転勤 その1
筆が遅いので分割でも頑張って更新していきたいと思います。
「おぅいツカサ。お前の転勤、正式に決まったぞー」
「ホントてすか!?」
あれから少し後。とある悪の組織の支部に、大声が響いた。
「嬉しいのは分かるが落ち着け。あちらも人手不足だったようでな。最前線に出たがる奴なんて少ないから、思ったよりもすんなり通ったぞ」
そう言ってゲンは、ツカサの前に数枚の書類を置いた。それは転勤手続きであったり引っ越しに関する書類であったり。
「必要書類だ。今日中に目を通してサイン書いて上役に出しておけ。向こうはいつでも受け入れると言っているらしくてな、日程はお前次第になる」
「ありがとうございますゲンさん」
「気にすんな。これも仕事の内だ」
最後に、頑張れよと言ってツカサの肩を叩き、ゲンは自らのデスクへと帰っていく。
「…よし、まずは目先の作業から!」
普段の作業プラス本日までの書類確認だ。普段のツカサであればげんなりとしていたところだが、念願の最前線行きが叶うとなれば気合いも入るというもの。
その日のツカサは普段以上のやる気を見せ、他の同僚達にからかわれていたという。
♢
そしてその日の夕刻。悪の組織は残業なぞ許されるはずもなく、誰もが一斉に帰路につく。もちろん表向きは普通の会社のように見せかけているので、見た目上は定時に帰れるホワイト企業である。
もちろんツカサもその例に漏れず、混み合う電車の中で揉みくちゃにされながら自らの部屋のある社員寮と辿り着く。
「〜♪」
呑気に鼻歌なぞ歌いながら、いつもの調子で部屋の鍵を開け、ドアノブをぐるりと回す。そこには適度に片付けられたツカサの牙城が……
「おお、待っておったぞツカサとやら」
無かった。全ての物は片付けられ、ガランとした部屋と、謎の幼女が一人。
「……は、え?」
思わず思考が停止する。こんな状況を誰が予想していたのか。誰の陰謀だ。悪の組織の仕業か!つまり俺は悪の組織に狙われた……って、
「俺が悪の組織の一員やないかーい!」
「おおう、自己完結ツッコミとは元気じゃの」
まぁ立ち話もなんじゃし入れ入れ、と幼女が促すのにすんなり従うツカサ。状況についていけていないだけとも言うが。
「まずは状況説明からじゃな」
幼女はそう言って缶コーヒーを勧める。
何もない床に直に座って幼女と向かい合って缶コーヒーを飲むという、人生初の経験をしているツカサに、対面の幼女は何を臆する事もなく胡座をかいて座っている。もはや考える事をやめたツカサに対し、幼女は一言、
「まず始めに言っておこう。ワシが君の転勤先の上司になる、カシワギ博士じゃ。よろしくな」
もうどうにでもなれ、とツカサは呟くのが精一杯だった。