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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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それは、聖なるチカラ その4

 先代の精霊戦士、ブレイヴ・フォルテシモ。

 氷の戦士セルシウスと焔の戦士イフリートの二名からなるこのユニットは、一年前まではこの町を守る戦士として陰ながら悪と死闘を繰り広げていたのだが、ブレイヴ・エレメンツが覚醒した後は就職活動等が控えている事もあり活動を休止し、卒業と同時にサラマンダー達にバトンを託して町を去っていった。

 その後はダークエルダーの台当後も噂を聞かず、てっきり引退したものだとばかり、と陽は思っていたのだが。


 「いやまぁ、ほとんど引退みたいなモンやで? ふたり揃って就職もできたし。余程のピンチの時とか、なんか理由がないと変身せんようなったしなぁ」

 そう言ってブランコを漕ぎながら話しているのはセルシウスの中の人。

 シャドー・ゴブリンを追わないのかとか、銀行強盗に対処しなくていいのかだとか、色々聞いたのだが。返ってきた回答は「そっちの対処はウチの仲間達がやっとるから、しばらく付き合えや」だった。

 なので現在、先程の公園で変身を解いた四人が揃って駄弁っているのである。


 「偶然とはいえ、互いに見知らぬ仲でもあるまいし。親睦を深めるっちゅーのも大事なんやで?」

 ギィコ ギィコと。

 撤去されていないブランコが珍しいせいか、めいっぱい楽しんだろの精神で揺れる、青白い髪を団子に結って(かんざし)を刺したモンペ袴の小が……成人前の女性、白百合 冰理(しらゆり こおり)

 自称くーるびゅーてぃ。

 「いま失敬なこと考えたやろ?」

 「いえいえ滅相もない」

 陽は身長の事になると勘が鋭い冰理先輩に対して笑顔で首を振りつつ、今度は相方であるイフリート……の中の人を見やる。


 「渦目先輩は、どこに就職したんですか? 金持ちが道楽で開いた喫茶店のマスターになるんだーって言ってたと思うんですが」

 「ん~……?」

 陽の質問に、近くのベンチで寝そべっていた女性が首を傾げる。

 彼女の名は渦目(うずめ) ほむら。

 薄いオレンジ色のお下げ髪に丸ぶちメガネ、ピンクの縦セーターとジーンズの良く似合う脱力系女子。

 いつも冰理先輩の後ろにくっ付いて歩いて、気が付いたらその辺のベンチとかで横になっている事が多かった印象がある人だ。

 正直この人はダラダラする為に進学し、しばらくは学生生活を楽しむものだとばかり思っていたのだが、冰理先輩が『ふたり揃って』と言った以上、何かの仕事に就いたのだろう。


 「こーりと、いっしょ~」

 そのまま答えが返ってくるかと思いきや、彼女はにへらと笑って変化球を投げた後に、また空を眺める作業に戻ってしまった。

 こーり……冰理といっしょ、ということは。

 「まぁ隠すもんでもあらへんし、ええんやけどな。ウチとほむらは今、おんなじトコで働いてんねん」

 と、冰理先輩が名刺を差し出してくれたので覗き込むと、

 「『迷い猫探しから要人護衛まで。まずはご相談ください! 丑寅 辰巳(うしとら たつみ)なんでも事務所』 ……えーと。ここが就職先、ですか……?」

 なんとも怪しげ、というか胡散臭い感じの漂う名刺ではあるが、きちんと体裁だけは整えてあるようで。隅っこに小さく肉球のハンコと『猫の手、お貸しします』と書かれている点がチャームポイントのようだ。


 「要するに“何でも屋”っちゅうやつやな。普段は儲け度外視の場末の喫茶店でウェイトレスやって、こっちの仕事が入ったら出張るって感じや。シャドー・ゴブリンを追ってたんも依頼の為やね」

 冰理先輩はヘラヘラと笑いながら、お前ら運が良かったなぁと陽の肩を叩く。

 「アイツ、アレでも一応は国際指名手配犯でなぁ? 男女問わず、見境なしに攫っては仕込んで売るのを生業にしとるんや。おかげで裏社会では、惨めに負けた元ヒーロー達がトリップしたアヘ顔晒して売買されとるんよ」

 何気なく放られた爆弾発言に、陽はゾッとしたものを感じて美月を見やる。彼女もまたコチラを見ていて、互いに一度だけ頷き、俯いた。


 自分達は先程、シャドー・ゴブリンに負けた。冰理先輩達が来てくれなかったら、今頃はあの薬を飲まされて、商品になるよう調教されていたのだろう。

 そうした罪もあり、逃げおおせた先なのかジャスティス白井へと落ち着き、隠れ蓑にしたのだろうか。

 ジャスティス白井という自称正義の味方の組織に所属してなお、シャドー・ゴブリンは己の行いを正そうとはしなかった、ということだ。

 「いやいや、お前らも知っとるやろ。あのジャスティス白井っちゅう組織、名ばかりのクズ集団やって」

 「夏祭りにぃ、攫われかけたって~、聞いてたけどぉー?」

 どこからその噂を嗅ぎつけたのか、当事者や警備の者しか知りえない情報を、先輩達は掴んでいた。


 「……どこで、そんな情報を?」

 「ははは、見くびんなや。ウチらかて懇意にしとる情報屋くらいおんねん」

その情報屋が何者なのかを知りたいところだが、流石に後輩相手でも協力者を売ったりはしないのだろう。

 あんな、ニュースにもなりやしない小さな事件……司さんが大した怪我もなく全てを叩き潰したせいなので、大事件と言えば大事件ではあったが、それでも。

 そんな些細な情報でさえ、陽達と先輩方の関係を把握されていると考えてしまうのは、ビビりすぎだろうか。


 「そんな心配そうな顔すなや。情報屋は信用できる相手を選んどるつもり。みく……いや、情報屋も売るべき情報かどうかは判断しとるよ」

 「みく……?」

 「気にしんなや」

 ……まぁ、冰理先輩がそう言うのだから、大丈夫なのだろう。

 気にはなるが、気にし過ぎたらダメそうだ。


 「……んじゃま、そろそろ本題に入ろか」

 どうも話が弾むと話が遠のくなぁと、冰理先輩は笑う。

 そして、先程鹵獲した村剥ぎを抜き、地面へと突き刺した。

 「コイツには影縛りの術の効果が乗っとる。つまり、ウチが扱っても同じ状況が作れるってワケや」

 シャドー・ゴブリンは村剥ぎから影縛りの能力を得たと言っていた。つまりこの妖刀さえ持っていれば、それだけで影縛りの能力者になれるということ。


 「お前らは今日、コレを使う忍者に負けた! 悔しいか!?」

 「く……悔しい、です……」

 「声が小さいッ! あと美月、お前も言え!」

 「悔しいですッ!」

 「もう負けたくありません!!」

 「セリフを揃えて大きな声で叫べェ! 『姑息な忍者に負けて悔しいです! 鍛えてください!』ってな!! ほら叫べ!!」


 「「姑息な忍者に負けて悔しいです! 鍛えてください!!」」

 「よっしゃあー! よう言うた! それでこそヒーローや! 今からウチらが直々に鍛え直してやるさかい、気張ってついてこいっ!!」

 「「サーイエッサー!!」」

 「いいノリや! そんじゃ今から……」

 修行や、と続けようとしたその時、待ったをかけるように冰理先輩の肩に手が置かれる。

 そちらを見遣れば、先程までベンチで寝転んでいたはずのほむら先輩の姿があった。


 「な、なんやほむら。ウチは変なこと言ってへんぞ……?」

 何か癇に障る事でもしたのかと、恐る恐る訊ねる冰理先輩。ほむら先輩はそんな彼女に対し、思いっきりタメを作ってから、一言。

 「修行、より。先に、ご飯。……オーケイ?」

 大音量の腹の虫が鳴いていた。

 「………おっけい……」

 そういえば騒いでばかりでお昼ご飯がまだだったと、今更になって思い出したのだった。

 ※冰理は母親が関西の人、というだけで関東生まれの関東育ちなので、どことなくエセっぽい関西弁になります。チビ以外のキャラ付けが欲しい、という事で関西弁を使うようになりました。

 そういう感じでお願いします。

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