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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第八章 『悪の組織とお嬢と歌と』
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日常は秋模様 その3


 「助けてくださいですわァァァァァァァァァァァ!!?」


 静寂を切り裂いたその悲鳴を聞き付け、四人はほぼ同時に公園の入口へと目を向けた。

 見れば、ツカサ達のいる公園へと繋がる歩道を見事なフォームで駆け抜けるひとりの少女と、その後を追うように走る燕尾服の……老人? がいた。

 いや、本当に老人だろうか。なんとなく顔が認識できないところを見るに、ツカサのような認識阻害装置を使用している可能性がある。

 しかも目視でも認識できないとなれば、出力はかなり上げられているタイプ。印象に残らないどころではなく、端から顔を見せないようにしているのだ。


 あれでは周囲の監視カメラや通行人から思いっきり不審に思われてしまうだろうが、そもそも少女の追い込みに全速力で走っている時点で今更なのか。

 現代日本で燕尾服なぞ目立つどころかコスプレの域である、というのはツッコミどころなのかもしれないが。

 しかもよくよく見ればサブマシンガンなんて物を抱えて走っている。せめてギターケースにくらい仕舞っておいて欲しい。

 「司さんっ!」

 「あーもう分かったよ!」

 割って入るべきか迷っていたツカサは、土浦の声掛けでとりあえず突っ込んでみることにした。

 “気功”を使い、少女が公園へと立ち入ったところで確保しようとタイミングを計るが、


 「!? くっ、人が居るだなんて……!」

 しかし少女は、ツカサ達が公園に居るのを見た瞬間に慌ててコースを変え、山を登る方向へと軌道を変えてしまった。

 おそらくは巻き込まないようにだろうが、ツカサとしてはそのまま突っ走って来てくれた方が楽だったのにとも思わないでもない。

 とりあえず、ヴォルト・ギアからシールド発生装置をふたつ取り出し、ひとつは土浦達の周囲に展開、もうひとつはツカサが持ったまま一足飛びで少女の側まで移動し、投げ付けるようにして起動する。


 それにより少女と日向達を外界と隔絶する事に成功し、少なくともツカサ以外の誰かが燕尾服の持つサブマシンガンに撃たれる心配はなくなった。

 「「ぎゃんっ!?」」

 ……まぁ、飛び出そうとしていた土浦と、全速力で走っていた少女はシールドの内面にぶつかり、痛い思いをしてしまったようだが。

 「な──ななっ、なんですの!? トラップですの!? 籠の鳥って事ですの!!? 嫌ですわぁぁぁ~! まだ若いこの身空で死にたくありませんわぁぁぁぁ!」


 ぶつけたおでこを押さえつつ、無言の圧力を掛けてくる土浦と違い、このですわ少女はよく喋る。やかましいことこの上ないが、元気なのはいい事だ。撃たれていれば出血でそれどころではないだろうし。

 「……で、途中で割り込んどいてなんだけど、貴方達どういう関係? お転婆お嬢様とそのお守りをする執事ですってんならこっちの勘違いで済むんだが?」

 ひとまず場面は落ち着いたものとして、ツカサは少女を背に燕尾服と対峙する。手に持っていた()()をアスファルトに突き立ててはいるが、あくまでもツカサは対話を求めるつもりでいるのだ。


 如何に状況が少女可哀想に傾いているとはいえ、例えば少女が犯罪者などであれば躊躇わず引き渡す。

 悪の組織から脱走した構成員とかなら迷うところではあるが、今のツカサは普段とは全く違う格好をしているため、どの立場でも物が言えるのが強みとなっている。

 そう、実はシールド発生装置を投げ付けた際に、新装備を装着してみたのだ。

 ツカサの今の出で立ちは先程までのくたびれたサラリーマンのソレではなく、顔全体を覆う黒狐の仮面と大正時代を思わせる紺色の和装に同色の外装を羽織った、コスプレ同然の浪漫装備なのである。


 これはカシワギ博士に、黒雷でもハクでもない状態で正体を隠しながら暴力を振るうのに丁度いい装備はないかと打診を繰り返した結果、与えられた特注品の一張羅。

 正体さえ隠せればよいのだから適当な継ぎ接ぎの怪人スーツでもいいと言っていたのに、どうせならとツカサ好みの和装をプレゼントしてくれたのだ。

 動きやすくてサイズもピッタリ、頑丈で多種多様な機能も盛られている一級品とのこと。

 誕生日でもないのに素晴らしいものを貰えたので、ツカサは大満足である。


 閑話休題。


 「……アナタは何者ですか? 部外者は関わらないで欲しいのですが」

 案の定というか、燕尾服はツカサの質問に答える気なぞないようで。

 唐突に現れた不審者相手に事情を説明するほど酔狂でないというだけだろうけど、即座に銃口を向けてくるという事は暴力で排除することも辞さないという警告でもあるのだろう。こちらは穏便に済ませたいだけなのに。

 燕尾服が話にならないならと、ちらりと少女の方を見れば、燕尾服を指差して「殺し屋ですわ! ヤクザ屋ですわ! 命を奪う形をしてますわ!」と散々さわいでいる。

 まぁ少女視点では自分を殺しにきている謎の紳士と、自分を捕獲した変な男のツーショットだ。とりあえず争わせてしまおうと誘導する気持ちも理解できる。


 「ダメだ、会話にならない」

 状況を把握したいだけなのだが、流石に第三者に対してまともに説明をしてくれる訳もなく。どちらに味方すればいいものかと途方に暮れながらも動かないでいると、痺れを切らしたのか燕尾服が動いた。

 「そこを退きなさい。さもなくば撃ちます」

 実銃を構えての警告。現代日本で銃口を向けられる経験のない人間ならばここで恐れて逃げるかモデルガンかと高を括るだろうが、何故か実銃に撃たれ慣れているツカサの答えはそのどちらでもない。

 

 「やってみろよ、高くつくぜ?」


 ツカサがその言葉を言い放った瞬間、燕尾服は躊躇うことなく引鉄を引いた。


 銃声の連なりが木霊する。

 

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