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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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土浦 楓の憂鬱 その2

 お兄さん……大杉 司さんとは、その時に出会った。

 熱海で訪れた神社の御神木。そこでたまたま声を掛けた相手が司さんだったのだ。

 最初は写真を一枚撮ってもらおうとしただけだったんだけど、司さんがボクに“見蕩れた”だなんて言うものだから。

 ボクはその時、なかなか捜索が上手くいかないストレスと、人が行方不明になっているような状況で呑気にしているこの人の事がちょっと癪に障って。

 だから、『どうせ一期一会だし』という理由を己に言い聞かせて、司さんをからかってストレスを発散する事にした。


 ナンパ目的かと言ったら物凄く嫌そうな顔をしていたし、そういう人でなさそうなのはひと目で分かっていたけれど。でも、一切興味無さそうにされるのはボクとしても少しだけ傷付いた。

 これでもボクは母に似て美人系だし、外見だけはイイはずなのだ。

 なのに逃げるようにして去ろうとするのはどうなのさ?

 脈はないのかもしれないけど、お茶くらいいいとは思わない?

 ……まぁ、そんな悠長な事を言ってられる状況でもなかったんだけどさ。


 とにかく、ボクは憂さ晴らしも兼ねて話し掛け続けた。

 別に話しかければ答えてくれるし、嫌がっている素振りもないけれど、どことなく距離を感じるのは何が理由なんだろうか。まぁ後から聞いた感じ、女性に対して耐性がないだけらしいけれど。

 それでもめげずに傍によってよくよく見れば、なんとなくだけど鍛えている感がある司さん。もしかして格闘技の経験者とか、まさかヒーローなのかな? とも思って、しばらくついて行ってみることにした。

 ヒーローだったら大当たりだしね。歌恋を助ける手助けをして貰えるかもしれないし。


 あと、ノームがボクにだけ聴こえる声で『ののの~ん』と(いなな)いたのも気になった。

 普段はずっと大人しいノームだけど、学校で歌恋や諸先輩方とすれ違う時などにはたまに声を上げるのだ。

 最初は美人好きなのかなとも思っていたけれど、町の外に出てからも何度か鳴く事はあって。そしてその声が示した先に行くとヒーローが戦っていたりするのだ。

 もしかしてヒーローに反応しているのかとも思ったけど、何を聞いても『のーん』という言葉が返ってくるばかりなので気にするのはやめた。

 ……今思えば、精霊仲間に反応していたっぽいね。

 司さんには大精霊ノアが居て、歌恋にはシルフィ。後は先輩方のサラマンダーとウンディーネ。

 たまに街中で見掛ける、熱海で歌っていた女の子にも嘶くんだけど、もしかして彼女も精霊と一緒なのかな?



 ◇



 話が逸れたね。

 とにかくボクは司さんと行動を共にしたことで歌恋や他の巫女さん達を救出する事に成功した。

 最初は頼りなさそうなイメージだったけど、最後は邪神の欠片を喰って亜神となったクラバットルまで倒してしまって。

 不謹慎ではあるけれど、この現場に居合わせることができただけでもボクは運が良かったのかもしれない。

 だってさ、ボクは初変身なのに裏見 恋歌の曲をBGMに戦うことができたんだよ?

 歌っていたのは本人ではないけれど、でも歌姫はとても澄んだ歌声をしていて。身体の奥からチカラが湧き上がってくる気さえしたんだ。


 多分これから先にも、これ以上に痛烈な思い出はないと思う。

 ……ボクはもうこの時には、司さんに惹かれていたのかな?

 司さん風に言うならば、“見蕩れ”てしまった。

 共に並び立ち、親友()の為に()を振るった者同士。

 最後の最後まで堂々と立ち振る舞っていた背中は、とても大きなものに見えた。

 まぁ歌恋のお兄さんだという話は後から聞いたのだけれども。


 「それは多分、吊り橋効果ってやつですよ。兄の外面は……まぁ悪くはなくなってますけど、それでも中身はただの特撮オタクのヒーローオタクです。オススメはしませんよ」

 なんて、当時の歌恋に言われた。

 根暗オタク方面なので友達も少なく、社交的になろうとしなかったので話題の引き出しも乏しい。ヒーローとかそっち系の話だけはやたら饒舌だ……等と、歌恋は散々に()き下ろしていたけれど。

 歌恋、気付いていないかもしれないけれど、キミもお兄さんと裏見 恋歌の話に関しては普段より饒舌だよ?

 ボクも母親のヒーロー時代の武勇伝に憧れて育ったので、多分同じように饒舌になるタイミングもあるだろうから、悪い事だとは思わないけどね?



 ◇



 それからしばらく後。

 司さんや、日向さん達と行った夏祭り。

 ボク達はあの時に初めてジャスティス白井と遭遇したんだっけ。


 あの時は司さんが拳銃で撃たれて、怒りと戸惑いで目の前が真っ白になってた気がする。

 歌恋がシールドを使って必死にボク達を留めてなければ、ボクは真っ先に変身して彼らを殴り殺していたと思う。

 歌恋だってすぐに駆け寄りたかっただろうに、無理をさせちゃったんだろうね。あの時はあの場の全員がヒーローだとは普通思わないし。

 兄の生命よりも一般人の保護を優先しなきゃならない、なんて過酷だったよね。

 本当に、無事で良かった……。今になって、生身で拳銃に撃たれて無事なのもどうかと思ったけれど。ウチの母も昔は脇腹を撃たれたりしたらしいからヒーローってそんなものなのかな?


 だとしたら怖過ぎる。



 ◇



 そして今回の北海道修学旅行。

 ボクと歌恋はクラスメイト達を守るため、互いに全力を以て戦った。

 歌恋はシルフィとして登場して、口調も変えていたけれど。ノームの反応が素の歌恋の時と一緒だったんだよね。

 それで多分、歌恋じゃないかなーってぼんやりと思ってた。

 確証は無かったけど、まあ背丈も似たようなものだったし、何より都合が良過ぎる気がしたんだ。

 修学旅行先で出会って()()()()なんて事ないでしょ。

 クラバットルがボクの代わりに攫うくらいだし、何かしらはあってもおかしくないとは思っていたもの。


 今回もまたジャスティス白井って名前が出た時点ですごーく嫌な感じがしていたけど、やっぱりヤバい相手だったね。

 どこが正義(ジャスティス)なんだって、何度もつっこみたくなった。

 怪人達と戦い、満身創痍なところに聖色四天王が現れて。

 それでも必死に戦っていたボクらの前に、ミチルを人質に取ったクソ野郎が現れた。

 言葉が汚いのは許して欲しいな。ボクにとってコイツはクラバットル同様の悪鬼羅刹と同義。一般人を人質にするなんて最低な男なんだから。


 まぁその男がミチルに何かをする前に止めてくれたのが、黒雷さんだった。

 ノームの嘶きが司さんと対峙した時と一緒だったので、中身は司さんなんだろうなーと漠然と考えながら、それでも何か変だなとは思ったっけ。

 歌恋がダークエルダー所属のシルフィだと名乗った時点で、ボクはかなり混乱していたけれども、司さんまでそう名乗って。しかも幹部だって言うのだから、「あ、そんな感じなんだ」となんとなくだけど自分を納得させた。

 

 多分このふたり、元々がヒーローなんじゃなくて悪の組織の一員がヒーローっぽい事してるだけだなって。

 だって司さん、ハクの時よりも黒雷として登場した方が生き生きとしているんだもの。

 何か事情があって、ヒーローであるボクことブレイヴ・ノームに隠したいというのなら、詮索するのは止めておこうとその時は思いました。

 三國先生のせいで何もかも暴露されたんだけどね?



 ◇



 ここまでが、ボクが司さん達と関わってきた出来事。

 この後も三國先生の突然の幼馴染宣言だとか、裏見 恋歌の中の人との遭遇だとかあったけれど。まぁそれは置いておいて。


 結局何が言いたいかと言うとだね?

 「兄さんにガチで惚れてしまったんでしょう? 前置きが長いんですよ」


 ちょ……ちょっと歌恋さん?

 人の脳内語り系地の文に介入しないでくださいます?

 「はいはい。アイスミルクをロックでキメて悦に浸っているところ申し訳ないですね。百面相してて分かりやすかったものでつい。申し訳ついでに、ドライヤーが空いたので使っていいですよ」


 あ、どうも。……あと、それとさ。

 「大丈夫です。兄さんには言いませんし、私は一応応援しますよ? まぁあの人の場合、妹の親友という肩書きの時点でハードルが高いって言って逃げ出すと思いますけど。学生に手を出す覚悟すらないでしょうし」


 うそ、もしかして前途多難……?

 「そんなもの、惚れさせればいいだけじゃないですか。女性に耐性がないあの人なら、多少のアタックでコロッといきますよ」


 ほ、ほんと……?

 「…………まぁ多分。ライバルがいないと、いいですね……?」


 怖いこと言わないでよー!

 ただでさえ三國先生のインパクトが強過ぎて不安だってのにィ!

 「まぁ何とかなりますよ多分きっとメイビー」



 ◇



 こうして、北海道での日々は過ぎていった。

 戦乱と再会と少女の恋の自覚。

 それらを経て迎えた翌日は、雲ひとつない晴天だったそうな。

 うまい締め方が思い付かなかったのでこんな感じになりました。

 次回からはいつも通りの内容に戻るかと思われます。

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― 新着の感想 ―
[一言] その頃、飲み会にてツカサさんとイオナさんは呼び捨てで呼び合う仲になっていた、、、 ライバルいますねえ
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