんというか大人しめの服装だった。

 淡い桜色のワンピースに白のスニーカーを合わせ、水色系のウィッグをロングツインテールにしている。

 全体的な色合いが明るいのでよく目立つのだが、それは周りの個性に負けないように頑張って引き立てたようにも感じる。

 背伸びを覚えた女の子、といった印象だ。

 「ワンピースってなんかスースーする……。心もとないなぁ」


 一番変わったのがこの子、椎名。

 普段は地味で目立たない服装ばかりを選んでいたようだが、今日はなんとワンショルダーとミニスカートという露出の多い服装だった。

 慣れない服装なせいか、恥ずかしそうに頬を赤らめているが、周囲の圧の方が強いのでちょうど良いくらいな気もする。

 『あ、あんまり見ないでください……』


 最後にキャロル。

 こちらこそ無難にパーカー等で目立たなくしてしまうものだと思っていたが、実際は違った。

 なんとツカサと同じゴスロリ服での登場である。

 ツカサが黒で、キャロルが白の完全カラバリフォーム。小道具とメイクまで寄せてあるのだから、これはもう対になる事を狙ったに違いない。

 「ふふっ……! 司様とお揃いにしてもらいましたわっ! 後で一緒に写真撮影をお願いしますわね!」


 以上、ツカサ視点の簡単な紹介であった。

 「なんとまぁ……。みんな綺麗になっちゃって、私が見劣りしてしまわないか心配だわぁ~」

 個別に褒める胆力なぞないツカサは、一緒くたに綺麗だと褒める事でお茶を濁す。

 当然、品を作って『私も可愛い』アピールを忘れない。今日はこの集団に混じって、保護者ではなく一員としてスイーツバイキングへと赴くのだ。

 気持ちから入っていかねば我に帰ってしまう。

 隣で爆笑している妹には後で何か仕返しするのは確定だが。


 「司さん……であってるんだよな? なんかもう別人みたいなんだけど」

 待ち合わせ場所にゴスロリ少女っぽい何かとカレンしか居ないのだし、間違ってはいない。間違ってはいないのだ。

 だがしかし、今はこう答えておこう。

 「違いますわっ! 今の私は……そう! 名を『小毬』としますわ! この格好でいる内は小毬ちゃんと呼んでくださいまし!」

 そう高々と宣言する事でツカサは……いや、『小毬』は、コスプレイヤーとして“此処に有る”事を受け入れたのだ。


 それに感化されたのか、感極まったように震えていたキャロルが急に顔を上げ、

 「ならばワタクシも名を変えますわっ! 今よりこの道楽の間、ワタクシの名は『クドリャフカ』! この格好の間はクドとお呼びくださいまし!」

 という謎の張り合い方を見せてきた。

 「クド!」

 「小毬ちゃん!」

 抱きつくのは流石にやり過ぎなので、両手を上げてのハイタッチ。もはやノリとテンションの領域である。


 「……はいはい、分かったから。皆さん、行きましょう?」

 爆笑から一周まわって冷静になってしまったカレンに促され、一行はワイワイとはしゃぎながら門を潜る。

 丁度先程まで29回目の襲撃があったらしいから、今はまだ平穏だろう。

 目指すは駅前、そこのスイーツバイキング専門店。


 女子会(?)はまだ、始まったばかりだ!

 貂蝉アンコウさんはスイーツよりも武闘の人なので、今回の女子会には参加していません。

 キャロルの格好をした囮ちゃんの傍で強い敵が来るのを待っています。

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