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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ジャスティス白井の反乱、決着 その1

 機械天使の沈黙をもって、札幌近海におけるダークエルダー&ヒーロー連合対、ジャスティス白井&悪の組織連合の戦闘が終了した。

 機械天使(バーバリアン)はパイロットであるフリースタイル三日月ごと鹵獲し、巨大浮遊戦艦(オルガノート)は高高度で自爆を行ったの観測。乗員はほぼ全員、ミカヅチが確保したらしい。

 ただひとり、ライドー武本と呼ばれた少年だけは追っ手を振り切って未だに逃亡中らしいのだが、そちらは専門部隊が対処を行っているそうだ。

 軍用犬まで連れ出したらしいので、捕まるのも時間の問題だろう。


 また、その一時間強の後に全国で起きていた反乱は全て沈静化され、ジャスティス白井の幹部ほぼ全てがダークエルダーによって確保された事もあり、事件は一旦の終息を迎える事になる。

 占い師モルガンのおかげで初動の対応が間に合った事もあって、全国での民間人並びに戦闘従事者の死亡者はゼロ。

 重傷者3名、軽傷者凡そ1万名、行方不明者6名(内4名がジャスティス白井構成員)という犠牲を出しつつも、反乱の規模の割には少数の犠牲で済んだと、ニュース特番で有識者を名乗る偉そうな小太りのおっさんが話している。


 「ふぁぁ~……」

 そんなニュースばかりを垂れ流すテレビを眺めながら、ツカサはあくび混じりの溜息ひとつ。テレビのリモコンを持って他の局を次々と映すも、どこもかしこも同じようなニュース番組ばかり。普段は滅多な事では特番を組まない局すらも同じニュースを取り上げている以上、誰もがその()()()()が起こったという認識なのだろう。

 だが渦中に居たものとしては、ニュースの小出し情報なんて今更が過ぎる。だったらまだアニメを流してくれた方がいいのにと思いつつ、ツカサは諦めてテレビの電源を切った。


 「これでダークエルダーの活躍には一切触れずに、ヒーローわっしょいの方向へ持っていくのだから、ウチの報道部の台本屋はいい仕事してるよな。……なぁ、そう思うだろ?」

 ツカサがちゃぶ台越しにそう問い掛ける先には3人の女性達。彼女らはそれぞれ座布団に座りながら、

 「このお茶渋くないか? 何茶?」

 「あ、それ梅と桜とミントのブレンドですよ。昨日気になったので買いました」

 「雑多な味だねぇ。……でも美味しい。ボクは割と好きだよこれ」

 と、完全に寛いでツカサの事は無視していた。


 「話を聞いておくれよ!」

 そうツカサが嘆きながらちゃぶ台に突っ伏すると、ようやく3人はツカサの方を見て、揃ってジト目となりツカサを睨む。

 「君がとりあえず寛いでくれよと言うから寛いでやってるんだぞ、ツカサ。用件があるなら早く話せ」

 そう言って渋い顔をしながらお茶を飲んでいるのは、トレードマークの白衣を脱いだ三國 久美。彼女は生徒の前であるにも関わらず、ちゃぶ台に肘を付けて胡座なぞかいている。

 「せっかく狭いシェルターから出られたと思ったら、また狭い部屋に隔離だなんて。兄さんは鬼畜か何かですか?」

 三國に追随するようにツカサを責めるカレンは、急須に残った出涸らしの茶葉を捨てる為に給湯室へと移動し、今度は『レモンとアロエと他数種類のミックスベジタブルティー』なんていう謎の茶袋を手に持っている。


 そして最後のひとりは、

 「……いやー、この場違い感辛いなぁ」

 なんて、冷や汗をかきつつ正座で座る少女。

 土浦 楓であった。

 どうしてこんな面子でちゃぶ台なんぞを囲っているのかと言えば、それはツカサ達が機械天使に勝利し、地上へと降り立った後の話となる。



 ◇



 「──えぇっ!!? ミクがカレン達の担任で俺とカレンの正体を土浦さんにバラした上に悪びれもせず、堂々とカウンセリングという名目でふたりをクラスメイト達から引き剥がして、対立関係なのを承知で疲れ切っている俺の前に連れてきたのかい!?」

 ツカサの三行半にも渡るツッコミの通り、三國は反乱が収まるや否やカレンと土浦 楓をシェルターから連れ出し、わざわざダークエルダー札幌支部の近所にある喫茶店で休憩(糖分補給)をしていたツカサの前へと現れたのだった。

 そしてカレンがツカサに状況の説明をし、上記のツッコミへと至る。

 ノアは機械天使の検分をしたいと言ってラミィ・エーミルを連れて支部の格納庫へと籠ったし、カゲトラは業務が終わった途端に「ちょっと電話してくる」とだけ言っていなくなってしばらく経つ。

 たったひとり残されたツカサは、たまには良いだろうと頑張った自分へのご褒美として高級そうな抹茶プリンを味わっていたというのに、今の話の衝撃でもはや味が分からなくなってしまった。


 「説明ご苦労。土浦(この子)がアンタら兄妹と争いたくないって言うもんだから、私が手間を減らしてあげたのさ。手間賃代わりになんか奢れ。紅茶とスコーンとデカ盛りパフェでいいぞ」

 「土浦さんを口実にしてタカりにきただけじゃねーか!」

 「いいじゃないか。金なら余っているんだろう?」

 「余りゃせんわ! 相変わらず地獄耳してんなお前ェ!」

 「そりゃあ、アンタに関する情報は逐一ノア様から購入しているからね。詳しくもなるさ」

 「ノアもグルかよぉぉぉ!」

 ギャーギャーと騒ぎ立てるツカサに、喫茶店の店員達は迷惑そうに眉を顰めているが、先の事件のせいで今はツカサ達しか客もいない為黙認してくれる様子。

 実際はこの喫茶店もダークエルダーの直営店なので、幹部となったツカサには強く出られないという理由もあるのだが、それはそれとして。


 「……あれ? そういえば兄さん、三國先生とは知り合いでしたか? 兄さんが女性を愛称で呼ぶなんて相当珍しい気がしますが」

 ここでふと、カレンが疑問を覚え首を傾げる。普段のツカサなら女性に対してはよそよそしい態度しかとれないはずだが、今の会話を聞く限りは親しい関係に聞こえる、と。

 その疑問に対し、ツカサと三國は揃って「ああ……」と声を洩らし、

 「私とコイツ(ツカサ)、幼馴染で同級生なんだ」

 「カレンもちっちゃい頃によく遊んでもらってたはずだが。いつもミクちゃんミクちゃんって呼んでたの、コイツだぞ」

 と、互いを指さして言った。

 「………えぇぇぇぇええ!?」

 カレンが驚くのも無理はない。ツカサ達が小学生の頃まではカレンを含めて三人一緒に遊び回っていたのだが、小学校卒業と同時期に三國は家庭の事情とやらで引っ越してしまった。

 引っ越し当日にカレンは一日中泣き喚いて部屋から出てこなかった位なのだが、長い年月で記憶も風化したのだろう。ツカサですら近状を聞いていなかったから今この瞬間の再会に驚いたし、まさか教師と生徒として再会するとは思ってもいなかったに違いない。


 「割と寂しかったぞ? 子供の頃散々相手してあげた子が私の事をすっかり忘れていたのだから」

 「そ、それは……その。えっと……ごめんなさい………」

 「ま、気にしてないけどね。私も中学から急激に背が伸びたタチだから、同窓会でも仲のいい人誰も分かってくれなかったし」

 会話をするふたりの傍で、手持ち無沙汰に佇む土浦。会話に入れず、ツカサにもどう話していいか分からない様子の彼女はとりあえず壁に徹する事にしたらしいが、元々目立つほどの美少女な為に存在感を隠しきれないでいる。

 「………とりあえず、ここではなんだから支部の方で一室借りる事にするわ。話しづらい内容もあるだろうし」

 ツカサとしては気を使ったつもりなのだが、三國とカレンはその言葉にさっと振り返り、机にあったメニューを開いて、


 「すいません、持ち帰りでダージリンを三人分とスコーンとイチゴジャム、それとこのマカロンボックスをお願いできますか。あ、会計はこの男に付けてください」

 「あ、あとこの茶葉とコレとコレとコレ、それとコレも持ち帰りでお願いします」

 なんて早口で注文を始めた。

 「……もう好きにしてくれ」

 そうツカサが顔を覆う様子と、土浦の「たはは……」という困った声は、ふたりの耳には届いていないらしい。



 ◇



 という経緯をもって、現在四人はダークエルダー札幌支部の一室を借り、ちゃぶ台を囲んでいるワケなのだが。

 「──まずは何から話していいのか、さっぱり分からん!」

 そうツカサが叫ぶ通り、この場には立場も知っている情報も関係性も何もかも違う四人が揃っている為、情報の整理が非常に困難なのである。

 ヒーローである土浦を支部に入れても平気なのかという不安もあったが、もはやこの際だ、どうとでもなーれというのがツカサの心境。

 あまりの話の進まなさに、四人は揃ってためいきをついた。

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