ダークエルダー幹部会 その4
正直に言おう。
会議は半分寝ていた。
無論、ちゃんと居眠りボタンは使ったので起きているようには見えていたハズだ。
だけど、やっぱり夜通し戦い抜いた後に会議なんて体力が保たないんだよ。
……という事で、以下は黒雷がギリギリ聞くことのできた実際の会話内容の抜粋である。
有り体に言えばダイジェストである。
会議自体はものの一時間足らずで終了したので、後でアーカイブ映像を見せてもらえればいいのだ。
社会人として情けなくはあるが、元より何人かは居眠りする前提らしいし(というか首領や男坂も時折身動きを取らなくなっていた時間があったので)、そんなもんだと思って欲しい。
◇
セレナ:現状、日本国の支配は約68%に到達しております。これは協定関係にあるヒーロー・組織を含めていない数値でして、それらを含めれば約75%ほどとなります。
リオンハート:残り25%か。手強いな……。
カシワギ:まぁ初期の侵略目標のひとつであった『ブラック企業の撲滅』に関してはほぼ完了したと思ってもらって構わんよ。残りは3K業務や個人事業主など、効率化を極めねばならぬ仕事ばかりじゃからのう。
男坂:監督署は真っ先に是正したのだが、やはり己の身ひとつで稼いでいる職人というのは、動ける内に稼ぎたいという性分らしくてな。サポートしつつ様子を見るしかないだろう。
……
………
…………
セレナ:……スーツの……化計画につい……が。
カシワギ:順調そのも………。アクターが優秀過ぎて………っておる………じゃ。
首領:結構。手早く…………よ。もう時間も少な…………。
ブロッサム中佐:その、……使とい………本当に…………しょうか?
セレナ:間違いありません。現に北………では機……………。
カシワギ:運良く………が捕え………でな。調べ…………。
……
………
…………
セレナ:食堂のデザートの種類を増やして欲しい、という要望なのですが。
カシワギ:パンドラ☆ボックスだけでは足りんと言うのか? 欲が深過ぎるのう。
イサミ:アレには欠点があってな。珈琲系統のデザートを作った後にそのまま次を作ると、若干風味が残ってしまうのだ。おかげでバナナ味のプロテインバーがバナナ珈琲味になったと苦情が届いている。
カシワギ:洗え。
黒雷:ちなみにその風味が残る仕様を逆手に、濃厚ワサビチップスを生産して次の者に嫌がらせを仕掛ける者もいたが、丁寧に“お話し合い”をさせてもらって事なきを得た。
カトリーヌ:人間とは実に愚かですね。ノア様の1wでも浴びて利口になるよう努めて欲しいですわ。
春風:………ひょっとして今の、人間の言う『爪の垢を煎じて~』っちゅうヤツの精霊バージョンかいな?
カトリーヌ:小粋なジョークですの。ノア様の電撃ならばワタクシが浴びたいくらいですわ。
全員:………。
セレナ:……はい、では次の議題ですが………。
……
………
…………
首領:諸君は紙パックジュースだと何味が好みかね?
セレナ:私は黒ゴマですね。
男坂:ミックスジュース。
リオンハート:帆立のバター醤油仕立て。
黒雷:私はプリ……えっ!?
ブロッサム中佐:黒雷くんはまだ知らないかね? 地域限定でゲテモ……ごふん。意欲的な味の紙パックジュースを販売している自販機が存在するのだ。
イサミ:ちなみに帆立のバター醤油仕立て味が入っている自販機はレアでな。秋葉原のとあるビルの屋上にある一台にしか入荷していない。
リオンハート:同じ自販機にイカの塩辛味と明太子じゃがバター味と味噌バターコーンラーメン味があってな。酒飲みに人気なのだ。
黒雷:ら、ラインナップが偏っていますね……。
……
………
…………
カシワギ:………の事業が好調…………というか、どこもルミナ………。………黒………。…………! …………?
イサミ:………? …………しいな。その調子で………む。
リオンハート:しかし危険すぎや………か? 神から………………なんぞ、得……………?
カシワギ:キミの隣にそ……………。……………まぁ人体………………からのぅ。来……べき決戦……………。
首領:………これ…………ろし…………む。
……
………
…………
セレナ:では、以上をもちまして今回の幹部会を終了と致します。アーカイブは放送終了の一時間後にアップロードされますので、要点を纏めた資料と共に再度確認をお願い致します。では首領、一言を。
首領:うむ。皆の者、今日は有意義な幹部会ができた。我らの目指す日本国への道も大詰めではあるが、常に最善手を打ち続けねばならない覇道でもある。
まずは目先の目標として、数日後のコンサートだ。こちらを犠牲者なく完了させる事こそ、我らの覇道の一歩となるだろう。
諸君の健闘に期待する。以上。
セレナ:……はい、ありがとうございました。これで配信及び生放送を終了致します。皆様、お疲れ様でした。
◇
「やーっと終わったー!」
配信が終わり、照明が元の明るさへと戻った瞬間。誰よりも先にそう声を上げたのはなんと首領その人であった。
「シンイチロウ様、あからさま過ぎますよ」
そう窘める声を上げるセレナも、既に上着を脱いでラフな格好へと変わっている。他の面子も(春風師匠は最初からだが)気を抜いたように、それぞれ怪人スーツや硬っ苦しい装備を脱ぎ捨ててリラックスしたモードへと突入していた。
変わり身が早すぎる気はするが、郷に入っては郷に従えという事でツカサもまた変身を解除しておく。
しかし、皆して楽な格好になったとはいえ誰も席を立とうとしない。それどころか、先程までよりも更に真剣な表情をしている者までいるではないか。
「──さて、では本日のメインといきましょうか」
そうシンイチロウが言葉を発するだけで、空気が一段と重たく、ピリつくようになった。
一体何が始まるのか、ツカサには分からない。だが、生放送や議事録にも残せないような何かが始まるのだと、それだけは理解出来る。
思わずゴクリと喉を鳴らすツカサ。
重苦しい空気の中、シンイチロウがゆっくりと口を開き、
「では今回も、『マイ推しヒーローの活躍を布教・語りたいの会』を開催しまーす!!」
イエーイ!! と、先程までとは段違いのテンションではっちゃける幹部たち。
思わず机に突っ伏してしまいそうになったツカサだが、今にして思えばさもありなん。
わざわざこの、ダークエルダーという悪の組織の幹部なんてポジションに着く人達は、ヒーローアンチになんてなりようがないのだ。
彼らは皆、ヒーロー達をリスペクトしつつ敵役を選んだ者達。正義あっての悪であると、それを真に理解しているからこそ首領が選んだ側近なのだ。
ならばこそ、推しのヒーローがいて当たり前。それを人知れず語り合うこの会こそ、幹部会の本当の姿なのかもしれない。
……本当にそうか?
本当の本当にか?
(まぁ、いっか)
寝不足と急なテンションの振れ幅と配られた高級カステラの嬉しさで思考を放棄したツカサは、さて他の人がどれだけの事を語るのかを観察するフェイズへと移行する。
何せその長さと質によって、自分の語るブレイヴ・エレメンツへの愛の重さが変わるのだから。
そしてその日の語りたいの会はたいそう盛り上がり、四時間にも及ぶ長丁場となったそうな。
そしてこれは余談だが、ツカサが道場へと戻った時には、足の踏み場もないくらい道路一面に人形だったガラクタが転がっていたとさ。
黒雷が居眠りしていて聞いていなかった部分は“……”となっておりますが、大体は今までの話から推測できるようにはなっています。
伏線というか、今後何が関わってくるのか、というのがちょっと分かるので、良ければ拙作を読み直してみてくださいね(ダイマ)。