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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
301/385

正義対ヒーローの決着

 こうしてジャスティス白井による多くの勢力を巻き込んだ反乱は終わりを告げて、日本は平和を取り戻した。

 発生から僅か3時間程の出来事ではあったが、全国一斉規模でこれ程の事件が起こったのは年初めにダークエルダーが巻き起こした日本征服事件以外に例はなく、世論は今後このような事態をどう防ぐかという問題を提議し議論を尽くしていた。


 また、この反乱に命運をかけていた中小の悪の組織は解体を余儀なくされ、同じくジャスティス白井の大半の構成員も捕まるか更なる闇へと逃れることとなり、実質的な解体と相成った。

 政府は逃れた彼らに懸賞金を掛け、ヒーローや民間の賞金稼ぎ達に速やかな拿捕を依頼。だが未だにジャスティス白井という組織の首魁たる者の姿は確認できず、捜査は難航を極めている。

 破壊された浮遊戦艦に乗っていて撃墜と共に沈んだとか、首魁本人は暗殺されていて実質的なリーダーは別人だったとか、そういった様々な憶測が飛び交ってはいるが、真実は闇の中。

 ダークエルダーに捕らえられ、完全降伏を宣言した側近の者たちですらその行方を知らないというのだから徹底している。


 今回の事件でまた日本の勢力図が描き変わる形となったが、ダークエルダーがジャスティス白井と対立する姿勢を貫いた為にヒーロー達と協力する立場となり、より勢力を伸ばした結果となったのは皮肉だろうか。

 ヒーロー側は個人勢や、政府に所属しない民間組織がダークエルダーの戦闘員にちょっかいをかけたりもしていたが、概ねその衝突は解決しており遺恨は残っていない。

 悪の組織滅ぶべし慈悲はない、という生き方をするヒーロー達へのフォローも怠らない、日本政府を裏から操るダークエルダーの組織力

の賜物と言ったところだろうか。


 何はともあれ、規模の割に大した被害を出す事もなく反乱は鎮圧され、その日の夜からは政府による大々的な全国一斉復興支援計画によってそれなりに盛り上がる予定らしい。



 ◇



 「ほな、電車もそろそろ来よるから、ウチらもぼちぼち行くな?」

 ジャスティス白井の反乱が収まった翌日、陽達四人は駅前にて顔を合わせ、別れの挨拶を交わしていた。

 「もうちょっとゆっくりしていっても良いのではないですか?」

 久しぶりに再会できたのにもうお別れかと、今この時を名残惜しむように美月が言う。

 確かに、再会を喜び合ったすぐに特訓&特訓。そしてすぐさまジャスティス白井の反乱とシャドー・ゴブリンへのリベンジと、立て続けに物事が起きて祝勝会すらも開いていない。

 社会人は忙しいのだろうが、決戦をくぐり抜けた後に休む間もなくトンボ帰りとは如何なものか。


 「でもね~……。もう、ホテル代が、ないんだよぉ……」

 名残惜しいのは同じ気持ちだと、陽に抱き着いたまま離れようとしないほむらが呟く。

 何とも世知辛い話なのだが、シャドー・ゴブリン捕縛の為に追加で振り込まれる筈だった旅費が、昨日の騒動で決着してしまった為に帰還用の電車賃分しか振り込まれていなかったらしい。

 その事について上司にケチだの守銭奴だのと罵ったそうなのだが結果は変わらず、残りたいなら有給休暇を申請して実費で泊まれと言われたらぐぅの音も出せなくなったので、渋々指示に従う事に相成ったそうだ。

 自分達の家に泊まったらどうだ、とも話したのだが、今回の事件の報告もせっつかれているらしいので素直に帰るのが身の為となるらしい。


 「今度はきちんと休みをもろて遊びに来るからな。それまで、下手なヤツに負けたら許さへんで?」

 「肝に銘じておきます」

 そう言って冰理の突き出した拳に拳を打ち合わせ、別れの挨拶とする。

 陽と冰理は淡白なものだ。どうせ今の時代はネットで簡単に会話もメッセージも送れる。関東圏から離れるワケでもないので、会おうと思えば電車ですぐだ。難しい話じゃない。

 「美月ちゃんも……また、会おうねぇ~……」

 「はい。先輩達もお元気で」

 だけれども、美月とほむら先輩の方はお互いに抱き合って、互いの背中をポンポンと叩きあっている。

 しっかりしているようで二人とも寂しがり屋なので、別れを惜しむ時間も長い。だけど、次の電車の到着を知らせるアナウンスがなってしまえばそれも終わりだ。


 「ほな、また会おうな後輩!」

 「風邪とか、引かないように、ねぇ~?」

 旅行鞄を転がして、到着した電車へとふたりが乗り込む。

 ホームドアが閉まり、発車までを見送ってしまえば、ホームに残っているのは陽と美月だけとなる。

 「……お茶してから、帰るか」

 「そうですね」

 多少の哀愁を感じたまま相方とも離れるのがちょっとだけ辛くて、近所にできた喫茶店へと歩みを進める、そんな中で。


 「……司さん、無事なのかな」

 なんとなく心配だけれども、また平気な顔であの公園へと現れるような気がしている人の顔を、ちょっとだけ思い浮かべた。



 ◇



 「こんちゃーす」

 とあるオフィス街の一角で、警察関連の施設とは思えないほど簡素な一室の中にその声はよく響いた。

 決して広いとは言えない一室に、最低限の机と椅子、書類棚に冷蔵庫。来客用のソファがそれなりに高価な事を除けば、簡素とも言えるほど飾り気のないその部屋で、ぼんやりと外の景色を眺めていた男は小さく溜息を吐く。

 「……冰理、せめてノックしてから入りなさい。そんなんじゃ将来、苦労するよ?」

 その男は国防警察の支部長でありながら、悪の組織の幹部を兼任する者。コードネーム、ブロッサム中佐。

 

 「あー、ごめんて父ちゃん。つい事務所のノリで入ってもうたわ」

 そんな大物を目の前に、すっかりリラックスした様子でソファへと座るふたりの少女、冰理とほむら。先程のセリフ通り、ブロッサム中佐は冰理の実父に当たるので、その態度もさもありなん。幼なじみとしてずっと一緒にいたほむらも、緊張する様子もなく既にぐでーっと潰れてしまっている。

 また私が子煩悩と言われてしまう……と眉間を揉む仕草をするブロッサム中佐を前にしても、ふたりに気にする素振りはない。


 時折遊びに来てもいい、と最初に言い出したのはブロッサム中佐の方だし、冰理達がブレイヴ・フォルテシモだと突き止めてからは真っ先に協力体制を取ろうとしたのもブロッサム中佐だ。おかげでそれなりのセキュリティの建物だと言うのに顔パス同然となっている。

 実際に子煩悩過ぎて困る、というのがふたりの感想なのだから。


 「まぁいい……。それで、仕事の成果はどうだったかね? 大まかな報告は聞いているが、冰理達の感想も聞きたいね」

 態度に関しては諦めたとして、ブロッサム中佐は冷蔵庫から冷えたアイスティーを取り出してふたりの前へと置く。

 仕事の成果とは、つまりは今回ブロッサム中佐がふたりに依頼した件のこと。

 偶然を装うように巧妙に追い立てられ、他の街から逃げてきたシャドー・ゴブリンの討伐と、それに合わせたブレイヴ・エレメンツの強化計画である。

 要するに、ブレイヴ・フォルテシモもまたダークエルダーの下請けとして活動していたという事だ。


 「感想も何も……。予想外と予定外と想定外が重なって偶然収まる所に収まった、というしかないねん。アホくさいわホンマ」

 勝手知ったる何とやらと、調味料棚からレモンエッセンスを取り出して己のアイスティーへと加え始めた冰理は、憤慨した様子でそう言い切った。

 「なんやねん、ゴブリンズ勢揃いとか、ジャスティス白井の反乱とか、呉柳なんちゃらの復活とか、シシオウの参戦とか! あんな死ぬような目に会うとは思わへんかったわ」

 当初の予定では、他の国防警察の人員が追い立てたシャドー・ゴブリンのみを獲物とし、ブレイヴ・エレメンツの教育の材料として使うつもりだったのだ。

 それが何故か大規模な事態へと発展してしまい、丸く収める頃には冰理達まで精霊化とかいう新たな手段を獲得してしまっていた。

 いくら何でも数奇過ぎる。


 「大精霊ノアの報告によれば、冰理達の精霊化の原因はツカサくんにあるそうだ。シシオウの助力も彼の独断だし……。まぁ、結果として最善へと落ち着いたのは彼のおかげである部分もあるのかもしれないな」

 冰理達のツカサとの接触は、あの焼肉の時のみ。つまりはあの短い時間の邂逅で既に、冰理達の命運が決していたという事だ。

 ツカサが呼ばなければシシオウはおらず、その代わりにブロッサム中佐が手配していた他のヒーローや怪人が割って入っていただろうが、おそらくブレイヴ・ミラクル・スターズとしての勝利は無かっただろう。

 巡り巡ってというか、あの男は己の運命の糸を他の人に引っ掛けて回っているんじゃないかと思う時すらある。

 評して、変な人だ。


 「でも悪い人ではないんよなぁ」

 「ねぇ~……。幸せに、なって、欲しいよね……」

 一見パッとしない見た目ながら、今回の女装のような奇抜な事を仕出かすエンターテイナー。ズボラなのと、女性に対する扱いがなってない所を除けば悪くない物件である。

 それがふたりの、ツカサに対しての感想だ。

 「なんだ、ツカサくんはフリーな様だが、気になるかね?」

 なんとはなしにブロッサム中佐が話に乗るが、ふたりの答えは「「冗談でもなし」」でにべも無い。


 「ウチにはほむらがおるし」

 「同文」

 「はいはい。そこのカップルを裂こうなんて考えてないよ」

 ブロッサム中佐はようやく見つけ出したクッキー缶を机に置き、自身の分の珈琲を入れる。冰理達は隙を見せれば目の前でイチャイチャし始めるから、常に濃いめのブラックだ。

 ふたりがこうして無事に帰って来てくれた事に安堵しつつ、ブロッサム中佐は己のスマホに届いたメールへと目を向ける。

 そこには大量の長文と、題字に『幹部会のお知らせ』と書かれていた。

ようやく終わりました。ジャスティス白井の反乱だけでかなりの文量になってる気がします。

次回は簡単なキャラクター紹介を挟んで、ようやくツカサ達の物語が再動します。


……おかしいな、もうちょっと短くまとめるつもりだったのに。

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