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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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飲み屋と出会いと宴の夜 その2

 「え、二人とも札幌で会うなんて思ってもみなかったんだけど! どうしてここにいるの!?」

 少々テンション高めに問いかける声。

 それは本州にてヴァーチャルアイドル活動をしているはずの委員長系女史、イオナであった。

 彼女は認識阻害装置付きのサングラスをズラし、嬉しそうな笑顔を浮かべながらツカサ達のいるテーブルへとやって来て、三國の隣を陣取った。


 「それはこっちのセリフだって」

 と、ツカサも驚きを顕にしながらもチラリと横を見る。分かっていた事だが、カレンはイオナが誰なのか分かっているのか驚いた顔をしているし、土浦は全くの見ず知らずの人という反応だ。

 まぁ、それはそうだろう。カレンならば組織に所属している有名人くらいは調べているだろうし、逆に土浦は人気Vドルの中の人なんてのは知らないのが当然だろう。

 でも確か、熱海の時はファンみたいに言っていた気がするので、ここは教えておいた方がいいのかもしれない。


 「土浦さん、この人は……」

 「兄さん待った」

 ツカサが正直に正体を知らせようとしたところ、何故かカレンから待ったが入った。

 この子絶対叫ぶから、と前置きした上で指を鳴らすと、空気を読んだシルフィがツカサ達のテーブルの周囲を真空の壁で覆ってくれた……らしい。見た目ではさっぱり分からない。

 さぁどうぞと促され、ツカサは改めて口を開く。

 「この人はコードネーム:イオナ。ぶっちゃけて言うと裏見 恋歌の中の人だ」


 その言葉から5秒ほど、土浦の動きが完全に停止して。

 「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 真空で覆っていて本当に良かったと思えるほどの大絶叫が轟いた。

 耳を塞ぐのが少しでも遅れていたら、キーンとなっていた事だろう。

 「あ、あ、あの、あのあのあのうら、裏見……れれれれれゲホッ……!」

 「どうどう楓。お水飲んで深呼吸しようねぇ」

 あまりの慌てっぷりに、カレンが背中を擦りながら土浦を落ち着かせている。

 ついでに真空の壁を解除したのか、急に周囲の喧騒が戻ってきて耳朶を叩いたが、誰もコチラを気にしている様子はない。

 ……いや、美人ばっかりのこの卓を羨ましそうに眺めて、彼女らしき女性に叩かれている野郎だったら何人かいるが、それは些細なことだ。


 「そんなに熱心なファンだったのか……」

 自身がオタクであるツカサだからこそ、推しが目の前に現れた瞬間のビビり具合がよく分かる。

 当人のイベント等に遊びに行った時に出会うのならば予め期待している事もあろうが、今回はほぼ事故に近い。

 それは噎せもするだろう。南無三。

 「ゲホッ……ゲホッ……! あ……熱海であの歌を聞いた時に、更にのめり込んだんですよ! 司さんだってあそこに居たじゃないですかっ!」

 と恨めしそうにツカサを睨む土浦。

 彼女とは熱海で共闘した際に、唐突に始まった椎名のゲリラライブを共に聴いた経験がある。

 その時に椎名が歌っていたのが裏見 恋歌の曲。確か……。

 「桜舞う雪空の血濡れ傘(レーヴァテイン)……だっけ?」


 そう確か、そんな名前の厨二病全開な曲名だったはずだ。

 戦闘曲としてバックに流れるにはとても良い感じの曲調だったのを覚えている。歌詞はまぁ……置いておいて。

 「お、わた……裏見 恋歌が売れ始めた頃の代表曲ね。じゃあ……挨拶代わりに、これをあげる♪」

 そういってイオナが鞄から取り出したのはCDケース。それの蓋を開け、中のCDにパパっとサインを書けば完成である。

 「今の一瞬で3000円のアルバムが3万二千円に変わったわ……!」

 隣に座る三國がやたら守銭奴らしき台詞を吐いているが、つまりそれはサインが3万円分の付加価値として成立しているという事だろうか。

 アイドル界隈は恐ろしい。


 「い、いいんですか!? やったー!」

 思わぬサプライズに、文字通り飛び跳ねて喜ぶ土浦。嬉しいのは分かるが、これがもしドッキリとかで全くの別人でした、とか言われたらどうするのだろうか。

 いや間違いなく本人なんだけども。

 「……で、ツカサくん。彼女?」

 「どーしてそうなるんや」

 迷わず小指を立てたイオナにノータイムで否定を入れ、二人を紹介し忘れていた事に気付く。

 「まずこっちが俺の妹のカレン。で、あの君のファンの子が妹の友達で、土浦 楓さん。ヒーローだけど共闘したり何なりしてて、とりあえず今はこっち陣営? かなーって感じ」

 「いや雑ゥ。詳しく聞けるような場所じゃないのも分かるけど……」


 周囲の喧騒で声は掻き消されているだろうが、聞こえたら割と面倒になりそうな話題ではある。

 何せ先程までヒーローも悪の組織もぶっ潰す、なんて言い出した正義の組織が暴れていたのだ。タイムリー過ぎる。

 「……っと、そうだった。私の後ろにいるこの人、私のマネージャー兼ボディガードの木蔭 涼子(こかげ すずこ)さん」

 そう言ってイオナが指をさした先には、先程まで何故か存在すら認知できなかった人物がひとり、立っていた。

 「……うぉぅ、ビックリしたぁ……」

 ツカサの視界の隅に捉えられる位置だったにも関わらず、気配すら感じなかったその女性は、酒場だというのに全身黒のスーツにサングラスとインカムまで付けてその場に佇んでいる。

 非常に場違いなのだが、ツカサ達以外は誰も認識していないのか、気にかけた様子は無い。


 「涼子さん、忍者の末裔なんだって。ちょっと無口な人だけど、腕も立つしスケジュール管理とかも完璧にこなしてくれるから、助かってるんだ~」

 そうイオナが言うと、涼子さんは照れたように頬を掻きながらぺこりと会釈をしてくれた。

 確かに無口だが、悪い人ではないらしい。

 「今更だけど、同席して大丈夫? ……あ、涼子さんはお酒飲まないらしいから、風景に溶け込んで待機してるって」

 「席は大丈夫だけど、何故風景に溶け込む必要が……ってもう見えないし」

 どうせなら一緒に座ればとも思ったが、ボディガードという業務上そういうワケにはいかないのだろうか。

 意識から外してもいないのにいつの間にか消えているその手腕は、スズとどちらが上なのか一度出会わせてみたい気もする。


 「店員さーん、とりあえずナマみっつとヤシの実ジュースと烏龍茶、あと冷やしトマトとナンコツの唐揚げ、シーザーサラダをくださーい」

 「かしこまりましたァー!」

 話に加わらずにメニューを眺めていた三國がさっさと注文を始め、未だにぽわぽわしている土浦を捕まえてメニューを渡す。未成年者はご飯ものを食べたいだろうし、大人が酔う前に頼ませるのは正解である。


 まだまだ夜は始まったばかり……。

 ルビコンで傭兵していたら書く暇がががが……。

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