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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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熱戦! ジャスティス白井の双奏天使 その5

 「んちゃ♡」

 一度は死んだように見せ掛けたラミィ・エーミル。

 そもそも彼女は精霊であり、肉体を構成しているものも生物とは異なる為、死の意味合いはまた変わってくるのだが今は置いておくとして。

 「い、イサド……!?」

 今大事なのは、咄嗟の場面でアームストロング五花の動きが鈍ったというその一点。

 わざわざミニスカメイド服へと着替えた(?)彼女が考えた作戦とはとてもシンプルかつ大胆なもの。そしてそれを成功させるにはどうしても、ミニスカメイド服ではないとイケナイのだと彼女が豪語したのだ。

 ミカヅチにはちょっと分からない領域の話ではあったが、それはともかく。

 彼女は動きの止まったアームストロング五花の目の前で跳躍し、真正面から彼の顔を太ももで挟み込むと、

 「──ふっ!」

 己の背を軸に、アームストロング五花ごとぐるりと縦回転を行った。


 変形型のフランケンシュタイナー。有翼種のみに扱えるその技は後に『妖精(フェアリィ)堕とし(フォールダウン)』と呼ばれ、とある界隈に激震が走ることになるのだが、それはまた後の話。

 咄嗟の事で身動きの取れなかったアームストロング五花は、身体を硬直させたまま背中からリングに向けて落下し、その先に待ち構えていたミカヅチの膝へと突き刺さった。

 「──ぐっ……はァ゛ァ゛ッ……!?」

 ただでさえ酸素が正しく行き届いていないところに、背面から肺を強打するような一撃。当然、肺に残っていた空気は全て吐き出す結果となり、圧迫された肺が次の酸素を欲するも、

 「ダメですよぉ。今日はもう、これでおねんねです~」

 そう言って、未だにアームストロング五花の顔に覆いかぶさっているラミィ・エーミルが呼吸を許そうとはしなかった。


 「もご、もごごごごごっ!??」

 「んんっ!? もう、パパったら、動いちゃダメですよぉ……」

 ミニスカートの下でどのような攻防が行われているのか、ミカヅチには視認できないが。両腕を捕え、両脚を尾で縛り付けたアームストロング五花の抵抗は徐々に大人しくなってはいる。

 いくら変な能力に目覚めていようと、基礎がきちんと人間ならば呼吸は必須。ならば呼吸をさせないようにして気絶させてしまおうという作戦を立案したのはラミィ・エーミルだ。

 アームストロング五花は己の教育係であり、一番身近な人物だったはずだが、それをあっさりと切り捨てられるのはノアへの忠誠故なのか分からない。

 だけれども、先程まであの八面体(オルガノート)の動作を担当していたと聞いた後ならば、道理で手強いはずだと納得できる部分もあって。


 「──改めてになるが、これから宜しくな。ラミィ・エーミルちゃん」

 「……ええ、宜しくお願い致しますねぇ」

 ミカヅチは改めて、この子が味方になってくれた事を心強く思うことにした。

 「……………っ! ……………………」

 “あ、カゲトラ。コイツ気絶したっぽいよ。早く離さないと死んじゃうんじゃない?”

 「「おっと」」

 ラミィ・エーミルと声をハモらせ、ミカヅチは慌ててアームストロング五花を退けてやると。アームストロング五花は苦悶の表情を浮かべたまま、だけれどもどこか満ち足りたような雰囲気を漂わせて気絶していた。

 「きちんと決着を付けてやりたかったが、悪く思うなよ」

 ミカヅチは手早く縄でアームストロング五花の手足と翼を縛り付けて肩に担ぐと、ココに用はないと言わんばかりに即座に地上へ向けて飛び降りる。


 向かう先は札幌。そこのダークエルダー支部にアームストロング五花を預け、ミカヅチは今度はオルガノートから脱出したメンバーを探して捕縛しなければならない。

 自由に飛行・離着陸が可能で小回りの効く小型ユニットとして考えれば、黒雷やミカヅチは最上の存在。

 事件が解決するまで休んでいる暇などないのだ。

 「では私は、ノア様のサポートに回りますねぇ」

 「おう、ありがとうな!」

 アームストロング五花を倒した以上、ラミィ・エーミルの援護もこれまで。彼女はまた小さな光の珠となり、ふよふよと宙を舞いながらダークギア・ソルジャー・ドラゴンの下へと飛んで行った。

 “いい後輩ができたわ!”

 「まったくだな」

 いくつか不思議な点はあるものの、あの子が黒雷(相棒)と大精霊ノアから生み出された物だと言われたらなんとなく納得できてしまうのは、あのコンビに毒されたと思うべきか。


 「……早く帰ってこいよ、相棒」

 ミカヅチはその一言を風に流し、己の役目を果たすべく翼を大きく羽ばたかせる。

 きっと、今夜のビールは今までの人生の中で一番美味いものになるだろうと、そんな確信めいた思考を持って。

 騒乱に呑まれたはずの大地は既に、少しずつだが静けさを取り戻しつつあるようだった。



 ◇



 何故、とフリースタイル三日月は虚空に問う。

 中身の入れ替わったあの竜が強いのは分かった。

 自身の乗ったバーバリアンでは太刀打ちできないことも、なんとなくだが理解した。

 だが、何故。

 「なんでトドメを刺そうとしない……?」

 それがフリースタイル三日月の疑問。

 ()()()()、どんな一撃を受けてもこちらの敗北は決まるというのに、いつまで経ってもソレが来ない。

 先程から行われているのは、見掛けだけのポジション争いと一方的な殴打。


 もちろん殴っているのはコチラで、なんて事ないように受け流しているのが竜の側だ。

 本来ならば必要のないはずの引き伸ばし。それが機械天使と竜の間で発生している。

 「……意味分かんない」

 フリースタイル三日月の目的はオルガノートに残された船員の脱出を援護する事。最大の敵であるこの竜の足止めさえできるならば文句はないのだが、その作戦に相手が意図的にハマってくれている、というのがどうも解せない。

 日本最大の悪の組織、ダークエルダー。その幹部ともあろう相手が、何の罠も作戦もなく無駄な行動をするはずがない。


 「……何かを待っている?」

 いや、それもどうだろうか。待つという行為ならば決着を付けた後でも出来ることだ。わざわざバーバリアンとの空中戦を長引かせる理由はないはずだし、互いに機体の動作を維持する為にそれ相応のエネルギーが必要となっているはず。

 無尽蔵のエネルギーなんて物が存在しない以上、無駄な行為でしかないハズだが……。

 「はぁ……。もういいや、考えるの面倒だし」

 どんな理由かは知らないが、手を抜いてくれているならば噛み付いてやればいいのだ。

 武器は失い、格闘戦も劣勢だが。それでもまだ、打てる手は残っているのだから。


 「そろそろ目ェ、醒めたかよバーバリアン」


 フリースタイル三日月の声に応じるように、機械天使のカメラアイが赫い燐光を湛える。


 そして、


 『ルォォォォォォォォォォ……!!』


 天使が鳴いた。

 ツカサ:やべぇめっちゃ詰められてる……。壊さないように戦えって無茶だろオイ。とりあえず引き延ばすか……。逃げも特攻もしないでくれるのありがてぇ~。


 フリースタイル三日月:なんでトドメをささないんだ。何か特殊な事情でもあるのか。天使信仰か何かか? とりあえず皆の逃げる時間は作れそうで助かるけど。


 っていう食い違い。

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