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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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勇気ある願いと共に その4

 始まりは、炎と炎の衝突であった。


 サラマンダーの加減を知らぬ爆炎と、綾人の撒いた小型爆弾が空中でぶつかり、破裂し、それが全員が動き出す合図となる。

 【はははっ! まさか卑怯などとは言うまいな!?】

 まず何より先に、綾人の爆煙の影から號斎が躍り出る。

 得物たる『桜断ち白兎』を大剣モードで振りかざし、刃に纏うのは紫電の雷。

 【雷遁! 雷・重・斬!】

 振り下ろした紫電と、唐突に湧いた雨雲からの落雷が同時にサラマンダーへと襲い掛かるが、彼女はもう、そのような物で怯むような存在ではない。


 『ルァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!』

 サラマンダーとドーラ、二人の声が重なって響く。

 思考まで完全に同調した二人の間に意思疎通の必要はなく、思った事も考える事もどのように動きたいかも全てが一致しているその“個”は、稲妻に怯むこと無く己の尾を立て、槍のように突き出した。

 落雷を纏う紫電と、炎そのものの尾がぶつかる。

 その衝突は衝撃波を伴い波紋の如く周囲に広がるが、チカラが拮抗していたのはものの数秒だ。

 【ぬうっ!?】

 號斎が己の不利を察して即座に飛び退いたのと同時、サラマンダーが追い討ちとばかりに加速させた尾が號斎を追う。

 炎そのものたる尾槍の射程は、実質視認距離全て。どれほど優れた具足を持っていようと、加速される前に貫ける……筈だったが。

 既の所で綾人が割って入り、尾槍が代わりに綾人の胴を貫いた。


 號斎は辛くも逃れたが、綾人が止められたならこれ幸いにと、サラマンダーは尾を高々と持ち上げ綾人を宙ぶらりんにする。

 尾槍は完全に綾人の急所を抜いているが、元々が死体の綾人には大して効果はないらしい。それの証拠に、未だに逃れようと足掻いているので、

 『消・し・飛・べぇぇぇぇ!!』

 サラマンダーは己の内から出せる最大級の火力を以て火葬とした。

 腐り損ねた肉は焼け、年月によって空洞まみれの骨まで完全な灰にするその業火により、戦国の死に損ないがひとり、散った。


 【素晴らしいな。だが、まだ彼奴らが残っておるぞ?】

 號斎の言葉と共に前へと出るは、赦サ猿、雷蔵、蔵馬の三体。

 爆煙の中、三方へと散らせていた彼らが一斉にサラマンダーへと押し寄せるが、それを遮るように躍り出る影もまた三人。



 ◇



 『行かせるわけあらへんやろ!』

 セルシウスが相手取ったのは六本腕の大猿型絡繰、赦サ猿。

 その巨腕は全て爆砕式のパイルバンカーへと変形しており、短期決戦……一撃決殺を目論んでいる事が丸わかりである。

 しかし、その程度に気圧されるセルシウスではない。

 『ガチンコ勝負や』

 相手の目論見を知ってなお、セルシウスは真正面からの戦闘を挑む。

 四股を踏むように大股を開き、腰だめに構えるのは右の拳。

 その小さき(てのひら)にあらん限りの冷気を込めて握り締めたその拳を、六門のパイルバンカーを相手にして迎え撃つようにして放つ。


 六本の杭打ちと細腕の拳。どちらが勝つかなんて一目瞭然なのだが、結果はそうとは限らない。

 『──零の拳。瞬雪』

 例えばそう、このようにパイルバンカーごと大猿が芯まで凍り付いてしまった時など、だ。

 セルシウスが拳へと込めた冷気は、氷の精霊を以てして極限まで絶対零度に近付けた冷却の極地。それを拳を振るうと共に解放すれば、前方の敵はその一切を凍り付かせ砕け散る。


 バキリ、と自身の自重とセルシウスの拳による衝撃により赦サ猿の姿が割れ、崩れていく。

 潤滑油の一滴すら残さず固形化した大猿は、己の内に秘められていたコア兼爆弾を起爆させることも無く、その身に何が起きたのかも理解出来ぬまま。最後はパーツひとつ余さず砂へと変わった。

 『……ふん、ウチらコンビが本気になればこんなもんや』

 セルシウスは己のチカラに戸惑いながらも、雪の花を散らしながらほくそ笑む。



 ◇



 鳳 雷蔵。彼はかつて戦国の世で影に潜みながらも、その凄まじい抜刀術のみが人々によって口伝され“人間を噛み斬る妖怪”として恐れられた流浪の剣士である。

 その実態は、鯉口を切った刹那から繰り出される四閃の斬撃。特殊な魔術により、たったの一太刀で四度の斬撃を放ち、それが別々の方向から被害者へと走るというものだ。

 その切断面から大型動物の犬歯に噛み斬られたと判断される為に、こうして闇夜に討ち取られ死体を弄ばれるまで捕まる事のなかった伝説が、今こそウンディーネへと襲い掛かる。


 『……!』

 交差は一瞬。だけれども、その一瞬にしてウンディーネの身体は三分割され、腹部をダルマ落としのように切り離される。

 『まぁ、水を斬っても殺せないのは分かっていたでしょうに』

 水をみっつに分けたところで水は水。精霊と同一化した今のウンディーネに斬られて怖い箇所などなく、すぐさま元通りとなって雷蔵を抱き締めるようにその水の身体で包み込む。

 『おやすみなさい』

 その言葉と同時に放たれたのは、全身から打ち出した無数のウォーターカッター。水の刃を音速で飛ばすその斬撃は雷蔵に抵抗の余地すらも与えず、その身をサイコロステーキ状にまで細分化し、足下の水溜まりへと沈めた。



 ◇



 『……まさか、空を自由に飛びたいなという願いがこういった形で叶うとはね』

 イフリートは現在、空に居る。

 蔵馬の首根っこを掴み、そのまま己の持つ翼で空高くへと飛び上がったのだ。

 蔵馬も散々抵抗したが、焔の擬人化的存在であるイフリートに対して有効打がある訳もなく。抵抗の証として、イフリートの体内へと突き刺した刀と右腕は完全に焼け落ちて黒焦げた何かへと成り果てている。


 『もうやれる事はない? この状態だとどのような弱点があるのかとか、そういうの知りたかったんだけど』

 イフリートの感情は至ってドライだ。己が精霊と化した興奮よりも先に、何が出来て何が出来ないのかを明確にしたい、という興味が前に来るらしい。

 『何もないなら……。じゃあ、さようなら』

 加熱して、灰にして、捨てる。

 もはや勝負すらならないまま、蔵馬は風に散り空へと消えた。



 ◇



 そうして四体は早々に葬り去られ、號斎のみが境内に残った。

 相対するブレイヴ・ミラクル・スターズは四人とも健在。

 もう勝負は着いているというのに、號斎は未だに剣を納めるつもりはない様子。

 『もう、いいだろ? これが最後通牒だ。負けを認めて投降しろ』

 油断なく尾を揺らしながら、サラマンダーが問う。

 最初はシャドー・ゴブリンへの報復が目当てだったのにも関わらず、事態が二転三転した結果がこの状況だ。

 素直に降ってくれればいいと願いつつも、同時にそれは叶わない願いだとサラマンダーは思う。


 【すまんが、断る】

 案の定、號斎の返答はにべも無い。

 彼だって分かっているのだ。遠い未来とはいえ、己の門弟が仕出かした後始末は付けねばならないと。

 勝負の決着は、頭領の死を以て決するべきである、と。

 【そこな観測者気取りよ、受け取れ】

 ふと、號斎が巻物を口寄せすると、それをとある方向へと放り投げた。

 その先には、『私はこの事件に無関係の観測者です』とわざわざプラカードを持って観戦していた赤いキツネ面の少女。


 「アタシでいいのかい?」


 【もうこの状況を知る九九流の者はお主の他におらぬ】


 「消去法かね。他の負けたゴブリンズでもいいとは思うケド」


 【奴らには未来がない。貴様にはある。それだけだ】


 「そうかい」

 キツネ面の少女はそれだけ言うと、巻物を懐へと仕舞う。

 何者なのかは少し気になるが、敵対する気がないのならば今は放って置いても良いだろう。


 【待たせたな】

 もう用事は済んだとばかりに、號斎は改めて剣を構えた。

 もはや問答は不要なのだとその目が語るので、サラマンダーも仕方なく尾を槍のように構えて四肢にチカラを篭める。

 どちらとも合図はなく。双方が同時に地を蹴り、交差、そして……。


 【天晴れである】

 そんな言葉を残し、シャドー・ゴブリンの胸元へと埋め込まれていた水晶玉が砕け散った。

 人の倒れる音を背後に置いたまま、サラマンダーは無言で蒼穹を仰ぎ、吐息を零す。


 長い一日。それがようやく終わったのだ。

祝:300部分!


それぞれ文字数に多少の増減はあれど、週一ペースでコツコツと書き続けてここまで辿り着きました。


これからもどうか、拙作をよろしくお願い致します。

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