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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』

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そしてそれは、勇気の証 その7

 誰かの声が響いた瞬間、シャドー・ゴブリンとブルーベルト・ゴブリンの両名は、首から上だけを残して全身をその場で凍結され、身動きのひとつすら取れない状態へとなっていた。

 「影踏み申した……ってか? 後輩の意趣返しや」

 ケラケラと可笑しそうに笑う人物……ブレイヴ・セルシウス。

 先程、ブービートラップで死んだと思っていた少女が今、砕ける前と寸分違わぬ姿でソコにいた。

 「な、何故貴様が生きているのだ!?」

 心底狼狽えたように、ブルーベルトが叫ぶ。確実に殺したと思っていた人物が目の前で腹を抱えて笑っていれば、それは恐怖も感じようが……。


 (まぁ、そうであろうな……)

 シャドーの感想は、そんな淡白なものであった。

 絶対防御を以て難攻不落を謳う者。ソレを仕留めようとするならば、油断した所を一気に叩くのが定石である。

 いくら道具が優秀であっても、扱う者が未熟であれば必ず何処かで隙を晒すのだ。セルシウスはそれを自身の死を偽装して狙っていたに過ぎない。

 彼女達にとっては予定調和。ここまで計算づくでの作戦だったのだろう。後ろでサラマンダー達がガッツポーズをキメている事からもそれが伺える。

 (残念だが、青兄もこれまでか……)

 シャドーは自身の身を棚に上げ、愚かな兄の最期を思う。

 凍てつくされた拘束具を身に纏いながらも、シャドーは細々く、冷気で白くなった息を吐いた。



 ◇



 「何故生きているかって? そんなもん、ウチが氷そのものに変化できるレベルの能力者やからに決まっとるやないか」

 今度こそ圧倒的優位に立ったセルシウスは、サラマンダー達に気安いVサインを送ると、今度はシャドー達を指さした。

 その指をクルクルと回せば、その回転に応じてか、シャドー達を拘束している氷が少しずつ動き出して彼らの体勢を変化させる。

 「な、何をする!? やめ、やめろぉぉぉ!」

 狼狽えるブルーベルトをにんまりした笑みで眺めながら、セルシウスが指示する体勢は屈辱そのもの。


 「おーおー、おっぴろげやのう」

 氷漬けにしながらも、腕は後ろへと回し股を大きく広げ股間を突き出させるその体勢。

 ……つまり、M字開脚である。

 それをメンポを付けているとはいえおっさんふたりにやらせているのだ。絵面は最悪である。

 「あ、青いのを処刑する前にお前にはコレや」

 どうせ逃げる策を打っているのだろうと、セルシウスは先んじてシャドーへと攻撃を仕掛ける。


 それは、地面から伸びる細く固く長い氷柱だった。

 中空に固定されたシャドーと、ついでにブルーベルトの尻の下に生えたそれは、パキパキと音を鳴らしながら上へと伸びていき、ふたりの穴を目掛けてその先端を差し込んだ。

 「「ぬぐぅっ……!?」」

 ぬぷり、と嫌な音が鳴った。鋭く尖った尖端はゆっくりと忍者服を破り、奥へ奥へと進行していく。

 「おごっ……ぅがぁぁ……ああ………!?」

 体内に異物を差し込まれたふたりは、激痛と違和感と冷たさに奇っ怪なうめき声を上げるしかない。

 「いやーな感触やろ? それは特別製の氷でな。ウチが意図的に溶かさん限り、三日三晩は肛門の内側で凍り付いて蓋になるんや」


 つまり逃げても腹が破裂するだけやで? とセルシウスは笑う。

 もはや拷問とも呼べる仕打ちに、ブルーベルトの頬がひくりと引き攣る。

 「こ、こんなこと……! 正義の味方がしていいと思っているのか!!?」

 苦し紛れの口撃だが、セルシウスにも思うところがあるのか「せやなぁ……」と辛そうな表情を浮かべる。それに対しブルーベルトが更に重ねようとするが、セルシウスの顔に笑みが浮かんだのを見て、思わず口を噤んでしまった。


 「アンタら悪の手下が殺しに掛かってくるのに、なんでウチらばっか慮ってやらなアカンのや?」

 セルシウスは常々思うのだ。

 ダークエルダーは正義の味方に対し“プロレス”を挑んでいるような、一定のラインを引くだけの常識はある。だから他のヒーロー達もそれなりの手加減をしているというか、勝負の土台が『試合』に近いのだ。

 だが他の組織や怪人はそんな事を気にせず、邪魔をする奴は殺すの一点張りだ。

 こちらは漢字違いの『(殺)死合い』。相手が殺す気で掛かってくるというのに、どうして正義の味方が相手の生命まで面倒をみる必要があるのか。


 「だからウチはなぁ……。悪い人間は怪人同様、爆発四散してもええと思っとるんよ」

 そう言ってセルシウスが振り上げるのは己の得物たる大槌。“砕く”という行為に特化したソレを向ける先は、ブルーベルトが突き出している股間である。

 「ひっ!!? や、やめ……許して………!」

 自分が今から何をされるのか、それを理解してしまったブルーベルトは恐怖に顔を歪ませながら、必死に懇願を繰り返す。

 「ほらほら、どした? その鎧を起動すれば盾が出て助かるねんで? ……まぁ、さっきウチが内部を完全に凍り付かせたから動きようがないんやけどな」


 ブルーベルトが時間稼ぎをしながらも、鎧のシールドをどうにか発生させようと試みているのは傍から見ても分かりやすい。が、その機能が厄介だとわかっているからこそ封じる為に一芝居打ったのだ。

 セルシウスの全力であるマイナス198度の氷結能力。液体窒素とほぼ同レベルの冷気を以て、内部の機構を余さず凍り付かせた鎧がそう簡単に再起動できるわけが無い。

 「往生しいや!」

 セルシウスが全力で振り下ろした大槌は、寸分違わずにブルーベルトの股間へと直撃した。


 潰れた、というよりも砕けた、という音が響く。

 セルシウスが重点的に凍らせたその部位は、もはや上手く溶かさねば生殖機能など無いに等しいレベルで一片の細胞残らず氷と化していた。

 その状態で強い衝撃を与えれば、どうなるか。

 「ひゅっ──」

 哀れにも股間のイチモツが玉も竿も爆発四散したブルーベルトは、短い息を吐いて白目を剥き、そのまま事切れるように気絶した。


 「あ、青兄ぃぃぃ!」

 「次はお前や!」

 間髪入れず、セルシウスが横凪に大槌を振るうも、案の定シャドーは影に潜ってそれを回避し、ブルーベルトの影からゆるりと姿を現した。

 「やっぱし、逃げる算段くらい付けとるよな」

 空振りした大槌の勢いに任せ、ぐるりと回ったセルシウスはシャドーを睨みほくそ笑む。

 毎度のように影から逃げるだろうと踏んで尻を封じたのだ。現に今、劣勢にも関わらず逃走しないのは影を経由してもなお氷栓が取れなかったからだろう。

 これが兄と呼ぶ仲間達が捕まっただけならば逃げていただろうという、そんな確信がある。


 「おのれセルシウス……! よくも青兄をやってくれたな!」

 気絶したブルーベルトを盾にしつつ、憤っているような“演技”をするシャドー。

 ……もはや言ってしまっているが、わかりやすい演技だ。寒々しさすら感じる。

 セルシウスは同じような悪党共をごまんと見てきた。この手の奴は己の利益になるかならないかで相手を見るタイプなので、兄がやられたとしても激情したりは決してしない。

 「お前はそんな情に厚いタイプやないやろ。つまらん芝居は置いておいて、さっさと本気を出しいや」

 どうせお前が本気を出してもウチらには敵わへんやろうけどな、とセルシウスは呆れ顔で嘯いた。


 実際は、ここで心を折らねばまた何処かで再起される可能性を危惧しているのと、四人で行った特訓の意味が無くなってしまうのを憂いているだけなのだが。

 セルシウスの傍にサラマンダー達が並び、各々が得物を構える中。

 ようやくその気になったのか、シャドーもまた懐からある物を取り出す。

 それは手のひらサイズの水晶玉。一見なんてことの無さそうな品物に見えるが、この場面で取り出したのだから何かはあるのだろう。

 「……できれば使いたくなかったが。負けたら後がないのは変わらんか」

 シャドーは小さく呟くと、水晶玉を高々と掲げ、叫ぶ。

 「集まれ、始祖の装備よ! 今こそ、我が正統後継者なり!」


 その瞬間、完全に凍り付いたブルーベルトの鎧とセルシウスが別の場所に厳重保管している妖刀を除いた首領装備の各部位が、所有者の意に反してその身を浮かせてシャドーへと集まる。

 兜が、篭手が、具足が次々にシャドーへと装備され、最後に水晶玉がその胸へと半ば埋まる事でそれは完成した。

 「とくと見よ! 我が身体を使い、今こそ蘇りし首領の姿を!!」

 そうシャドーが叫んだ後、彼の意識は何者かに上書きされ、その存在が抹消される。

 首領装備一式にオマケのように付いてきた水晶玉こそ、彼の者の意志を現代まで宿した物。それを装着した者は、首領の莫大なチカラを引き継ぐのと同時に、その意識を奪われるというリスクを孕んでいた。


 【……ドーモ、ブレイヴ・ミラクル・スターズさん】


 シャドー・ゴブリンだった者は手を合わせ、顔を逸らさぬままにお辞儀をする。もはやその目に宿るものは正気ではなく、狂い火にも似た赫い閃光。


 【九九流忍者“首領”、呉柳 號斎(くれやなぎ ごうさい)です】


 かつて世界を征服せんと企んだ悪なる忍者が、目を覚ました。

長い……長くない?

これを幕間とするか、章としてしまうかはちょっと悩みどころですね。まぁのんびり考えてみます。

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