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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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日常は秋模様 その5

 機械人形であった燕尾服の襲撃を退け、一先ずの休息を得たツカサ達。

 後詰の為にか町に残っていた機械人形達も、劣勢と見たのか散り散りとなって各々が人混みへと紛れて町を去っていったようだ。

 まぁ、ダークエルダーのプロ追跡者達+電子の精霊による完全追尾を逃れられるものなら頑張ってみて欲しい。遅くても今夜辺りには全機体がクラックされてラミィ・エーミルのオモチャとなっている気がするが。


 だってあの子、電子の精霊といいつつ実際は超AIと雷の精霊の合の子なので、電線でもネット回線でも関係なく潜って己の分身を世界中にバラ撒ける凶悪ハッカーとしても一流の化け物なのだ。

 実際に今も各国の人工衛星にバレないように自身のバックアップとバックドアを仕掛けているらしいので、本気になれば世界を相手に戦えてしまうらしい。

 各国の軍事施設まで掌握しているのかまでは教えてくれなかったが、「私が地球上で瞬時に行けない場所はぁ、海底と人の手の通っていない場所くらいですよぉ」と宣っていたので、化学文明に頼った施設は全てラミィ……ひいては大精霊ノアの手中にあると思ってもいいのかもしれない。


 閑話休題。


 「あの……どなたかは存じませんが、助けていただけたようで、感謝致しますわ」

 周囲から脅威のなくなった事でようやくシールド発生装置の拘束から解放された少女が、未だに立ち上がれないながらも深々と頭を下げていた。

 どうやら対物狙撃銃の一件で腰を抜かしてしまったらしく、現在は日向達によってベンチへと座らされ、介抱されている状態だ。

 ツカサの事は一応警戒しながらも『敵対しなければ中立』くらいには信用してもらえたようで、日向達の方は歳も近しい感じもあってかそれなりに打ち解けてはいるようだ。

 逃げないでいてくれるのは情報を探りたいツカサとしても有難いところではあるが、未だにことある事に脇腹をつついたりしてくる土浦はどうしたものか。


 「それで、なんであんなのに追われてむぐっ!?」

 落ち着いたようなので早速お話をと思ったところ、何故か土浦に口を(仮面越しではあるが)塞がれ、言葉を遮られる。

 何をするのだ、と目で訴えかけてみるが、返ってきたのは「そうじゃないでしょ」という軽めの返事。

 そんな不甲斐ないツカサに代わり、日向が少女の隣へと座って口を開く。

「オレは日向 陽、こっちは水鏡 美月と土浦 楓で、あの狐面の人が大杉 司さん。貴女の名前は?」

 と、最初に自己紹介から入るのを完全に失念していたツカサは、同性ならばという事もあって彼女達に任せる事にした。

 まだ周囲の警戒をする必要がある為に和装から戻っていないのも威圧的だろうし、何より見知らぬ年頃の女性との会話なぞツカサには無理な話であるからして。


 「……私は、能美 キャロライン。キャロルと呼んでくださいまし」

 少女……キャロルはぎこちない笑みと共にそう言うと、またぺこりと頭を下げた。

 能美は日本の性だが、キャロラインは確か英語圏の一般的な名前であったか。確かによくよく顔を見れば、プラチナシルバーの髪色にディープブルーの瞳、人形のように整った顔立ちに白い肌と、日本人離れした容姿をしている。

 日向達に負けず劣らず美しいとさえ言えてしまうその容姿を、ツカサはどこかで見覚えがある気がするのだが……。まぁ覚えていなければ他人の空似だろう。


 「キャロルさん、どうして襲われたのかは分かりますか?」

 日向に続き、今度は水鏡がそう問い掛ける。不安な所に寄り添うように、緩くキャロルの手を握っているのがまたコミュ力の高さを思わせてくれて、美少女はやっぱレベル高いなーっとツカサは半ば他人事のように見ているしかできない。

 ええ、ツカサがやると尋問にしかならないので。相手に寄り添うだの親身になるだのは無理である。

 「……ええと、おそらくは、ですが……」

 キャロルはこめかみに指を当て、何かを思い出そうとするように唸る。


 「私は他県住みなのですが、今は仕事でこちらのホテルを取って宿泊しているのですわ。今日の打ち合わせが終わって帰宅している途中で、あの燕尾服の怪しげな取り引き現場を目撃してしまいましたの」

 なるほど、キャロルは運悪く巻き込まれてしまったタイプの被害者のようだ。

 燕尾服が何を扱っていたのかは不明だが、口封じを目論んだ以上はろくな物ではないのだろう。

 市街地で対物狙撃銃をぶっぱなしている時点でテロ組織として政府に認知されているだろうし、ダークエルダーもまた、相手が治安を脅かす者として振る舞う以上は本気で潰しにかかる事になる。

 どう転んでも詰みなハズだが、それでもキャロルを殺してしまわなければならない理由があったのだとすれば、相当都合の悪い物だったに違いない。

 例えば、国家転覆を狙えるような超兵器であったり、とか。


 「見た、と言ってもアタッシュケースのやり取りくらいなもので、何一つ内容は分からなかったのですが……。それでも、私のボディガード達を全員倒して追ってくるので超怖かったですの」

 (……ん? ボディガード達?)

 ツカサは完全に一般人が巻き込まれたものだと思っていたのだが、キャロルが普段からボディガードが付くようなVIPなのだとすれば話が変わってくる。

 キャロルを殺す事で理が生まれる組織があるのか、はたまた無関係なのか。今は情報が足らな過ぎて、考察できるだけの余地がない。


 とにかく要件をまとめてカシワギ博士にメールだけでも送ろうかと思い、スマホを取り出そうとしたツカサだったが、そういえば今は和装に黒狐面の状態であったと思い出す。

 元の私服のポケットにスマホを入れていた為、着替えなければそもそも手元にないのだ。

 事件からかなり時間も経ったし、もう警戒を緩めても良いかと、ツカサはヴォルト・ギアを操作し私服に着替える事にした。

 簡単操作で私服から黒タイツや狐面和装に早着替えができるのは大変便利なのだが、いつか人の前で誤爆しないかとビクビクしなければならないのは玉に瑕だ。


 何せ四種の着替え機能の内ふたつがダークエルダー関連である。万が一、日向達の前でコクライベルトを腰に巻いたり全身黒タイツになったりした日には、今まで積み上げてきた信用が全て水の泡である。

 カシワギ博士にでも相談してセーフティでも増やせないものかと考えつつ、ツカサは慎重にギアを操作して私服へと着替えた。

 案外和装というのも着心地がよいものなのだなと、ツカサは一息着きつつポケットへと手を突っ込み、触れた感触で当たりを付けて引っ張り出す。

 早速連絡をとスマホを起動した辺りで、なんか静かになったなとキャロル達の方を見遣れば。彼女達は何故か一斉にツカサの方を向いており、キャロルに至ってはツカサを指差してプルプルと震えているではないか。


 「あーーーーっ!!」

 そう、突然キャロルが叫んだかと思えば、腰が抜けているとは思えないほど機敏な動きでツカサの正面へと回り、胸ぐらを掴んで顔を引き寄せてきた。

 「うおっ!? なんだなんだなんだぁ!?」

 あとちょっとでも顔を動かせばキスしてしまいそうな程の至近距離で、キャロルは頬を赤らめつつもツカサの顔をじっと見つめている。

 どうしてがんを飛ばされなければならないのかとツカサの方は戦々恐々なのだが、そんなのお構い無しだとでも言いたげに、慌てて間に割って入ろうとした土浦を押し退けてキャロルは笑う。


 「──ようやく見付けましたわよ、()()()()()!」

 熱海の英雄。それはあの邪神戦線を見ていた地元民達が、あの場にいたヒーロー達を……特に、一番ド派手なトリを飾った白狐モチーフのヒーローを指して呼ぶ名である。

 ここでその名が出て来るという事は、彼女は当時あの現場にいたという事だろうか。

 そういえば、クラバットルにより攫われ、救助された巫女達の中に、彼女と同じプラチナシルバーの髪色をした少女が居たような………。

 「もう離しませんわよ、私の運命の王子様(プリンス)!」


 その瞬間、ツカサの脳内がハテナで埋め尽くされた。

 能美 キャロライン。愛称はキャロル。


 本人はクォーターであり、祖母が日本人。とある理由から地元であったロサンゼルスを離れ日本に永住を決めた少女。

 口調がお嬢様なのは漫画で日本語を勉強した影響なのもあるが、実際に名家で金持ちなのでその口調が似合い過ぎている事もあり、誰も訂正しようとしないのも原因のひとつ。


 熱海で救助された時に誰かさんに一目惚れしたらしい。

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