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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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ダークエルダー幹部会 その1

 幹部会の事をすっかり失念していたツカサ。 

カシワギ博士との問答の後、護衛の任務はカゲトラ達に一任してツカサは単騎で支部へと出社し、そこで時間まで仮眠を取って、その後はカシワギ博士と共に電車に乗ってブラリ池袋までの旅となる。

 慌ただしいようだが、支部には圧縮睡眠装置付きベッドが備えてあるのでまだマシな方だ。身体の疲れは寝た時間分だけだが、脳の疲労は8時間分きっちり寝た時と同じだけ回復してくれる優れものなのだから。

 残りの疲労は移動時間中に“気功”を練り上げて無理やり回復させてしまえばよい。全快は無理だが、少しは楽になるはずだ。

 いやほんと、便利な能力である。



 ◇



 そして、どうにか動けるだけの体調を整えたツカサは、カシワギ博士を連れ立って支部を出た。

 数度しか着ていないようなパリパリのスーツを着たツカサと、普段着に近いカジュアルな女子服を着たカシワギ博士とではとても不釣り合いなのか、周囲からずっと不審な目で見られていたが、こればかりは仕方あるまい。

 カシワギ博士の中身は初老のおっさんとはいえ、見た目だけはそれなりに美形のロリっ子なのだから。


 「ごめんね()()()。私、一人だと必ず一悶着あるものだから」

 そう言うカシワギ博士は、あまり悪びれた様子もなく電車待ちの時間で平然とスマホアプリで遊んでいる。

 普段は支部に引きこもっている為に問題とならないのだが、稀に外に出る時は誰かと一緒に動かないと迷子に間違われたり、攫われそうになったり、補導されたりしてしまうらしい。

 なので今回はツカサを兄として、遊びに出掛けた兄妹という設定にしたんだそうな。


 「兄妹設定は分かりますけど、その口調は完全にカレンに寄せてますよね?」

 「あっ、バレたかの? カレンくんには内緒で頼むよ?」

 こうして茶目っ気を出してテヘペロしてくるのはいいが、そういう可愛いことをやられると見た目が麗しいだけのマッドサイエンティストおっさんである事を忘れかけるので辞めてほしい。

 美少女という名の暴力は童貞ボーイには過ぎた毒である。


 「そういえば、ツカサくんもそろそろ身を固めてはどうじゃ? もう将来なんて気にせんでも問題ないくらいの金はあるんじゃろ?」

 と、独身どころかTSロリ化までした人に言われても何だかな、となる話題ではあるのだが、これがカシワギ博士なりの話題の振り方なのだろうか。

 「そんな相手がいればいいですけどねぇ。それにまだ、そんなにお金を稼いでいるワケでもないですし。今は仕事と趣味の両立で手一杯ですよ」

 そう、割と本気で答えたのだが、カシワギ博士は何やら訝しんでいる様子。数秒、ツカサの顔を見詰めて唸ったあと、唐突にポンと手を叩いて、一人だけで「あぁ~」と納得してしまって、またアプリへと戻ってしまった。


 「……いや、なんですかその気になる感じ。なんで一人で納得しているんです?」


 「いやいや、大丈夫じゃ問題ない。そういえばキミが忙し過ぎて教えるのを忘れていた事があったのを思い出したんじゃ」


 「えっ、なんですか?」


 「残念ながら今言うべきではないな。会議が終わって、戻ってからじゃ」


 「気になる言い方を……」


 「スマンのう……。これは間違いなくワシの落ち度じゃ」


 結局そう言ってのらりくらりと教えて貰えないまま、時刻表通りに電車はやって来て。

 ふたりは混雑している電車に乗り込んで、池袋へと向かったのだった。



 ◇



 そして到着した池袋。

 平日にも関わらず人でごった返している通りを抜けて、行き着いたのは見上げる程の高層ビル。

 「ここの……何階じゃったか。まぁ表向きは普通の株式会社を名乗っておるからな。見た限りでは普通の企業となんら変わらんようになっとるわい」

 そう笑うカシワギ博士の後ろを恐る恐る着いていきながら上階用のエレベーターへと乗れば、僅かな振動と共に階数表示がぐんぐんと数値を上げていく。

 ツカサの心拍数もそれに伴って上がる一方なのだが、カシワギ博士の方は慣れているのか棒付きキャンディを取り出して舐め始める始末。


 間違いなく場違いな幼女を見るサラリーマン達の奇異の目を意識しないように、無関係の一般市民を装いながら待つこと少し。ほとんどの人が下の階までで捌けた後、最後まで残っていたツカサ達が降りたその階こそが、悪の組織ダークエルダーの本部という事になる。

 「……『株式会社阿卦伽藍(あっけからん)』オフィス………」

 エレベーターを降りてすぐの看板にはそのような文字。

 阿卦伽藍……呆気らかんか。なんか、()()()()って感じの名前で胡散臭さがマシマシである。

 家系ラーメンで修行した弟子が、暖簾分けの後に自分の店に付けるならこういう名前にしそう感が強い。誰もこれが日本最大規模の悪の組織の本部とは思わないだろう。


 「ようこそ、カシワギ様、ツカサ様。本日の会議室は右手通路奥の『第三会議室』となっております」

 受付は何故か顔パス……というか、初めて来た筈のツカサすらコードネームを覚えられているようだ。そのまま支部と似たような光景が広がるフロアを抜け、案内された部屋へと入る。

 そこには既に、数人の男女が着席して自由にしており、最奥には……。


 「やぁカシワギくん、お久しぶり。そしてはじめまして、キミがコードネーム:ツカサくんだね?」

 そんな気安い挨拶をしてくれた、どこにでも居そうな草臥れたサラリーマンのようなオジサンがひとり。

 「やぁやぁ、久しいのう」

 カシワギ博士もまた、その人物に気安い感じで声を掛け、


 「ダークエルダー首領、シンイチロウ様よ」


 首領だった。


 首領!?

 遂に顔見せ、首領:シンイチロウ!


 その正体は、東京駅を歩いていたら誰も気にもとめないような冴えない容姿をした、“何処にでも居て何処にも居ない”感じの普通のおっさん!


 挿絵なんて入ろう物ならその辺のモブと見分けのつかないレベルの一般人顔! です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「あっけからん」は「あっけらかん」の誤用です。確認お願いします。
[一言] あれ?博士、、、お見合い用意してるのかな?
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