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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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そしてそれは、勇気の証 その1

 そしてその日、その時間。

 テレビが、ラジオが、壁掛け時計が。

 それらが聞き慣れた秒針を刻む音が、正午の到来を告げるのと同時。()()はやってきた。


 『正義執行の時間だオラァ!!』


 あまり品のない、酒とタバコに焼けた声を張り上げて。奴らは傍若無人に振る舞いながら日本中の大通りを占拠し、正義を示すデモパレードを開始せんとする。

 奴らからすれば、それは正しい行為なのだろう。

 悪の組織ダークエルダーへの大規模反抗。ジャスティスの名の下、鉄槌を下さんとする圧倒的暴力。

 

 確かに壮観ではあるのだが、しかし()()達はそれを食い止める側なのだ。

 「待てぇい!!」

 人々が慌てて逃げ出すその波を抜けて、オレ達は奴らの前へと立つ。

 己の得物を引っ提げて、睨める視線は冷ややかに。

 「……ふぅん、現れたか。我らチーム:トリスタン並びにモードレッドの前へと立ちはだかる、貴様らは何者だ!?」

 奴らの中のひとりが、オレ達へと向けて声を放つ。

 名乗りと問い掛けと同時にこなす、熟練者の技だ。

 ならばコチラも答えてあげるが世の情けというもの。


 「聴いて驚けェ!!」

 オレは高らかに声を上げる。どうせ挨拶が必要ならばと、この四人での名乗りをきちんと考えてきたのだ。

 とある戦隊からパク……拝借したセリフではあるが、カッコイイから良しとしておいて。


 「猛き豪炎の戦士! ブレイヴ・サラマンダー!」


 「澄みきった水刃を照覧あれ! ブレイヴ・ウンディーネ!」


 「氷結&粉砕! ブレイヴ・セルシウス!」


 「焔よ迸れぇ……。ブレイヴ・イフリートォ~」


 それぞれキッチリ決めポーズ。同時にその背後で四色の爆発&爆煙が舞う。爆音に負けじと声を合わせて、せーのっ!


 『我ら、ブレイヴ・ミラクル・スターズ!!』


 エレメンツとフォルテシモ。ふたつのブレイヴが重なり合った時、生まれた最高のチーム。それがブレイヴ・ミラクル・スターズなのである!

 足りない戦力は勇気で補え!



 ◇



 「行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇえ!!」

 名乗りを終えて早々、サラマンダーは大槍に業火を纏わせながら、ビルの屋上より飛び降りつつそれを振るう。

 アスファルトを舐めるように這う炎が生身の人間達を追い立て、壁際へと押し込めるのと同時。それを耐えて待ち構える怪人達に降り注いだのは、後から降りてきた三人から放たれた大粒の(ひょう)の雨と熱線による薙ぎ払いである。

 ただでさえ広範囲中威力で扱いやすいとウンディーネが語る《水刃時雨》が、セルシウスによって無尽蔵に降り注ぐ氷のマシンガンへと変貌したのだ。

 その物理的な攻撃に加え、イフリートのビットによる格子状に組まれたレーザーが怪人達を直撃。ある者はサイコロステーキとなり、ある者は自慢の表皮を焼かれ絶叫する。


 「これでしまいや!」

 更にトドメとばかりに、着地したセルシウスの大槌がずぶ濡れのアスファルトを叩く。

 大量の雹が熱で溶かされ、水と蒸気に変換されたそれらを、更にまた急速冷凍したらどうなるか。

 答えはすぐに現れた。

 「な、なんだ……!!? 身体が……こおっ………」

 言葉をいい切る前に、アスファルトを走る霜に絡め取られた怪人達は皆、一様にその姿を白の彫刻へと変貌させる。


 大量に飛散した水分を凍らせただけの単純な戦法だが、その効果は絶大であった。

 道路を大集団で渡っていた彼らは氷のオブジェとしてその場に固定され、余程の実力者でなければ抜け出すことも叶わない。

 そして万が一抜け出したとして、その先にはサラマンダー達によるフルボッコが待っているのである。

 氷漬けを逃れられても待っているのは地獄なのだ。


 「……よっしゃ、ここはもうええやろ。次は南の方へ向かうで」

 主力である怪人さえ足止めしてしまえばここに用はないと、サラマンダー達は別の集団へと矛先を向ける。

 何も綺麗に片付けきらないでも、他のヒーローや……そう、なんならダークエルダーの黒タイツ集団に任せてもいいのだ。

 サラマンダー達の目的は『町の防衛』であり、『キルスコア』ではないのだから。

 「それでは、コチラはお任せします」

 ウンディーネが丁寧にダークエルダーの黒タイツ集団へと頭を下げたのを若干不思議に思いながらも、サラマンダーは足並みを揃えて次の戦場へと駆けて行った。



 ◇



 ……そうして、何度目かの奇襲と凍結作業を繰り返した後。

 案の定と言えば良いのか、流石に何度も同じ手を使っていたら罠くらいは張られるもので。

 6グループ目を凍結させにやってきた頃合で、更に4グループが戦場へと追加され、計5グループに周囲を囲まれる事態へと陥っていた。

 「まぁ、派手にやらかしたっちゅうか。こんだけ被害が出とったらまずは囲って棒で叩いておきたくなるよなぁ」

 セルシウスが肩に大槌を担ぎ、ニヒルに笑いながら呟くが、その声に悲壮感はない。

 この状況もまた、サラマンダー達が狙って起こした事態なのだから当然と言えば当然。

 町を駆け巡って防衛するよりも、敵に一箇所に集まってコチラを狙ってもらえるように仕向けた方が断然楽なのだと、そう提案をしたのはまさかのイフリートだったのだから。


 「動きまわるの、疲れたぁ~……」

 もっとも、この作戦の立案理由は今の通りであるのだが。

 「よーっくも貴様ら同胞達をやってくれたな!? 我らチーム:沙悟浄が相手だ!」

 「チーム:マッチ売りガールも助太刀するわよ!」

 「チーム:カンパネラもだ!」

 「俺たち、チーム:金太郎!」

 「チーム:ぼっち! 総勢一名推参!」

 ワラワラと集まって、ビルの屋上にいるサラマンダー達を煽るジャスティス白井のチーム達。


 そんな彼らを屋上から見下ろしつつ、セルシウスは深い深いため息を吐いた。

 「……なんや、円卓の騎士が品切れしたら今度はネームバリューがどんどんしょぼくなっとるやないか………」

 セルシウスが思わず顔を覆ってしまうほど、チーム名が徐々に貧相というか、肖り方が身近なものになっていっている。

 チーム:ぼっちとかそれは単純に虐められているのではないだろうか……?

 「でもまぁ、これだけ釣れれば他が楽になるでしょう。後は……」

 「そう、オレ達の実力次第ってね!」

 ウンディーネの言葉に相槌を返してから、いっそう気合いを入れ直し、サラマンダー達は本日何度目かの屋上ダイブを敢行する。

 あまりに戦場が広く、他のヒーロー達とも連携が取れないままだが、きっとどこかで彼らが頑張っていることを信じて。

 今年も後僅かとなって参りました。

 寒い日が続きますが、皆様も健康に気を付けつつ読書をお楽しみください。

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