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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第七章 『正義の味方と正義の見方』
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それは、聖なるチカラ その2

 シャドー・ゴブリンを名乗る忍者が手勢を引き連れ、ブレイヴ・エレメンツの前へと現れた。

 「ど、どうも……シャドー・ゴブリンさん。ブレイヴ・エレメンツです……」

 唐突に現れた忍者に対してどうリアクションを取ったものか、サラマンダー達は困惑するばかりだが。それでも、忍者に挨拶をされたら同じように返さなければ凄い失礼なのだと力説する人がいたので、とりあえず同じように返してみた。

 その仕草にシャドー・ゴブリンは大変満足そうに頷き、

 「その若さで礼儀正しいとは、素晴らしい戦士だ」

 と絶賛していた。どうやらお気に召したらしい。


 「……それで、シャドー・ゴブリンさんとやらがオレ達に何の用だ?」

 忍者らしい奇襲もなかった事を踏まえ、()()敵意がないとみたサラマンダーはそう問うた。

 多くの手勢がいながらサラマンダー達を囲おうとしていないのは、あくまで対話の為に姿を見せたのだろう、と。

 「うむ、それはだな……」

 シャドー・ゴブリンは大仰に頷くと、懐から一枚の屏風折りの紙を取り出し、サラマンダー達に読み聞かせるように声を張った。


 「『本日ヒトフタサンマルより、我らジャスティス白井(ホワイ)は巨悪たるダークエルダーの支配から脱却すべく行動を開始する。まず手始めに彼奴らの資金源を襲撃し、正義の為の礎とさせてもらう運びとなった。正義の味方各位は、その義心に従いコレに賛同・協力するか、邪魔だてせぬよう願いたい』。……と、いうのが我が組織からの指令である。返答次第では、そなた等を悪と断定し攻撃するようにとの命令も受けている」

 つまり、言い分はこうだ。

 『銀行を襲うけど正義の為だよ! ダークエルダーを倒す為だから、協力してくれるか静観してくれるよね? 邪魔したら殺してやる!』

 ……という、なんとも身勝手な理屈である。


 「なんだぁ、そりゃあ」

 サラマンダーは話の途中から既に呆れ顔で、ウンディーネに至ってはジャスティス白井の名が出た時点から構えを解こうとすらしていない。

 以前、夏祭りの際にジャスティス白井の手の者から襲撃を受けたのだ。生身である司が拳銃で撃たれ、目の前で倒れ伏した姿は今でもふたりの目に焼き付いている。

 「……一応、聞いておこう。ブレイヴ・エレメンツよ、返答は如何に?」

 その様子を見て半ば諦めつつも、律儀にシャドー・ゴブリンは問い掛けを続ける。

 あくまでも礼儀正しいのが彼の良いところだが、ゲニニンに臨戦態勢を取らせているあたり、交渉の余地は無いと理解しているのだろう。

 決裂した際の処刑人も兼用した交渉役なのだ。馬鹿ではない。


 「そんなもんっ」

 「呑めるわけがないでしょう!」

 『ニニンガシ!』

 サラマンダー達が地を蹴るのと同時に、大量のゲニニン達がふたりへと襲いかかった。


 戦闘開始である。



 ◇



 町の中心部から少し離れた、小高い丘の上にある公園。

 そこは今しがた戦場と化しており、炎と水と忍者が宙を舞うカオスとなっていた。

 「うおおおっ! ファイアーボール!」

 『ニニンガシィー!』

 「水刃時雨!」

 『ニニンガシィー!』

 槍を振っても太刀を振っても勢いよくゲニニン達が吹き飛んでいき、一見はブレイヴ・エレメンツに有利な様子に見えるが。

 実状は割とそうでもない。


 「ニニンガシ!」

 「くそっ、またか!」

 戦闘の途中、ゲニニンから投げ込まれた球体。

 棘も導火線も付いていない、何の殺傷能力もなさそうなソレだが、サラマンダーは素早く距離を取るように跳躍すると、球体に目掛けて一条の火線を放つ。

 瞬間、爆発と豪炎。球体の中に入れられていたガソリンに引火したのだ。

 「まったく面倒なっ! ……っと」

 ウンディーネもまた同様に、投げ込まれた球体を峰で打ち返す。

 こちらにはマグネシウムが多量に仕込まれており、水と化学反応し爆発するため、迂闊に水刃を当てるワケにもいかないのだ。


 ……このように、先程からゲニニン達は遠巻きに投擲攻撃ばかりを主とした攻撃を行っている。

 マキビシに手裏剣、クナイや投網や千本や生きたウシガエルなど。

 払っても足場を埋め尽くすような物ばかりをチョイスしたその戦法を前に、サラマンダー達も度々の移動を余儀なくされているのだが、どうにも追い込まれているような気がしてならない。

 そして何よりも気がかりなのは、最初は意気揚々とサラマンダー達を煽っていたシャドー・ゴブリンの姿が見えなくなった事だ。

 『シャドー』という名を冠しておいて影に潜まないワケがないとは思っていたので、隠れるところまでは想定通りなのだ。

 だが、戦闘の全てをゲニニン任せにしたまま一向に姿を見せないのは不安である。

 戦闘中、サラマンダー達にも大きな隙ができたタイミングがあったというのに、それでもなお隠れ続けている。


 「……まさか、私達を彼らだけで足止めし続ける事ができると思って移動したのでしょうか?」

 ウンディーネの疑問に、サラマンダーはなんとも言えない表情で唸る事しかできない。

 彼らの第一目標はブレイヴ・エレメンツの撃破でなく、あくまでも銀行強盗の完遂なのだ。その事を念頭に置くのならば、サラマンダー達がこの公園でゲニニン相手に一進一退の攻防をしているだけでシャドー・ゴブリンの目標である足止めと時間稼ぎという目標は達成できている。

 しかし、その仮定が正しいものとして動き出そうとした時にシャドー・ゴブリンがこの場を離れていなかった場合、今度こそ手痛い不意打ちを受ける事になるだろう。


 つまり、どうにしろここを殲滅しなければ動きようがない。

 ゲニニン達も派手に吹っ飛んでいくのはいいが、一向に数が減らないのも気になる。ここは多少強引にでも、大技で一度全てを薙ぎ払った方がいいかもしれない。

 「ウンディーネ!」

 思考を巡らせ、互いに同様の結論に至ったのか、サラマンダーの一声に対してウンディーネはひとつ頷くだけで側へとやって来てくれる。

 ゲニニン達の輪から抜け出し、全員を射程に収めた位置。ここから瞬発的に広域火力攻撃をふたり同時に叩き込めば、確実に勝てるだろう場所へ。


 無論、その場所へと誘導されていた可能性も考慮していたにも関わらず、人にはどうしても抗えない瞬間というものは、ある。

 『ゴイチ』

 ゲニニン達がそう唱えた瞬間、起こった事は実にシンプルだ。

 辺りを埋め尽くすほどの閃光。ゲニニン達が全員同時に発光したのである。

 「目潰し……ッ!?」

 「目がぁぁぁぁぁー!?」


 ふたりが突然の事態に足を止めたその時、

 「──影、踏み申した」

 ふたりの影が閃光により延びて重なった先。そこでシャドー・ゴブリンの声がした。

 「忍法・影縫い。もう貴殿らに自由は……ない」


 最強の初見殺しがサラマンダー達を拘束したのである。

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