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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
278/386

長い長い回想の終わり

 ──さて皆さん。


 実はこの章の最初が回想入りという形から入ったことは覚えていますでしょうか。

 そう、実は北海道での出来事は全て回想。

 実際の時間軸はツカサが北海道から帰宅した時にちょうど孵化器に置かれた卵からワイバーンが生まれ、ミソラがノアのサーバーからデータを盗んだ容疑でラミィ・エーミルにより取っ捕まり、ツカサがノアに何故なにと問い詰めようとしたその刹那にカレンが帰宅して、その惨状を見てツカサが正座させられたところなのでありました。



 ◇



 以上が、この数日間のツカサの長い長い回想。

 ファミレスでの戦闘に始まり、銀行強盗事件を経て北海道での死闘の後に札幌近辺の美味いものめぐりを堪能し、飛行機に乗って帰宅したその瞬間までの仔細を正座したまま語り尽くしたところである。

 長時間の言い訳中、座布団すらなしに正座させられていたツカサの足は既に感覚もなくなっているが、その程度の罰では済まさないと語るカレンの目が恐くて崩すことすらままならない。

 「北海道での事情なんて私も知っています。私はね、兄さん。チビワイバーンが部屋の中で放し飼いになっていて、山盛りのキャベツをご機嫌に食べている様子も気になりますけどね? 精霊が更に増えていて紹介すらされていないのも怒ってますけどね?」

 カレンは怒気を発しながらも、しかしその視線の先は別のところ。


 ツカサもつられてそちらを見てみれば、そこにはカップ麺のカラや水に漬けずに残されているタッパー類。

 カレンが帰ってくる前に片付ければいいやと、放ったらかしのまま北海道へと旅立ったのでそのままになっているものだ。

 「……作り置きを食べてくれたのは嬉しいですけど、せめて片付けくらいはしてもよいのではありませんか?」

 そこから更に視線を向けた先にはいっぱいになったまま放置されているゴミ袋や回しっぱなしの換気扇、干していない布団など。

 凡そツカサがだらしない人間であるという証拠の羅列がそこにはあった。


 「……ごめんなさい!」

 ツカサもこれには言い訳のしようもなく、頭を下げる事しかできない。

 カレンは別にツカサの面倒を見るために同居したのではなく、単純に住処として丁度いいからツカサの住むマンションへとやってきただけだ。

 そこで色々とやってくれるからと、甘えていたのはツカサの方なのである。一人前の社会人である以上、自分の身の回りの世話すらできない不出来を晒したのはツカサなのだ。

 そんな不甲斐ない兄を見て、カレンはひとつ大きな溜息をついて首を横へと振った。


 「そんなズボラのままで彼女が欲しいなどとよくも言えたものですね。亭主関白にでもなるつもりですか? ……忙しいのは分かりますし、助けてもらったのは感謝していますけど。それでも、男として最低限の良識くらいはですね……」

 ここからカレンの小言は長々と続くが、要約するなら『万が一にでも彼女ができたのなら、その彼女に対して敬意と感謝を忘れず、共に毎日を過ごしたいと思わせられるようになってくれ』という懇願に近い言葉の羅列である。

 カレンからすれば、親友である土浦 楓がダメ男に惚れ込んでしまった形となるので、しっかりしてもらいたいと願う一心なのだ。

 せめて自立した生活能力くらいは欲しいし、もしも結婚まで関係が進み父親になったりなんかしたら、今度は子供にその背中を見せながら生きる事になる。義姉となった親友の愚痴なんて聞きたくないというのが本音であるが。


 「はい」

 カレンの小言の途中、いつの間にかジェンガを組んで遊んでいた精霊達(なおミソラはブロックのひとつとして組み込まれて悦んでいる)のひとり、ラミィ・エーミルが挙手と共に声を上げた。

 「新人精霊のラミィ・エーミルですぅ。発言よろしいですか?」

 彼女はカレンに発言の許可を求めているらしく、カレンは断る理由もないので先を促す。

 ラミィはすくっと立ち上がるとメイド式の一礼。そしてカレンの側へと近寄るとそのままソファへと誘導し、いつの間にか用意していた挽きたての珈琲をカレンの前へと置いた。


 「カレン様の意見も最もですけどぉ。私、これからこの家のメイドとして働く事になっておりますので、今日から家事全般は私の仕事となっているのですよぉ」

 ラミィは言葉を発しながらも手の動きは止まらず、カレンの目の前には既に珈琲と角砂糖&ミルク、そして北海道土産の甘味が並べられている。

 動きに無駄がないというか、いつの間にかノアの目の前にも同様のセットが用意されている辺り、分身でもしているのではないかと疑ってしまう手際の良さである。


 「……いやいや、どうしてそうなったのですか!?」

 ラミィの所作に見蕩れていたカレンだったが、数秒経ってようやくツッコミ所を見出して声を荒らげる。それは、

 「ノアさんの付き人として働く、というなら分かりますけど、私や兄の世話までは必要ないではないですか!」

 カレンとしては、精霊はあくまでも上位存在であり、近しいけれどもそれは良き隣人止まりという認識だ。

 いくらメイドとは言っても、それはノアの専属でありツカサやカレンが奉仕を受ける側に立つワケにはいかないだろう。


 でも、メイドとして生まれてしまったラミィはそれに納得することはない。

 「しかしですねぇ、精霊として、旦那様個人と契約していない私が居候させてもらうには、それくらいの対価が必要ですよぉ?」

 その最もらしい理由に、カレンはぐぬぬと黙るしかない。

 家事ができなければ家政婦を雇えばいいじゃない、というのは由緒正しいやり方でもあり、非難する理由はない。

 この際、兄との家事の分担を狙っていたカレンだったが、その一切をやってくれると言われたら黙る他ないだろう。

 最新の電子精霊なのにクラシカルなメイド、というちぐはぐさはツッコミ所のハズなのだが。

 「……分かりました。そういう事であれば今後、兄さんに家事をやれと強制する事はなるべく控えます」


 不承不承、カレンはラミィの入れた珈琲の美味しさに頬を緩めながらも、ビシリとツカサを指差し、言う。

 「ただし! 兄さんが余りにも腑抜けた生き方をしだしたら、それ相応の対処を行います! 今日はこれから一時間の間、正座を続行! いいですねッ!」

 「は、はい!」

 結局、ツカサは一時間後に前のめりに倒れるまで何もさせてもらえなかったそうな。



 ◇



 とにかく、ここ数日の動乱はこれにて一旦の決着となり。

 結果的にはジャスティス白井という正義を名乗る組織がテロ行為を行い、それが撃滅されたという物語となった。

 ファミレスで起きたワイバーンの卵争奪戦の方は、無事にワイバーンが孵化した事もあり、今後はダークエルダーの管理の下で飼育されていくだろう。

 ノアは自分で飼いたがっていたのだが、流石に秩父山中で遭遇したサイズまで大きくなる生物を人間用のマンションでは飼育できない、と言ったら渋々引き下がってくれた。

 いずれは大精霊の配下として運用したかったらしいが、今の日本ではワイバーンを受け入れる事はまず無理ではなかろうか。怪獣として攻撃されるのがオチとなりそうである。


 ブレイヴ・ノームこと土浦 楓の方は、帰宅早々にブレイヴ・エレメンツとして覚醒した事とダークエルダーに降伏した件を両親に話したらしい。

 その際に一悶着あったらしいが、とにかくその件は家族に受け入れられ、今後は敵対しない方向で決着したようだ。

 サラマンダーやウンディーネ達は不審に思うかもしれないが、まぁ何とかしてもらうしかない。

 今後はカレンと同様の扱いとなるらしく、同じ喫茶店のアルバイトにも応募したそうだ。

 仲良くやっていって欲しいものである。


 三國やイオナも無事に帰宅できたそうで、また後日に呑みに行こうというチャットが送られてきていた。

 どこから情報を仕入れたのかは知らないが、ツカサがこの前立ち寄ったおでん屋の屋台が気になっているらしい。

 また、ジャスティス白井のせいで中止となってしまったライブイベントが今度は本州で企画されているそうだ。呑み友達として格安でS席のチケットを融通してくれるとイオナは言っているが、ツカサはそこまで大ファンというワケでもない為、カレンや土浦さんに渡してB席辺りに陣取るのが妥当だろう。

 いい席ってオタ芸とかコールとかできる人じゃないとダメとか、そういうルールがありそうで怖いというのが本音であるが。


 これでまたいつも通り……いや、いつも通り+αな日常が戻ってくると、ツカサは人知れずこっそりとため息をついた。

 気が付いたらこの6章、書き始めてから1年半近く経過しておりました。

 長くかかりましたが、ようやく一段落となります。


 次にまた登場人物のまとめを書きますが、その後にちょっとだけ6.5章的なのも書こうかなと考えております。

 サラマンダーとウンディーネがこの騒乱中に何をしていたかを描写したいなーという感じで。

 ……なるべく、『ちょっと』で済ませるよう努力致しますね……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鈍感が、、、それはそれとしてカレンさん切実だなぁw
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