土浦 楓の憂鬱 その1
土浦 楓の独白回です。
幼なじみの圧が強い(迫真)ので、ヒロイン回もあった方がいいかなーと。
ボクの名前は土浦 楓。
乙女座のA型で、日本人とアメリカ人のハーフ。
だけど、生まれも育ちも日本だから英語はうまく話せない。
金の髪と髪質は母親譲りだけど、瞳はライトブラウン。眉毛の形は父親そっくりっていつも言われてる。
──さて、どうして自己紹介から入ったかと言うと。
……まぁ、今回がボクの独白回だからというワケなんだけど。
つまらない話かもしれないけれど、まぁ聞いていっておくれよ。
ボクがどうしてブレイヴ・ノームとなって、どうしてあの人に惹かれていったのか。その話をさ。
◇
ボクは多分、ごく一般的な人間だ。
確かに血筋はハーフだし、母はアメリカで活躍していた元覆面ヒーローだし、父はその活動をサポートしていた組織の研究員だったらしいけれど。
それでも、ボクの過ごしたこれまでの人生には大した起伏はなく。
あるとすれば、ハーフである事への偏見や憧れ、畏怖なんかに晒されながら生きてきたくらいだけど。
心配した両親が格闘技を習わせてくれたので、習いたての技を使っていじめっ子を黄昏時に奇襲し、ブランコに磔にした後からイジメはほとんどされなくなった。
あ、もちろん覆面も被ってたし痕跡は残していないし、アリバイだって作ってあるからボクは犯人扱いされていないよ?
いじめっ子にだって怪我はさせてないし。
銀杏の実を集めてすり潰してアレコレしただけだからねっ!
……両親は苦笑していたけれど。
◇
それで、一般人であるボクに、ある転機が訪れたのは高校へ進学してしばらくした後。
「はじめまして、大杉 歌恋です。家庭の事情によってこちらに転校して参りました。皆さんどうか、よろしくお願い致します」
HR中に転校生が来ると言われ、ソワソワした雰囲気の中迎えられたその少女。
それが後に親友とも呼べる仲となった彼女との初遭遇であり、ボクの運命を大きく変えた……のであろう瞬間である。
彼女……歌恋に一目惚れしただとか、今日の朝に街角で食パンクラッシュしただとか、そんな話ではなく。ボクの視線はただ、歌恋の胸元の一点へと注がれている。
「……んじゃあ、大杉。お前の席はあそこの金髪の隣な。仲良くしてやってくれ」
三國先生の一言で、歌恋は今朝持ち込まれた空席へと移動してくる。
ボクの席はちょうど教室の最後尾の窓側で、隣のいないぼっち席だった為、ようやくお隣さんができる形となった。
「「よろしくお願いします」」
なんて、声をハモらせて。ふたりでちょっと笑ったのを今でも覚えている。
そして、互いに持っていたキーホルダーを見せ合い、言う。
「「貴女も裏見 恋歌のファンなんですね?」」
初めて会って互いの二言目がこれだ。
裏見 恋歌ファンクラブ会員限定販売の、増産されなければ世界に100個しか存在しない本人直筆サイン入りキーホルダー。
裏見 恋歌がまだまだVドルとして駆け出しの頃に作られたもの。
同レベルのファンにしか通じないが、最強の同士探知機とも言える代物だ。
なので、その日からボクたちは親友となった。
◇
『のーん』
歌恋と出会ってからしばらくして。
ボクは、なんとなーく呼ばれている感じがしたので、そちらの方向へと向かってみたところ、変なモグラのような何かと遭遇した。
「……キミが、ボクを呼んだの?」
ボクの言葉にそのモグラ……ノームは答えることもなく。
気が付いた時には、ボクの手首にはシンプルなデザインのブレスレットが嵌められていた。
「えっ!? うわっ、なんだこれ!?」
ボクが驚き、慌ててブレスレットを外そうとした刹那、ボクの脳裏には瞬間的に膨大な量の情報が流れ込んできた。
ブレイヴ・エレメンツの役目。天使の存在。大地の精霊ノーム。チカラの使い方。日本の地脈と龍穴。etc...
そんな頭がパンクしそうな情報を詰め込まれ、ボクはしばらく頭痛に呻く事になったけれど。
それでも、ボクは“特別”になったんだという事は理解できた。
ヒーロー:ブレイヴ・ノームの誕生である。
「……そっかぁ。じゃあ、よろしくね、ノーム?」
『のーん』
ボクは新たな相棒と共に、ヒーローとして舞台に立った。
立って、しまったのだ。
だって、仕方ないだろう?
母の活躍を子守歌代わりに聞いてきたボクに、その憧れを捨てることはできなかったんだから。
◇
「──楓、危ない!」
ドンと背中を押され、前へとつんのめるボク。
何事かと振り向けば、そこには巨大な大蛇に丸呑みにされる歌恋と謎の男がひとり。
「くっくっくっ。少々計画が狂いましたが……まぁこの娘も巫女としての素質はありそうです。他のヒーローに見つかる前に退散するとしましょう。熱海は遠いですしねぇ……」
「ま、待て!」
ボクは咄嗟に変身して戦おうかと思ったけれど、人前で正体をバラしてはならないというルールを思い出してしまい、その手を止めてしまった。
今ならばあの巫女について多少の情報はあるけれど、当時のボクはなにひとつ分からなかったから躊躇してしまったのだ。
「貴女のような木っ端に、用事はありませんよ。助かった幸運を噛み締めながら、友を犠牲にした後悔に苛まれて生きていきなさい」
男……クラバットルは含みのある笑い方をしながら、大蛇を引き連れ霧の中へと消えていく。
「かれぇぇぇぇん!」
絶叫虚しく、その場に残されたのはボクひとり。
歌恋が大蛇に飲み込まれた時に落としたのであろう例のキーホルダーだけがその場に残されていた。
◇
その後の行動にはもう、迷っている暇などなかった。
お年玉とバイトで貯めたお金を全て財布の中へと突っ込み、言い訳としてお下がりの一眼レフカメラを持って「熱海まで友達と旅行に行く」と両親に話した。
母は反対こそしなかったけれど渋い顔をし、父は逆に真顔のままお小遣いとして数万円を渡してくれた。
多分、ボクの顔を見て察したんだと思う。
旅行だって言いながら、ボクの顔は一切笑っていなかっただろうから。
挨拶もそこそこに、ボクは宿すら取らずに熱海へと直行し、一般観光客のフリをしながらそこら中を歩いて回った。
夜はネカフェに泊まり、風呂は銭湯や温泉を巡り、親友を探して数日間。
幾度かナンパにもあったけれど、日本語が分からないフリをしたりノームに手伝ってもらったりして事なきを得た。
ハーフは日本だと悪目立ちするという事がよく理解できたと同時に、とある重大な問題を思い出すに至った。
「ボクひとりで何ができるのだろうか」
親友のピンチに焦り、飛び出してきたのまではいい。
しかし、ボクはヒーローとして戦った事はなく、自身の力量すら未知数なのだ。
この拳が届かない相手が敵だったとしたら、ボクは無力だ。
せめて誰か。事情を理解し、助け合える仲間がいてくれたら……。
ボクはそんな無茶な願いを胸に、とある神社へとやってきた。
神頼みである。
親友の無事と、味方を得られるようにと、敵の狙いの阻止を神様へと頼み込み。ボクは寄り道がてら神木へと近寄った。
一応趣味の一環としてカメラも持参しているのだし、一枚くらいはいいだろう。
ボクはキョロキョロと辺りを見回し、そこで人の良さそうなお兄さんを見付け、声をかけたんだ。
◇
それが運命だったとか、そんな厨二病っぽい事は小っ恥ずかしくて言えないけれど。
でもその出会いは多分、神様のイタズラだとか、そんな感じじゃないかなと今でも思ってる。
──だって、ボクが神様に願ったことを全て叶えてくれる人が都合よく現れるなんて、普通は思いもしないだろう?




