そしてそれは、勇気の証 その2
今年も後僅かとなりました。
来年もまた、拙作をよろしくお願いします。
「……ハァッ……ハァッ………!」
肩を激しく上下させ、大槍を杖のように扱いながらも、サラマンダーはその戦場で立っている側となった。
他の面々も同様に、膝を付き得物を半ば手放しかけながらも。それでも意識だけは手放していないのだから上々だ。
……イフリートだけは対して動いてもいないのに『ごめん寝』状態だが、これはいつもの事なのでヨシとする。
「な……なかなか………っはぁ……。手強い、相手でした………」
半ばバトルジャンキーであるウンディーネすらもうしばらくは勘弁願いたいと思うほど、ジャスティス白井の5グループとの戦闘はキツいものだったのである。
特にチーム:ぼっちがいけなかった。
単独でチームを名乗るなど色物枠かと思いきや、サラマンダー達四人を同時に相手をしても30分は平気で継戦していたように思う。
他のチームが早々に壊滅していく中、たった一人でそれ以上の戦力を保有していれば、そりゃあチーム:ぼっちともなるだろう。
しかも決着は、サラマンダー達が攻めあぐねている間に戦場を包囲していたダークエルダーの全身黒タイツ達による催涙弾+麻酔弾+電撃弾の飽和攻撃によりようやく拿捕、という形である。
何か特別な能力があったようにも見えなかったのに武力で勝てなかった、というのは戦士としてなかなかのショックだ。
「まぁまぁ。切札を温存できたんや、良かったと思っとこうやないの」
セルシウスの言う通り、まだサラマンダー達には上位精霊との『デュアルエレメント・エスカレーション』……つまりは強化フォームが残されている。
それは所謂、短時間のブースト効果みたいなものだが、威力は絶大だ。かつて邪神戦線で使用した時はデブリヘイム合金で作られたゴーレムですら蒸発させるほどの威力を出せるが、使用後にどっと疲れが押し寄せてくるというデメリットもある。
先の見えない状態で使える秘技ではないので、チーム:ぼっちとの戦闘では使うかどうかしばらく悩んだものだ。
「それでは、我々は彼を護送して他の地区の防衛に向かいます。ブレイヴ……えーっと、皆様もお気を付けて!」
黒タイツのリーダー格の男(?)はサラマンダー達にそう声を掛け、波が引くように素早く撤退していく。
最近はあまり敵対しなくなったからこそ、その統率力には目を見張るものがあるのだが……ウンディーネが何故かキョロキョロと、誰かを探すような挙動をしているのが気になった。
「ウンディーネ、どうした?」
サラマンダーが声を掛ければ、ウンディーネは小さく「いえ……」と呟き、
「これ程の戦乱の中で、黒雷……さんを見掛けないのが気になって」
と、考えるように腕を組みながら黒タイツ達を眺めていた。
「あー、確かにな」
と、サラマンダーもその疑問に同意する。
あの黒い鎧の人は、大抵の場面で黒タイツ達を指揮する立場にあったはずだ。広い町とはいえ、これだけ動き回っていればどこかでバッタリと出くわしてもおかしくないはずなのに。
そう思考に耽っていると、傍にいた黒タイツの一人が振り返り、
「黒雷かい? ヤツなら今は出張中で北海道行ってるよ、北海道」
どこから話を聞いていたのか、そう一言を残して颯爽と去っていった。
「……悪の組織にも出張なんてあるんやなぁ」
「私達も……出張、中。みたいな……ものだし~……」
先輩方も小休憩がてら自販機でジュースを買いつつ、ぼんやりとした感想を言っていた。
なんだか薄らと肩を落とした気のするウンディーネの背中をポンと叩き、サラマンダーは先程受け取ったメロンソーダを一気に煽る。
「さ、まだまだこれからだ。頑張ろうぜ」
サラマンダーがそう声を掛ければ、気合いを入れ直したかウンディーネもまた頷き、己が得物を握り直す。
ジャスティス白井の大規模な反乱は、まだ始まったばかりなのだから。
◇
小休憩からしばらく。
潰せど潰せど現れる怪人達との死闘を続けて、かれこれ1時間ほど経過した頃だろうか。
「──ようやく現れたな、ブレイヴ・フォルテシモ」
「それはこっちのセリフやでシャドー・ゴブリン。ついでに言うと今のウチらは『ブレイヴ・ミラクル・スターズ』や」
とある神社の境内で、サラマンダー達は仇敵へと対峙する。
目に笑みを浮かべながらも、互いに向けているそれは嗜虐的なものだ。
確実に勝つと、そのつもりで互いにここまでやってきたのだから。
「道中、連戦で疲れたろう? 最高級の茶があるが、呑むかね?」
「アホいいさらせ。どうせクソみたいな媚薬とか猛毒の類いやろ」
「信用がないな」
「敵の出す茶を呑むほど耄碌しとらんだけや」
口論とも呼べぬ、殴り合いのような口喧嘩。
確かに、シャドー・ゴブリンを捕捉するまでにずぅーっと市内での戦闘を潜り抜けてきたが、おかげで身体は既に温まっている。
負ける気は毛頭ない。しかし、
「貴様らが四人。それに対して、私が何の策も講じないと思っていたのか」
そうシャドー・ゴブリンが言うのと同時、サラマンダー達を囲むように周囲の物陰から影が飛び出る。
ひとつ。赤い帽子を被った、大仰な篭手を持つ忍者。
「ドーモ、レッドキャップ・ゴブリンです」
ふたつ。黄色い外套を羽織る、大仰な具足を履く忍者。
「ドーモ、イエローマント・ゴブリンです」
みっつ。青い腰布をはためかせる、大仰な鎧を着た忍者。
「ドーモ、ブルーベルト・ゴブリンです」
よっつ。紫色の手袋を嵌めた、大仰な兜を身に付けた忍者。
「ドーモ、ヴァイオレットグローブ・ゴブリンです」
そして最後、影に潜み、既に妖刀を失った忍者。
「ドーモ、ブレイヴ・ミラクル・スターズさん。シャドー・ゴブリンです」
彼らこそ、陰に潜むシノビの、更なる陰からやってきた九九流最高峰の暗殺部隊。
『ドーモ! 我らゴブリン・アサシンズです!!』
アンブッシュなし、本気の名乗りのその後に。大量に湧いたゲニニン達がサラマンダー達を取り囲んだ。
……これからの執筆となりますが、余裕があればまた年始にウラバナシの方も更新致します。
書く余裕が、あれば……。