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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』

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そしてそれは、勇気の証 その3

 九九流最高峰の暗殺部隊、ゴブリン・アサシンズ。


 これは、サラマンダー達は知りえない情報ではあるが。かつて正義の心をもつ忍者に敗北し散り散りとなった悪の九九流忍者組織『陰逸』は、各地方で己の持つ技を伝承しつつ改良を加えていった為、もはや九九流を源流とする我流の流派とも呼ぶべき進化を続けていた。

 故にと言うか、階級という括りは全国で統一されるべくもなく。

 一応上忍までの条件は均等であるものの、()()()()に関してはまるで別物のようになっている。


 例えば、枢 環は一家相伝の為に上忍が最上位であるのだが、複数の忍びが一箇所にまとまっている所では上忍の上に上忍頭や首領を置く場合もある。試練というか条件によって上忍に成れてしまうため、それを統括する役職が必要になったのだ。


 ではゴブリン・アサシンズはどうなのかと言うと、彼らの階級は上忍よりも上。暗部と呼ばれる、強者狩りを生業とする武闘派集団である。

 彼らは先の秩父山中の魔境事件終幕の折にその地を訪れ、野生の強者共との戦闘を繰り広げながらも、遂に陰逸の忍者達が血眼になって追い求めていた『首領の財宝』を手に入れた。

 それは九九流忍者組織『陰逸』を再興する為、という名目でかつての首領が残した金銀財宝。そして首領が超人として祭り上げられる所以となった装備シリーズ、【九九流陽金八十一式】と名付けられた防具類も含まれている。


 千里駆けや鳴門海峡渡りなど、様々な曰くを持つ防具であるが、残念ながらそれは本来首領のみが装備する事を許された一式防具。故に五人でそれを見つけたゴブリン・アサシンズは装備を五人で山分けにし、それぞれが得意の戦術と合う防具を装備しているのである。

 かといって彼ら全員に『陰逸』を復興する覚悟があるか否か、というのはまた別問題なのだが……。



 ◇



 「くっそ、まさか追い求めていた獲物が集団だったなんてなぁ。てっきりシャドー・ゴブリンさえ狩れば終わりやと思っとたんやけど……」

 追い詰めた、と思った先で思っとった先で袋のネズミやね、なんてセルシウスは笑みを作る。もっとも、その笑みはただの空元気であるのは誰から見てもその通りなのだが。

 「どうだ、ブレイヴ・ミラクル・スターズ。今ならまだ『村剥ぎ』を返す事を前提に降参を受けて入れてやれるが」

 愉悦の籠ったシャドー・ゴブリンの言葉に、セルシウスは黙ってクビを切るジェスチャーで返す。


 確かに、5人分のゲニニン(もはや境内を埋めつくし後方が見えなくなる数)とゴブリンズを相手に、たった4人で立ち向かうのは愚の骨頂だとは思うが……。しかし、降参したところで待っている未来は死よりも残酷なものだ。

 誰が人権まで捨ててなるものかと、サラマンダー達は反抗の決意を新たにする。

 「無謀だが……その意気や良し」

 レッドキャップ・ゴブリン……ああもう面倒だと、赤帽子、黄マント、青帯、紫手袋、クソ影と勝手に名付けることにしたサラマンダーは、大槍でもって赤帽子を指し、「やいやいやい!」と声を張り上げる。


 「テメェら! 絶対ボコすから覚悟しとけ!」

 サラマンダーは端から順番に指していくが、どいつもこいつも不敵に笑うばかりで余裕を崩そうともしない。

 そりゃあ圧倒的有利な盤面で弱者がいくら吠えようと、高みから見下ろす立場のゴブリンズからみれば滑稽でしかないだろう。

 ……だが、その余裕と慢心こそが油断と言うのだ。

 「いくぜ、切り札……!」

 「ま、待て! まだ早いやろ!?」

 思いっきり息を吸うサラマンダーに、セルシウスが困惑気味に振り向く。

 確かに、()()()()()にはまだ早いが、その前にやれる事はある。それがサラマンダーの言う切り札なのだから。


 サラマンダーは『任せろ』という意志を込めて、セルシウスに向けてサムズアップをする。

 十二分に吸い込んだ。喉の調子は絶好調。ウンディーネはサラマンダーが今、何をしようとしているのか分かっているかのように笑うだけ。

 ならばと、サラマンダーは上空を見上げて叫ぶのだ。


 「助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 その叫びはどこまでも、遠い空へと響き渡る。



 ◇



 「よもや命乞いとはな!」

 或いは鼻で笑い、或いは三段笑いを活用し、或いはその情けない姿に失望したように首を振るゴブリンズ。

 だが、サラマンダーにとってそんなものはどうでもいい些事だ。

 (司さんは『ひとりじゃない』って言ってくれた!)

 それは昨日、女装をして現れたとある男の言葉。

 (大人を頼れと、そう言っていた!)

 彼女達に小さな勇気の一欠片を与えていった、未だに姿を表さないヒーローの言葉。

 (ヒーローが他人を頼っちゃいけない道理はない! そう、だからオレは……!)

 だからと、サラマンダーは叫ぶ。どこまでも遠く響き渡れと。

 たとえ敵から嘲笑されようとも!


 ──そして、()()は助けを呼ぶ声に対して迅速であった。


 『ニニンガシィィィイイイイ!!?』

 ゲニニン達の包囲網の一角が、彼らの断末魔と共に崩壊する。

 それも一箇所だけではなく、同時に何箇所も、だ。

 そうして輪の中へとは飛び込んできた一人目は、サラマンダー達にも縁のある戦士。

 「借りを、返しに来たぜ!」

 その者の名は流星装甲(メテオナイト)アベル。かつて、デブリヘイム事変の時に共闘したヒーロー。

 その彼の後に続くかのように、次々と影が舞い降りる。


 「天が泣き地が叫び人が嘆く! 悪を滅ぼせと俺を呼ぶ!!」


 「女性の悲鳴は聴き逃せぬ! 我、悪を断罪する銀の騎士!」


 「えーっと、名乗りいるの!? 癒しの巫女付きの剣士で……ああっと……! 以下略!!」


 現れたるは火事場のダンホー、銀騎士アウル・ナイト、巫女の守り手にして白鶴八相の担い手である泉 星矢。

 一騎当千の戦士達の到来に、流石のアサシンズにも動揺が見られる中、

 「…………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっっっいっ!」

 追い打ちとばかりに境内へと何かが着弾する。

 土煙の中でその姿はまだ見えないが、高速で叩きつけられていたのにも関わらずピンシャンした様子でズボンを叩く音だけが響く。



 ◇



 「……ったく、貴重な一回を“条件付き”とはいえ他人の為に使うなんざ、アレもなかなか粋な野郎だなぁ!」

 その正体がわかる者はこの場におらず。ただ一人だけ、脳裏に引っ掛かるようなノイズが走る者がいるが、正体までには至らない。

 それはこの男にとって好都合である。

 (名乗って逃げられたらめんどくせぇからな……)

 乱れた紅い髪を強引に撫で付け、とある漢から譲り受けたアロハシャツの襟を正す。ダークエルダー製の認識妨害機能付きサングラスを掛けたその男は、ニヤリと笑ってサラマンダー達へと振り向いた。


 「どーも! 出張助力サービスの……あー……アレックスと申します! ……依頼者の要望通り、助太刀するぜぇ?」


 戦力バランスが一瞬で傾くどころかちゃぶ台返しされた瞬間であった。

Q:アレックス……一体何者なんだ……。


A:どこぞの黒いのにワイバーンの干し肉をもらって助太刀サービスの電話番号を交換したら、何故かヒーローがヘルプを求めたら行ってやってくれ、なんて謎の依頼を受ける羽目になって実際そうなったから寝起きでひし形を叩き落としたついでに空を飛んで駆け付ける事になった最強さん。


Q:銀騎士さんそんな名前だったの?


A:秩父山中で名乗らなかったから今まで銀騎士表記のままだった。


Q:アレックスのアロハシャツって霧崎のやつ?


A:秩父山中で意気投合して着替えとして貰った。素手でワイバーンと渡り合う漢同士、シンパシーを感じたらしい。


Q:この問答いる?


A:あった方が楽しいだろう?

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