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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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突然のお泊まり会 その4

 お泊まり会はまさに地獄の様相を呈していた。

 水鏡 美月の実家である道場の前には機械人形だった物の残骸が山のように連なり、周囲一体の道路は度重なる絨毯爆撃により、舗装が剥げて何ヶ所も水道管が破裂している。

 ダークエルダー謹製のシールドによって守られている場所は無事ではあるのだが、それ以外の場所へのダメージが酷い。直ぐに修繕を開始したとしても数週間から数ヶ月はかかるだろうし、それまでに再び襲撃を受ければ元の木阿弥となるだろう。


 爆撃機の発着場は後を付けていた忍者が突き止めて、その後に組織が武力で制圧したのだが、やはりと言うか全てオートメーションで運営されており、首謀者の情報は何も出なかったらしい。

 悪の組織ダークエルダーのお膝元であり、多数のヒーロー達が治安を維持していたこの日本という国で、ここまで勢力を伸ばしつつ情報を表に出さなかった敵さんには天晴れと言ってもいいかもしれない。


 特に、これほど暴れておいてまだ敵の組織の名前すら上がってこない点が素晴らしい。

 機械人形を扱うという事と、それを湯水の如く消費するのも厭わないという点しか分からないのは、流石のダークエルダーの諜報部でもお手上げらしく、人形に少しでも何か情報は眠っていないかと血眼になって探しているらしい。

 『……とまぁ、そんなワケなんじゃけど。そっちは何か進展でもあったかの?』

 「ただ今、絶賛戦闘中で残骸の山を築いている最中なんですが!? これ以上俺に何を求めていますか!?」

 通信越しのカシワギ博士の言葉に、ツカサはキレ気味にそう言い返す。


 既に深夜を越えて空が白んできたというのに、いまだ襲撃の真っ最中なのだ。

 流石に波はあり、空爆も効果なしとみたのか二度目からはやってこなかったが、それでも大量の機械人形を送り込んでくるのは止めないつもりらしく。

 湧き出る人形に際限はないのか、次から次へと現れては破壊され瓦礫として積み上がり続けている。

 無から現れているとか、影から生成されているとか、決してそういうオカルトな話ではなく。何故かダークエルダーが目を光らせている範囲の中から、あらゆる死角を突いて突如として現れ、この場へと集い続けているのだ。


 ツカサ達も交代で休んではいるものの、睡眠妨害の効果は著しくて、ご近所様がいないことをいい事に爆音を鳴らす為だけの機械人形まで現れる始末。

 ストレスと寝不足で人を殺そうとでもしているのかと疑いたくもなるが、何故か肝心のキャロルは爆睡できるらしく、ただただツカサ達の神経を苛立たせるだけに留まっている。

 「はひぃ……。これで、ラストぉ……」

 これで通算15度目の襲撃にもなると交代で休むにしても限度があって、今は仕方なくツカサとブレイヴ・ノームが正門前のお掃除に対応していたところだった。


 他の場所は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ブレイヴ・エレメンツのふたりが対応してくれている。

 各個室で眠った事にすれば朝までは居なくなっても大丈夫と判断しての事だろうが、頼んでもいないのに手伝ってくれるのはとても助かる。

 流石はヒーロー。後で何か奢ってあげよう。


 「お疲れ様、土浦さん。誰かに見つかる前に戻って休んで」

 ツカサは山として積み上がった残骸に手を当てて格納空間送りにしながら、疲れと寝不足でへたり込んでしまった土浦へと声を掛けた。

 ブレイヴ・ノームの正体は既に組織にバレている為、気を使わなくていいのが楽だ。組織へと送った残骸の山の代わりに差し入れとして貰った、ちょっとお高めのスポーツ飲料を土浦へと手渡して、欠伸を咬み殺す少女の顔を見ないように送り出す。


 「司さん、お気を付けて……」

 土浦はそう言って、目を擦りながら宿舎へと歩いて行った。彼女も応援として出てきた時には「司さんと一緒なら幾らでもこいですよ!」と言っていたのに、一晩で5度の襲撃を受けた辺りから既に目が死んでいたので、この襲撃が終わったら寝るようにと言い含めていたのだ。

 ずっと騒音続きで寝れなかっただろうし、真夜中からずっと手伝ってくれていたので疲労困憊であろう。残りは大人に任せて、未成年はなるべく布団の中で丸まってくれていればよいのだ。


 『そういうツカサくんはまだ平気そうじゃのう。襲撃の内半分は出撃しておるというのに』

 呆れたような、驚嘆しているような。そんな声音でカシワギ博士が言うが、ツカサにもちゃんと疲労は溜まっているのだ。

 ただ、滅多にないヒーロー達との共闘を何度も何度も体験できるというその一点に限り、ツカサには特大のアドバンテージである為、こうして空元気を振り絞って戦っているのである。

 「それで、博士。その愚痴を言うためだけに連絡をしてきたワケじゃないんでしょう?」

 『もちろんじゃとも』


 周囲の掃除を終え、ようやく一息つけるとなったツカサはそのまま道路へと寝そべり目元を覆う。

 寝れないのならばせめて回復体位を取ろうという考えからの行動ではあるが、傍から見れば浮浪者か帰れなくなった酔っ払いのソレである。

 ヴォルト・ギアを使って通信しているところを他の人に見られると間違いなく不審に思われる為、敷地の中に入れないという言い訳もあるのだが、まぁ言っても仕方ない。


 「……それで、話って何ですか?」

 早く言ってもらわないと寝てしまいそうになるので、とにかく要件を終わらせてシャワーを浴びてお布団へとダイブしたい。

 次のウェーブではカゲトラと交代して、ツカサはぐっすりと寝ようかと思っていたのだが……。

 『今日は幹部会の日じゃけど、覚えておったかの?』

 「あ~……」

 すいません、今思い出しました。


 どうやら寝ている暇はないらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずこの世界の財源は謎、、、 まぁ無尽蔵の財源という可能性を除くなら、かなりの低コストで人形を生成するタイプの悪役かなにかがいそうだなぁ。
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