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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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そしてそれは、勇気の証 その5

 烈迫の気合いと共に繰り出される刺突と剣閃に、対するシャドー・ゴブリンは前へと踏み込むことで答えた。

 相手は少女とはいえ、経験と腕前は既に歴戦の勇士に匹敵する。その彼女達の一合目はまず様子見だろう。少なくとも得物をすぐ手元に戻せる程度にしか振らぬはずだ。なので、

 「おおっ──!」

 シャドー・ゴブリンは、点と線(大槍と太刀)の隙間を抜く。

 忍者刀を持たぬ左手から放つのはクナイ。これは少女達を狙ったものではなく、ふたりの間を通り過ぎる軌道に投げたものだ。

 もちろん、このクナイは特別製。影渡りの秘術が込められているものである。


 相手がフェイントとして無視するならばクナイの影を使って背後に回れるし、弾き落とす為に攻撃を止めるならばこのまま対処すればいい。

 どちらにしろ、大量に撒いた影渡りの術付きの暗器を移動経路にするのがシャドー・ゴブリンの戦術故に、投げれば投げるだけ有利になる代物である、のだが……。

 「燃え尽きるほどヒィィィィィトッ!!」

 ただのクナイに対しては過剰な程の火力を孕んだ大槍の纏う大火によって、あけっけなくもクナイは舐め取られ、焼けた鉄の塊となって撃ち返された。

 「なんとっ……!?」

 意外や意外。初手から全力を持って当たられるとは思っていなかったシャドー・ゴブリンは、慌てて大火によって伸びた己の影を背後へと引っ張る秘術によって自身を素早く後退させ射程を逃れる。


 逃がすかとばかりに炎の渦が蛇のように追ってくるが、印さえ結ぶ事ができれば火消しの術くらいは九九流の得手である。

 それすらも読んでか大量の熱湯が刃となって襲いかかって来るが、これには新規に呼び出したゲニニン達を盾にする事により対処とした。

 「……なんだ、こっちは小手調べなのに随分と必死だなぁクソ影?」

 煽るように、嘲笑うように笑みを浮かべるブレイヴ・サラマンダーであるが、シャドー・ゴブリンは努めて冷静に、手裏剣を投げるだけで報復とした。無論、術式ごと焼き払われてただの鉄として撃ち返されるが、抗議の意志を示す事は大事である。


 (小娘相手だと舐めていたつもりはなかったが、何処かで驕りがあったか……)

 ブレイヴ・エレメンツ達の扱うエレメント能力が厄介なのは事前の調べで予測出来ていたことだ。もちろんその対策も万全に揃えてはいたが、どれも消耗品であったり複雑な印を結ぶ必要がある為に、どうしても攻めに転じる機会がない。

 実際、彼女達の連携も大したもので、大槍が弧を描けば避けた先に太刀が振り下ろされ、太刀が胴を薙ぐように動けば大槍が離した距離を埋めるために突撃してくる。

 明らかに対人用の戦術が確立されており、それでなお流れるように続くそれは、仮想敵がその連携すらも凌ぎ続ける者である、というのが垣間見える。


 (何者なのだ、この小娘達が一介の武人として挑み続ける相手とは……!?)

 シャドー・ゴブリンは知らない。彼女達が修めた剣術と槍術が、対人のみならず人ならざる者への対処すら盛り込んでいる事を。

 そしてライバルである黒雷すらも通過点として、呂布イカへのリベンジを目指している事を。

 そしてその呂布イカが、現代最強ことカスティル=シシオウとも肩を並べる程の猛者だという事も。


 ──目指す星は遥かに遠く、だけれどもいつか届くハズと。そう手を伸ばし続ける少女達の前に、影の小鬼など単なる障害物にしかなり得ない。



 ◇



 その頃、もう一方の戦闘はというと。

 「だらっしゃあああああっ!!」

 快音と共に大槌が振り切られ、堪らずブルーベルト・ゴブリンが空へと向けて吹っ飛ばされていった。だが、

 「ちぃっ! ナイスショットやったのになぁ……」

 悔しそうな顔をしたのは何故かセルシウスの方であった。というのも、吹っ飛ばされたハズのブルーベルトは平然とした顔をしており、あまつさえ欠伸をする余裕すら見せる始末なのだ。

 「腹が、立つ……」

 イフリートも間髪入れずに攻撃を続けているはずなのに、ブルーベルトは気にした様子もない。


 「どうだ、諦める気になったか?」

 先程からやられる一方だと言うのに全くの無傷を誇るブルーベルトの秘密は、彼の持つ初代首領の鎧にある。

 その鎧の効果とは、自身の周囲を覆うバリアを張り続けるという単純なもの。だが単純なればこそ、その効力は絶大。その出力はダークエルダーが開発した強力なシールド発生装置を軽々と超えており、尚且つ日光か月光を浴び続ける限りその効果が持続するというインチキ装備である。

 無論、セルシウス達がそんな鎧の効果なぞ知る由もなく。先程からただひたすらに叩いて焼いてたまに反撃として飛んでくるクナイに対処する、というループが続いているのである。


 「勝てぬと分かっていながら、シャドーの戦闘が終わるまで足止めするつもりなのだろうが……。後輩に胸を張った手前、非力を晒すのは名折れであるなぁ……?」

 「うっさいわボケ!」

 守ってばかりながらも口は達者なようで、ブルーベルトはいちいちセルシウスが激情しやすい言葉を選びながらチクチクと言葉責めを繰り返す。その度にシールドごとブルーベルトが空を舞うが、それで得られるものは快音と疲労ばかり。


 賞金首程度ならウチらが負けるわけないやろ、という奢りがセルシウスになかったと言えば嘘になる。いくら頑丈な鎧を着込んでいようが、所詮はザコなのだろう、と。

 そんな油断によるやるせなさと、煽られた怒りと、ぶつけてもぶつけても溜まるばかりの鬱憤が、ブルーベルトには十分な隙にある。


 サクッ……と軽い音が鳴った。

 「……あ?」

 それは憤怒に駆られたセルシウスの胸元、心臓の位置。

 その場の誰もから死角になるような場所に仕掛けられていたブービートラップが、ブルーベルトの手によって起動し、セルシウスへと向けて矢を放ったのだ。

 「セルシウス……っ!」

 イフリートが気付く頃にはもう、既にセルシウスの身体からはチカラが抜け落ちていて。

 「うそやろ……」


 得物の大槌を手放し、顔面から地へと倒れ伏したセルシウス。

 受け身すら取らない様子に、猛攻を続けていたサラマンダー達すらギョッとした顔を向けたその瞬間、

 「まだ安心できぬな」

 そうポツリとブルーベルトが呟き、同時にセルシウスへと大量の竹槍が降り注いでその身を貫いた。


 「「「セルシウスゥゥゥゥゥ!!」」」


 ──少女達の絶叫が木霊する。


何がとは言いませんが、現在手持ち無沙汰となっているアレックスが一切関与しようとしない時点で察してください。

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