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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第二章 『悪の組織と宇宙からの来訪者、デブリヘイムとニューヒーロー』
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新たなヒーローの挨拶と状況説明

 ブレイヴ・エレメンツとの戦闘の後、謎のヒーロー(?)の登場により、なんとか撤収できた黒雷達。

 裏で行われていた作戦も滞りなく終了し、その部隊もすぐに帰還する事ができた。犠牲になったのはツカサの左肩のみである。

 黒雷の装甲は黒タイツ以上の防御力を誇る筈なのだが、剣術を納めたヒーローの渾身の一振というのがこちらの予想以上に強く、ツカサは骨折はしないまでも打撲でしばらくは満足に腕を動かせない程度の怪我を負ったのであった。



 「なぁツカサ、あの最後に現れたヒーローは誰だと思う?」

 医務室で一通りの治療を終えたツカサは、カゲトラと共に支部内に作られた喫茶店を訪れていた。

 一般客にも解放されているこの喫茶店では、黒タイツを脱いだ戦闘員やら支部の事務担当の人達が思い思いの過ごし方をしている。支部の作り自体は一般的な商業ビル等となんら変わらない為、周囲の街並みに紛れ滅多な事ではヒーロー達に見つかる事もないだろう。

 そんなオサレな空間の中、ツカサとカゲトラはパーテーションで仕切られた奥の席に座りコーヒーを啜っていた。


 「誰って隣の県で活躍中のヒーロー、『流星装甲(メテオナイト)アベル』じゃないか」

 「……そういやツカサはヒーローオタクなんだっけ?」

 「特撮オタクだよ。現実にいるヒーロー達は一応一通り調べた事があるってだけ。というかいずれ戦うかもしれない相手の事くらい調べてるのは当たり前だろ?」

 ツカサはコーヒーを啜りながら事も無げに話す。普通は太陽を背にしたシルエットと多少の会話だけで判断できないだろ、というツッコミをカゲトラは声に出しかけたが、言っても無駄だなとコーヒーと共に飲み込む事にした。


 「流星装甲アベルは突如長野の山奥に飛来した隕石を装甲として纏った戦士で、その隕石と共に地球へとやってきたとされる地球外生命、デブリヘイム達と各所で戦闘を繰り広げているんだ。装着者は日本人の男性なんだけど、顔や本名なんかは規制が入っていて公表はされていないようだね。ただデブリヘイムが暴れた所にすぐに駆けつけてその場で変身するから、顔を見たって人は多いそうだ。そして彼が……」

 「ツカサ、その話は長くなりそうか?俺達に来客みたいなんだが」


 喫茶店で来客?とツカサが顔を向けると、コーヒーを乗せたトレーを手にこちらへと歩いてくる二人組が見えた。一人は白衣を着た幼女、カシワギ博士。もう一人はツンツンした黒髪を伸ばした幸薄そうな青年。

 「やあやあお二人さん。相席いいかね?」

 そう声掛けつつも返事を聞かず空いてる席へと勝手に座るカシワギ博士。黒髪の青年にも、はよ座らんかと声を掛け、自らはコーヒーの中にこれでもかと砂糖とミルクを注いでいる。

 「先程会ったらしいが改めて紹介しようかと思ってな、連れてきたんじゃよ」

 ティースプーンでぐるぐるとコーヒーをかき混ぜつつ博士は言う。しかしツカサにはこの青年と会った記憶はなく、カゲトラの方を見ても心当たりはなさそうで、こちらを見て緩く首を振るだけだった。


 「さっきは自己紹介もせずに現場を離れてしまって申し訳ない。俺は社員コードネームトウマ。またの名を流星装甲(メテオナイト)アベルです」

 アベルが変身時に常に左手首に装着しているという星装ブレスを二人に見えるように翳し、そう青年は口にした。

 「……あー、なるほど。それなら確かに会った事になるか。どうも、黒雷の中の人ことコードネームツカサです」

 「同じく怪人スーツの中の人、カゲトラです」

 共に自己紹介をし、握手を交わす。年齢の割にはゴツゴツとした手のひらが印象的で、それだけ長く武器を握ってきたのだと、ツカサは尊敬の念を込めながら念入りに握り返した。


 「ヒーローなのに社員コードネームがあるって事は、ダークエルダー所属のヒーローって事でいいのか?」

 挨拶が終わり、皆が席に着いた段階でカゲトラが質問する。普通ならヒーロー達とは敵同士であるはずのダークエルダーだが、この組織は最初から全国規模で全容を把握している人間の方が稀である。中には悪の組織発のヒーローだっていてもおかしくはないとの発想からだろう。

 「正確には違います。俺はあくまでも、この国の対デブリヘイム対策組織に所属している事になってます。ですがその組織もダークエルダーに吸収されたため、習わしとして社員コードネームを貰った感じですね。まぁ普段から本名を隠しているので俺としてはこっちの方が都合が良かったりもしますが」


 デブリヘイムの駆除ができるのであれば、悪の組織に所属しようが問題ないと言いきるトウマ。過去にデブリヘイムとの間で何かあったのか、時折浮かべる暗い表情には鬼気迫るものを感じたが、それを聞けるほどツカサ達は無神経ではない。

 「で、そのデブリヘイムとやらの活動範囲が、我々の支部の方に近付いてきておるようでな?トウマくん達の活動を支援するのもダークエルダーの仕事という事で、この支部を彼らの活動拠点としてもらう事に決まったんじゃよ。もしかしたら作戦中にバッタリ出会うかもしれないと思ってな、真っ先に顔合わせをさせたんじゃ」


 同士討ちは避けたいからの、とカシワギ博士は笑う。その言葉で思い出したのか、トウマが居住まいを正しツカサへと頭を下げた。

 「今日の戦闘ではフォローしていただき、ありがとうございました」

 「いやいや、俺もあのままだったらウンディーネに叩きのめされてたから。俺が礼を言う方だよ」


 ツカサが思うに、フォローと言うのはウンディーネに発砲した後の問い掛けの事で間違いないだろう。トウマとしてはこれから世話になるかもしれない味方の窮地を救おうとした結果の発砲だろうが、アベルというヒーローの立場からするとそれはマズい事になる。

 何せアベルがダークエルダーに所属しているという事実は表沙汰にはなっていないのだ。彼からしたらそんな事はさしたる問題でもないのだろうが、他のヒーロー、例えばブレイヴ・エレメンツに敵として扱われるかどうかで、今後の活動のしやすさが全く変わってくるのだ。


 他のヒーロー達に「味方ではないにしろ敵でもない」と判断されたままであれば、ダークエルダーの支援を受けつつヒーロー達と共闘することも出来る。逆に敵と判断されたなら、彼は今後デブリヘイムの他にヒーロー達とも戦う事になるかもしれない。彼もツカサの問い掛けでその損益を考えついたのか、あの場では特に拗れさせずにすんなり退散した。少々強引ではあったが、次に会った時に釈明すればまだ敵とは認識されないだろう。


 「今後は俺もこの町でヒーローとして活動する事になりますが、俺の任務はあくまでもデブリヘイムの撲滅。それを理由に、皆さんを見かけても見逃す口実にはなるかと思います。表立って協力する事はできませんが、どうかよろしくお願いします」

 そう言って、青年は深々と頭を下げたのだった。

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