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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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それは、未知への冒険 その5

 ──最初に感じたのは“熱”だった。


 例えるならば、冷えきった身体に熱々のシャワーを浴びたような、思わず飛び跳ねてしまいそうな熱量。

 「んっ」

 小さく、思わず漏れてしまった声を恥ずかしく思いながらも、気を流し込むという行為はまだ続いていく。

 最初は手のひらに感じていた熱源が、徐々に手首から二の腕へ。そして腕の付け根に到達した後は、急速に全身へと広がっていく。

 「……な、なんだ、これ………?」

 言葉に言い表し難い、不思議な感覚。身体の不調……慢性的な肩凝りに悩む陽のソレが急速に和らいでいくのと同時に、心の隅にあったはずの小さな不安や悲しみなどが熱で溶けていっているようにも感じて、どんどんと気分が高揚していくのだ。

 陽は呑んだ事はないが、酒を呑む大人達はこういう感覚を得ているのだろうかと、漠然とした理解が及ぶ。


 「──勇者とは、勇気あるもの」

 不意に司さんが言葉を紡ぐ。

 小さく、だがハッキリと。陽達に向けて放つ言葉。

 「前に進み続ける事が勇気だと、そういう人もいるけれど。私は……立ち止まったり、後退ったり、逃げたりするのも一種の勇気だと思う」

 それはヒーローらしからぬ、『護る側の逃げ』を肯定する言葉。

 前線で立ち止まっていなくてもいいのだと、そういう言葉。


 「君達は強いのかもしれないけど、強いからって誰かを頼っちゃいけない理由はないんだ。……敵が強かったら助けてと叫んでもいいし、無理だと思ったら逃げてもいい」

 それはまるで陽達がヒーローだと分かっているような口振りだが、続く言葉で「君達はヒーローじゃないから、逃げるのが当たり前けどね」と紡いでいたので、なんとも言えない気分になる。

 「何を言いたいかと言えば……。そうだな、『頼れる内に人を頼れ』って事かな。どうか、大人を頼りない存在だと思わないであげて欲しい。自分だけで手一杯の人も多いけれど、ちょっとの余力を回せる人だってたくさんいるんだ。だから……」


 『勇者もヒーローも、決して独りきりではない』と、その言葉と共にその手は離され、行為は終わった。

 その言葉と熱は確かに、陽達の胸の奥へと押し込められたのを実感しながら、しばし無言でほむら先輩が追加で持ってきたカルビが焼ける音を聞く。

 「……なんや、もっともらしい事ゆーとったけど。それほとんどアニメか漫画の受け売りやろ?」

 「当たり前だろう。私が受け売り以外で良い台詞を話せると思うな」

 「それ、自信満々に返答するもんちゃうで?」

 気恥しさを紛らわすのにか、早速漫才を始める司さんと冰理先輩。


 確かに、どこかしらで聞いた事のあるようなセリフのオンパレードではあったが。今どきカッコイイセリフなんて言おうとしたらほとんどが受け売りになってしまうのもやむ無しだろう。

 陽としては司さんほどの特撮オタクがそちらの作品から引用しなかったのが少しだけ意外ではあったが。まぁ同レベルのオタクである陽の前では即バレするから辞めたのであろう。

 「……ありがとう、司さん。『ひとかけらの勇気』、確かに頂戴したよ」

 先程まで繋いでいた手を胸元へと寄せ、確かに感じた熱を押し込めるようにして握る陽。この行為には実質的な効果が伴わないにしても、好意を受け取った以上、頑張らねばなるまい。


 「へへへ……おうよ」

 照れくさそうに頭を掻きながら、笑みを浮かべる司さん。

 ──女装さえしていなければ『可愛く笑う男性』として見れたのかもしれないのに、今のは完全に『あざとい美人』の笑みだった。

 もはや女性の容姿の司さんに違和感を感じないようになってしまったのだが、今後に素の司さんと出会った時はどういう目で見ればいいのだろう、とちょっと悩んでしまう陽であった。


 「あ、もう食べ放題の時間ちょっとしかあらへんで! みんな、はようデザート確保せぇへんと!」

 冰理先輩が慌てたように言うので時計を見てみると、確かに制限時間はもう少し位しか残っていない。

 各自、好きなように散開して欲しいものを掻き集めて味わった後、この奇妙な食事会は終了したのだった。



 ◇



 「それじゃあ俺……私は、帰るから。近頃物騒だからあまり寄り道せずに、暗くならない内に帰るんだよ」

 と、司さんが散々騒動に巻き込まれている姿を見てきた身としては『貴方がそれを言うのか』と言いたくなる一言を言い残し、司さんは去っていった。

 結局、どうして女装をしてまで避けたい人がいるのかとか、そこまでして冰理先輩達と会いたかったのかとか、色々聞きたかったこともあったが聞きそびれてしまった。

 まぁ夕焼けの見える公園でならば割と頻繁に会えるので、気が向いた時にそれとなく聞いておこうと、陽は笑う。

 何だかんだと、一緒の時間を過ごして楽しい人なのだ。

 今度会った時には今日のお礼を兼ねて、甘く焼いたクッキーでもあげようか。


 「さぁて、と。予定はちょっと変わってもうたけど、こっから日没までミッチリ特訓すんでぇ!」

 冰理先輩の声が、オレ達以外に誰もいない公園へと響く。

 何だかんだと、穴場とも言えるこの夕焼けの見える公園は何をするにしても便利だ。

 そういえば正式な名前を知らないが、まぁ気にするものでもないだろう。

 「よろしくお願いします!」

 先輩方の胸を借りながら、普段はあまり鍛える事のできない戦闘技術面を重点的に鍛える時間。

 たったの半日しか特訓時間がなかったからすぐさま伸びる事はないだろうが、あの忍者に対抗するには必要な時間だ。



 ◇



 鬼のような訓練を終えてシャワーを浴びて泥のように眠り、翌日。

 相変わらず教えた覚えもないのに、胡散臭い占い師を名乗る謎の人物からショートメッセージが届いた。

 曰く、本日の正午からジャスティス白井が全国的に反乱を起こし、大量の怪人達と共に暴れ回るらしい。

 この占い師、胡散臭い割にデブリヘイム『マザー』の時も邪神戦線の時も情報は正確だった為、今回もまた同じように日本の危機なのだろう。

 「まァ、今はウチらもおる。この町は安泰やろうなぁ」

 「『勇気』も、もらって……。敵なーし……」

 本日もまた公園へと集まっていた時の着信であったから、先輩方とも合流済だ。ノームは修学旅行中で本土には居ないが、戦力的には十二分。


 「返り討ちにしてくれましょう」

 ウンディーネもイフリートもセルシウスも、皆やる気十分。

 だから、

 「──よっしゃ! やぁぁぁってやるぜ!!」

 いつでもかかって来いと、サラマンダーは吼える。


 ……どこか遠くで、ロケットの発射音が響いた気がした。

 特訓風景とか描写しても間延びしそうなので割愛。

 章管理、七章としてますが幕間に変えるかもしれません。


 どうも章と呼ぶほど長くならなそうなので。

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