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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ジャスティス白井の反乱、決着 その2

 ダークエルダー札幌支部の一室を借りた会議は続く。


 ……いや、続くと言うには語弊があった。正確には『まず何を話したらいい?』の議題から抜けられていないのだ。

 一応触りとして、三國がツカサ達の知り合いであり、今は教師をしているという話だけはしたのだが。そこでふと、ツカサに思い至った事がある。

 「そういえばミクよ、お前さんの実家って情報屋をやってるんじゃなかったっけ? 確か継ぐって話もあったよな?」

 そうツカサは三國へ向けて訊ねた。


 「「情報屋?」」

 これに対し、興味を持ったのはカレンと土浦。

 自分達の担任教師の新情報だ。気になるのは分かるが、ツカサとしてはここまで連れてきておいてまだ話していなかったのかと逆に驚いてしまった。

 「そういえば話してなかったっけ?」

 と、三國としても話さなかったのではなく既に伝えたつもりになっていたようだ。

 「ツカサ、説明よろしく」

 「へいへい」

 寛ぐというかだらけた三國は説明を全てツカサへと投げ、自身は先程買ってきたマカロンをつまみ始めている。

 まぁこんな奴だったよなと、承知の上のツカサは特に驚く事はなく、昔の事を思い出しながらも訥々と語る。



 ◇



 今は昔……とはいっても十数年前なのだが。

 三國が情報屋の家系である、とツカサが聞いたのは彼女が引っ越す前日。


 まだ若干肌寒い、桜がもうすぐ芽吹こうとしている冬と春の間。

 ツカサは三國との最後の別れの場所として、三人でいつも遊びに来ていた港を選んだ。

 まだ幼い(カレン)がショックで部屋に引きこもってしまった為、ツカサと三國の二人きりではあるが。



 ◇



 「え、あの日ふたりでよろしくやってたんですか?」

 「会ってただけな。変な言い方やめろー?」

 ちゃちゃを入れるなよ。話が挫けるだろ。



 ◇



 「お前、なんで引っ越しちゃうんだよ。寂しいだろー?」

 ツカサは堤防に座り、足を揺らしながら三國へ問いただす。

 日本海を一望できるその場所は、三國やツカサ、カレンのお気に入りの場所だった。

 まだ冷たい潮風が頬を撫で、赤くなった鼻をすすりながらも、ふたりはその場を離れる気はない。

 これが最後となってしまうのは互いに同じなればこそ。


 「……んー。なんでって言われてもなー。教えてもいいんだけどさぁ~」

 三國はその時、もったいぶったような言い方をしていたのをよく覚えている。

 彼女は元々、何かをして欲しいなら対価を寄越せと、誰にでも憚らず言っていた子供だったから、この時はさほど気にしてはいなかったけれども。

 「……何が欲しい?」

 ツカサもそれを分かっているから、半目になって訊ねる。待ってましたとばかりに三國は身を乗り出して、

 「あのね! キー坊のそのキーホルダーちょうだい!」

 と、そう宣った。


 キー坊、というのは当時のツカサの渾名だ。鍵っ子だからキー坊。

 安直ではあるけども、当時はその英語っぽい発音が気に入っていたし、三國以外の誰もその渾名では呼んでくれないからちょっとだけ特別感があって好きだったのだ。

 そしてそのキーホルダーというのはツカサのお気に入りで、いつも家の鍵と一緒にぶら下げているもの。

 「えぇぇぇ……。これ、欲しいの?」

 ツカサが渋々と取り出したのは、安物のキーケースの中に鍵と共にぶら下げていた二枚の金属板。

 俗に言うドックタグと呼ばれるもので、当時ミリタリーにハマっていた父親が何かのお土産としてツカサにプレゼントしてくれた物だ。



 ◇



 「ちなみに私にはスタンガンをくれました。まだ小学生なのに」

 「過激なお父さんなんだねぇ」

 ……いいか、続けるぞ?



 ◇



 二枚とも片面にはツカサの本名とご近所までの住所、そして家の電話番号が書かれており、裏には家族写真を切り取ったものともう一枚。

 「あ、まだ貼っててくれてるんだ♪」

 「そうだよ、宝物だもん」

 今の三國の嬉しそうな顔を、少しだけ幼くしたものがその写真の中にいる。それはツカサとカレンと三國の三人が写った、カレンの入学式の帰りに撮ったプリクラ。「これも記念だから」と、あの狭いブースに連れ込まれて嫌々撮った物なのだが、今では大切な思い出のひとつ。

 「ちゃんと三人で分けたじゃん。まさか無くしたの?」

 「いやいや、ちゃんとあるってば。欲しいのはそのドックタグよ」

 疑う視線を向けるツカサに対し、三國は心外そうな面持ちで己の首元からロケットペンダントを取り出す。

 彼女もまたロケットペンダントをふたつ付けており、ツカサと同じように家族写真とプリクラがそれぞれ入っているようだった。


 その後もあーだこーだと言い争うが割愛するとして、要するに、

 「交換しましょ♪」

 という話であった。

 「……仕方ないなぁ」

 と、ツカサはこれを応じる。というか、この頃から三國はどうも大人びた言葉を話す事が多くなり、ツカサは毎回の如く言いくるめられるのだ。

 今回もその結果である。


 「大事にしてよね……」

 ツカサは己のキーケースからドックタグを一枚取り外し、手のひらに乗せて三國へと差し出す。が、彼女はなんとなく御立腹の様子で、珍しく膨れっ面を晒していた。

 「……? どうしたの、いらないの?」

 ツカサにはその表情への対応が分からない為、困惑する他ない。

 欲しいと言っておいていざ目の前に差し出されると怒るとか、まだまだ子供でありピュアな男の子であるツカサには女心というものが理解できないのだ。



 ◇



 「今でも全然分かってませんよね?」

 「歌恋、追い討ちやめよ?」

 いい加減泣くぞ? いいのか? 成人男性が泣くとこ見たいか?

 「それはそれで面白いから是非見せろ」

 ミク、お前はだーってろ。



 ◇



 「つけて」

 三國は膨れっ面のままネックレスをはずしてツカサへと手渡すと、己はぐるりと背を向け、両手で髪をまとめ上げた。

 「……まぁ、いいけど」

 ツカサはネックレスからロケットをひとつ取り外し、代わりに自分のドックタグをチェーンへと通す。

 「──で、引っ越す理由だったよねぇ」

 ツカサが付け慣れないネックレスに悪戦苦闘している最中、三國がゆっくりと語り出す。



 ◇



 「よーやく本題ですか。この前置き必要でしたか、兄さん?」

 「あー! 歌恋、シー! それ言っちゃうと……!」


 そこから数分間、兄妹の口喧嘩がヒートアップし話は中断となったのだった。

 キリのいいところがここかなぁっとなったので。


 青春っぽい話になり掛けてますが、この話をしている最中の三國はパフェを頬張っていたりしているので色気はないです。

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