対オルガノート戦線 その3
「が、合体だってぇぇぇ!?」
と、とりあえず驚いてみたものの、ミカヅチは納得がいったように腕を組む。
実際に飛行可能な飛竜を模した衣裳は現状、黒雷とミカヅチのみだったはず。ならば一度に五機も増えるワケはないので、あれはいつものビックリなドッキリするメカに違いない、と。
『こんな事もあろうかと急ピッチで開発を進めていた新兵器じゃ。ぶっつけ本番なのはいつもの事と割り切っとくれい。……もうこの際じゃ、細かい説明も省くでな』
カシワギ博士は弾むような声でそう宣うと、大きく息を吸い……。
『雷瞳ミカヅチよ、今こそ新たなるチカラを使い、未来へ臨むのじゃ! ──叫べ、【竜装合身】!!』
カシワギ博士がノリノリで合言葉を口にすると、五機の機竜達は弾けるように方向を変え、弧を描くようにミカヅチへと殺到する。
……このまま合体ではいけないのかと思いつつも、流石にここは男の子の浪漫。やらねばならないのだろうし、やらねば男が廃るというものだ。
「やれるか、ミソラ」
“まっかせて! あれに関してもインストール済よ!”
己と同化している精霊も気合十分。
ならば、ミカヅチもまたひとつ深呼吸を挟み、
「竜装合身──!!」
吼えた。
◇
まず最初に、中型の機竜が来た。
名を【ダークギア・コアドラゴン】。その機竜はミカヅチの叫びに応じるように大きく顎を開くと、空中で姿勢を丸めたミカヅチを丸呑みする。
敵対行為ではなく、これがこの機竜への搭乗方法なのだ。
内部は狭いながらもコックピットとなっており、ミカヅチはミソラに導かれるままに四肢を円筒状の操縦桿へと突き刺す。
操縦桿はミカヅチの身体を固定し、同時にミソラはミカヅチの脳内から発せられる電気信号を種類分けし、機竜へとダイレクトに接続させる役割を担う。
これでこの【ダークギア・コアドラゴン】はミカヅチと合一化し、自身の身体と同等の感覚で操作が可能となるのだ。
『集いし竜が、闇夜を導く邪悪なる福音となる!』
カシワギ博士の声が通信越しに辺りへと響き渡り、同時に【ダークギア・コアドラゴン】を含めた五機の機竜が空中でそれぞれ変形を開始する。
【ダークギア・ドリルドラゴン】は右腕に。
【ダークギア・パイルドラゴン】は左腕に。
【ダークギア・タンクドラゴン】は両脚に。
【ダークギア・ウィングドラゴン】は飛翔翼と頭部に。
それらは【ダークギア・コアドラゴン】を中心に集まり、そして。
『驕った正義を打ち破る槌となれ!』
その声と同時、全てが合致した。
それは、竜を模した人型の合体ロボット。
コストを抑えるべく、普段は個別に運用する事を前提に設計され、合体時には精霊のチカラを以てようやく稼働するという、竜型兵器達の最終フォーム。
『さぁ叫べ! 汝の名は──』
カシワギ博士の口上に乗り、ミカヅチは大見得を切る。
そう、我が名は。
「合一邪竜! ダークギア・ソルジャー・ドラゴォォォン!!」
今ここに、正義を打ち砕く為の悪竜が爆誕した。
◇
「くっそ、何がどうなってやがる!?」
二機の戦闘機による爆撃の後。あまりの衝撃にあらゆる計器が誤作動防止の為に次々と再起動をかける中で、アームストロング五花はあまりの状況の切替の早さに辟易しつつも、どうにか理解しようと眼前のモニターを睨んでいた。
簡単に状況を整理するならば、
・爆撃によりオルガノート上部の一面が破壊された。
・黒雷が艦内に侵入し、迎撃に出たほとんどの者は彼を見失うか報告が絶たれている。最後の報告が“イサド”による警告の一文のみ。
・外ではワイバーンが竜と合体して変形合体ドラゴンとなった。
・食客であった少女が行方不明。
・被害報告ばかりで戦果はゼロ。
というのが現状である。
「意味が分からんし納得できるかこんなもんッ!!」
怒りに任せて傍に居たライドー武本の頬を叩くが、彼は硬質化の能力者の為アームストロング五花が手首を痛めただけの結果で終わった。
「団長! 何殴ってんだよ団長!」
ライドー武本がナチュラルに煽ってくるが、今はそれに構っているような時ではない。
「誰か、他の艦から連絡を受けた奴はいるか?」
アームストロング五花はなんだか嫌な予感がして、オペレーター達へと問い掛ける。
この作戦は全国同時蜂起が肝であり、例え何隻かは撃墜されようとも一隻でも街に根を張る事が出来れば凡そ成功と言えるのだが。
「それが……」
オペレーター達の誰もが言い淀むという事は、つまりそういう事なのだろう。
ありとあらゆるヒーローも怪人も排除した理想の世界。それを目指したジャスティス白井の正義は、今まさにそのほとんどが散ったのだ。
この艦も時間の問題である。
「………総員、脱出しろ」
アームストロング五花は振り絞るような声で、搭乗員達に告げる。
もはやこのオルガノートは内外から食い荒らされる標的でしかなく、“イサド”も先程から沈黙を続けているという事は破壊された可能性が高い。搭載された兵器群のほとんどは潰され、主砲すら謎のエラーで使用できないとあっては、もはやオルガノートは空を飛ぶだけの鉄塊に過ぎない。
人さえ残れば再起は可能なのだから、諸共墜とされるワケにはいかないのだ。
「……だ、団長はっ! どうするんですか!?」
ライドー武本が何かを悟ったように尋ねてくるが、悟っているならば話は早い。
アームストロング五花は個人のロッカーを開け、中から特注のライフルと小箱を取り出す。
「俺とコイツがヤツらの相手をする。……流石に、見栄くらい張らねぇとな」
アームストロング五花は苦笑しながら、小箱をオペレータールームの端で眠っている人物へと放り投げ、
「お前の出番だぜ、ミカ」
小箱を受け取った人物……少年はボサボサの髪を掻きつつ起き上がって辺りを見回すと、モニターに映るドラゴンロボットを見やり。
「俺はアレを殺ればいいの」
のんびり欠伸を噛み殺しながら、そう問うた。
シン〇ロ召喚! 現れよ!
みたいなノリです。