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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ジャスティス白井の反乱、決着 その3

 三國がパフェを食べ終わるのとほぼ同時に、ツカサとカレンの兄妹口喧嘩が終了する。

 結果は……まぁ、ツカサが轟沈している時点で察してもらうとして。

 「ぜェ……ぜェ……。ほら、また語ったら、どうですか……。好きなんでしょう、自分語り……」

 カレンの挑発紛いの言葉にも、今のツカサは返す言葉も出ない。


 今日のツカサ自身は懐かしい顔を見れた嬉しさに浸っていたので割と饒舌だったのだが、対するカレンの機嫌がすこぶる悪かったのだ。

 何せ、せっかくの修学旅行を台無しにされた挙句、自身の力不足により友達をピンチに追いやってしまい、その窮地を救ってくれた兄は自分達を放っておいて巨大浮遊戦艦へと突撃したまま続報を得る事ができなくなっていた。そして地下シェルターへと押し込まれてヤキモキする中、そこで比較的元気な者達が集まっておにぎりとカレー作りなんてやらせられ……。もはや感情など綯い交ぜになって、ひとり優雅にお茶を楽しんでいた兄に辛く当たるのも仕方ない。


 なんて事情を知らないツカサは、またカレンに嫌われたのかと落ち込みに落ち込んでいるので、しばらくは再起不能なのである。


 「……あー、仕方ないな。続きは私が語ってやろう」

 見るに見兼ねた三國が立ち上がり、ツカサの横へと座る。そして頬杖をつきながらゆっくりとツカサの背を撫で、ポツポツと語り出した。



 ◇



 さてと、どこまで語ったのだったか。

 そうそう、ネックレスを付けるところまでだったね。

 そこで私は確か……そう、実家の生業について話したんだ。


 「私の家はね、先祖代々の情報屋なんだってさ」

 私の言葉を分かっているのかいないのか、キー坊はオウム返しに「情報屋?」と聞いてくる。絶対に可愛らしく小首を傾げているのだろうと私はほくそ笑んだけど、まぁお互い顔は見えないからね。この辺は想像さ。

 「そう、情報屋。『井戸端会議の小話から、ペンタゴンの極秘サーバーまでなんでもござれ。小耳に挟んだ真実を、ちょいとお届け【吟遊 美國】』ってのが謳い文句らしいよ」

 私は父に聞いたその言葉を、一字一句そのまま諳んじる。

 ウソだ、なんて否定はしなかったさ。なんせウチはその情報を売り買いした金を株で増やし続けておまんまを食ってたからね。


 「美國ってのが宗家で、分家のひとつであるウチは三國となり、多数に別れた分家筋の人達と共に民間の情報収集に勤めてきた……んだってさ」

 「……よく分かんない」

 「だろうね。私もだよ」

 時折首筋に触れる感触をくすぐったく感じながら、私とキー坊は互いにくすくすと笑ってた気がする。

 子供には大それた話なんてさっぱり分からなかったからね。宗家や分家って言われても、つまりは親戚の人の方が偉いんだなーって事くらいしか理解できていなかったよ。


 美國の家……いや、もはや企業かね。そこは明治時代から国家機関レベルだったらしくて、世界中のありとあらゆる情報が彼らの手中に収まっていたらしい。

 ……まぁ、戦争の折に不都合な存在扱いされて抹殺されかけたらしいけどね。その際に散り散りになったのが私ら。

 宗家は行方を晦まして、今ではごく一部の分家しか所在を把握してないんだってさ。

 おっと、話が逸れたね。


 「──よし、付けた! ……で、どうして情報屋だと引っ越すの? 悪の組織に狙われてる、とか?」

 キー坊が付けてくれたネックレス。それはロケットペンダントが一枚減って、今度はドッグタグが増えたものだ。重量としてはトントンに感じたけれど、首元に仕舞った時のヒンヤリとした感触が印象深かったね。

 ……で、キー坊が今度は私の正面に座り直してそう問うてきた。

 当時だって悪の組織の活動は目立っていたからね。流石に田舎まではその魔の手も延びていなかったけれど、今ならキー坊が心配する気持ちも分かるよ。

 私らは個人で抱えてる情報量が他人よりも一桁か二桁違うのが当たり前だったらしいし。子供の時の私ですら、色んなトコの暗証番号を覚えていたくらいだからね。……どことは言わないよ。生徒に警戒されるのが、私には今一番効くからね。


 「違うよー。なんか、親戚のトネ婆ちゃん()の孫が家業を継がないって言ったらしくって。そしたら廃業になるから、今のトネ婆ちゃんが管理している区域を他の分家で分ける形になるんだって」

 全国各地に散らばった分家は、それぞれの地域に根を張ってありとあらゆる情報を収集し続けていた。分家同士、互いに邪魔しないように区切りを付けてね。

 でもその一角が崩れるとなったら、誰かがそこを埋めなきゃならない。情報こそがチカラと豪語する家系だからこそ、些細な事ですらも飯のタネに成りうる。だから把握していない地域を作るわけにはいかないんだ、ってさ。

 「それで、私らの分け前が群馬から埼玉の一部辺りまでらしいから、拠点を移す事になる……って言ってた」


 長くなったけど、それが当時に私が引っ越した理由。

 実家と田舎の方は姉夫婦に任せて、自分達は家族三人、新天地にて頑張ろうって話だそうだよ。

 「……よく分かんないけど、寂しくなるね………」

 恥じることも無くしょんぼりとした顔を見せてくれるキー坊。そんな幼馴染が愛おしくないはずもなく、当時の私はキー坊を真正面から抱き締めて言ってやったのさ。


 「大丈夫。この交換したロケットとドッグタグをお互いが大事にしている限り、またいつか会えるよ!」

 それが当時の私の精一杯の強がり。何せ、アンタら兄妹は私にとって家族も同然だった。離れたくなんかなかった。

 ずっとずっと三人で、笑いながらいつまでも遊べたらってずっと思ってた。

 ……でも、子供のわがままじゃあ大人は動いてくれないからね。

 この日はそのまま、なーんの色恋沙汰もなく別れて……あ? いやいや、期待なんてしちゃいないし、そもそもコイツをそんな目で見てやしなかったさ。


 出来の悪い弟みたいな感覚さね。だから安心しろ土浦。

 ……え、なんでボクに振るのかって?

 この場にはお前しかいないからだ、そうだろ?

 まさかまさか、妹に口論で負けて不貞腐れてるヤツを好きになる女性なんてそう簡単に見つかるワケないもんなぁ?

 他意はないよ。



 ◇



 「そしてそれから、私は情報収集の場として学校が便利だと考え教師になった。子供なら信用さえ勝ち取れば口が軽いからね。それと並行して、アンタら兄妹の情報も集めてたんだけど……。そう、ある日ノア様に見つかってしまってね。互いの素性を明かした上で、定期的に情報を買わせてもらう立場になったのさ」

 これで話す必要のある情報は出したかな? なんて三國は言って、冷めてしまった謎のブレンドティーを口に運ぶ。

 強烈なよく分からない味に、またまた渋い顔をしつつ。胸元から取り出したのは、先程まで話していたロケットペンダントとドッグタグの付いたネックレス。


 「運命の巡り会わせ、なんてのはあんまり信じちゃいなかったけど、こうして離れた土地でも会えたってのは誰かの差し金なのか、悪戯なのか……。それでも私は、また会えて良かったと心から思えるよ」

 そう言って微笑んだ三國の顔は、まるであの頃の少女そのままで。

 ……もし、モルガンの予言通りに事が進んでいたら、この三人の笑顔はもう一生眺める事は出来なかっただろうと思うと、ツカサは無理を通してでも助けに来て良かったと、心の底から思う。


 「ありがとう、ツカサ。助けに来てくれて」

 そんなツカサの心を読んだのか、三國はあの頃みたいにツカサの背を抱き締め、耳元でお礼を言ってくれる。

 だからツカサも、

 「また君に会えて嬉しいよ、ミク」

 今できる精一杯の笑顔で、そう返した。



 ◇



 「……やっぱりボク、お邪魔だったんじゃない?」

 「いえいえ、この後はヒーローなのに私達の正体を知ってしまった挙句、私や兄と争いたくないからと悪の組織に降伏した貴女の処遇についてのお話になる……はずですよ」

 「こんな綺麗に落ちを付けた感じになっている回想の後で? やだなー」

 なんて、置いてきぼりのカレンと楓であった。

 カレン:私達の情報を集めていたなら、いつでも会いに来れたのでは?


 三國:そこはほら、互いに立場ってのがあったし? それに再会は感動的な方が面白いだろう?


 カレン:すっかり顔を忘れていた幼馴染が担任になって、それをずっと黙っていられたので感動もクソもないのですが?


 三國:ウケる

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