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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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対オルガノート戦線 その2

 苦戦を強いられるミカヅチの救援に駆けつけたるは、五つの光と二機の戦闘機。光の方は隊列を崩さぬように放物線を描きながら飛翔するのに対し、戦闘機は互いに競い合うようにして前へと行く。


 《ブラボー2、的はデカいぞ。外すなよ》

 《なっ……! テメェ、誰に向かって言ってるんだ!?》

 《口の悪い僚機に対してだ。この会話はログにも残るんだからいい加減敬語くらい使えるようになれ》

 《うるせぇブラボー1!! オレ様はエースだからいいんだよっ!》

 《はっ! ヒヨっ子が最上(エース)だと? お前がエースなら他の隊員は何だ? 全員が切札(ジョーカー)か? ファイブカードばかりで賭けにもならんな》

 《上ォ等ォだブラボー1! この角砂糖を砕いたら今度はテメェを撃ち落としてやるっ!》

 《はははははっ! 『弾切れジョニー』のお前が俺用に弾を残せるのか!? 懐に偲ばせた拳銃程度じゃ戦闘機は墜とせないんだぜ?》

 《言ってろクソハゲ!》


 二機の言い争いはより過激になっていくが、操縦には何の淀みもないのが逆に凄い。

 八面体の周囲を旋回飛行しながらも、対空砲火の隙間を縫うように飛んで行くのだ。

 そして一瞬の隙をついて機首を八面体へと向け、

 《これでも!》《喰らえ!》

 ほぼ同時に、搭載していた無誘導爆弾をぶち当てた。

 二発の爆弾は正確に再装填中の対空砲の砲身へとめり込み、内部よりそれを炸裂させる。

 瞬間、雷撃の如き爆音が空間を揺らし、空気が張り裂けたような衝撃がミカヅチを襲った。無論、少し離れた場所にいたので姿勢が少々崩れた程度で済んだのだが、あまりの火力にしっかり度肝は抜かれてしまった。

 いくら未知の戦艦相手とはいえ、本気が過ぎる。


 『──ちょっと! 今の爆弾は当てる前に一言くらい言って欲しかった! 三歩手前だったら巻き添え喰らってたぞ!?』

 驚いたのは中にいる黒雷も同じだったようで、先程からミカヅチ達が使っているチャンネルに抗議の怒声が響く。

 ……今思えば、ミカヅチと回線を繋げられるという事はつまり、あの戦闘機のパイロットはダークエルダーの関係者である可能性が高いという事だ。ならば爆弾の過剰な威力も腑に落ちる。

 いや、腑に落ちたからと言って引く事に変わりはないのだが。


 《なんだ、既に潜入している者がいたのか。運が良かったな》

 ブラボー1の言う通り、黒雷達は運が良かった。

 先程の爆発で八面体の内の一面が完全に消し飛び、断面が灼熱化して今なお溶け続けているのを見るに、威力だけを見れば戦隊ロボットの必殺技に匹敵するかもしれない。それをいくら怪人スーツを着用しているとはいえ、等身大のまま受けたらどうなっていたかは未知数だ。

 骨すら残らない可能性もある。

 『とにかく、今のと同じのはしばらく禁止してくれ! ウチのお嬢様の言うお宝ってのが見つかる前に吹き飛ばすとマズイからな!』

 お嬢様というのはノアの事だろうか。

 相変わらず黒雷は、相棒のノアに頭が上がらないようだ。


 「俺達の関係は、もっとフラットにいきたいものだな」

 “あら、アタシの事も敬っていいのよ? 生活の面倒と毎日三食の食事、デザート付きでチカラを貸してあげるわ!”

 「ほう、案外悪くない条件だな……?」

 今後はミソラの契約者として、ミカヅチもまた黒雷と並ぶ精霊使いとなる。黒雷がどのような条件でノアとの契約に臨んだのかは知らないが、ミソラはそれでいいと言っているならばそれに準ずるまでだ。

 思ったよりも安上がりになりそうで逆に申し訳なくなりそうである。


 《……おい、ワイバーン。聴こえているか?》

 八面体からの反撃がなくなり、平然と雑談していた所。不意にブラボー2から声が届く。

 『おっとすまない。ぼーっとしていた。何かあるか?』

 ミカヅチの声に、ブラボー2は呆れたように嘆息し、

 《何かあるかじゃねぇよ。……爆弾が縛られた以上、俺達は時間稼ぎに徹する。だからアンタはさっさと》

 一息。

 《あの竜達と合体しやがれ》

 その声と共に、戦場に到着したのは先程の五つの光。

 中型の飛行体が一機と、それを囲むように飛ぶ四機の小型飛行体。

 いずれも形は違うが、全て竜を模して作られた物のようだ。


 『……さてさて、そろそろワシから説明していいかね?』

 ようやく出番が回ってきたと、咳払いしつつ通信を送ってくるは年老いたような喋り方をする幼女。

 カシワギ博士であった。



 ◇



 場面は変わり、爆弾を投下された後のオルガノートの内部。

 黒雷はもはや時間も無いだろうということで道順に進むのをやめ、ノアの指す方向へ文字通り真っ直ぐに突き進んでいた。

 どうせ鹵獲しないのならと、壁も天井も床も関係なく物理で殴って突破しだしたのである。

 幸い壁は脆いというか、防災シャッターや鉄筋程度なら黒雷のパワーでゴリ押しが効いてしまうのだ。途中で良さげな物があれば回収し、敵がいれば先手必勝で電撃を放ち気絶させる。

 気絶した者を放っておくのは少し心苦しいが、味方に回収される事を祈るしかない。最悪は八面体撃墜前に拾い集める事になるが、今は急ぎで前へ進まねばならないのだ。


 “ようやく反応を捉えたわ。このサーバールームだけ個別の発電機を使ってるから、怪しいと思ってたのよ”

 ノアの反応を頼りに、黒雷は彼女の示した部屋の扉の前へとたどり着いた。

 その扉は黄と黒の斜線で塗装され部外者立ち入り禁止となっており、電子的にも物理的にも強固なロックを掛けている様子。

 「派手に壊していい?」

 “ダメに決まっているでしょう。──丁寧に壊しなさい”

 彼女の言いつけ通りに、黒雷は扉を丁寧に壊すべく指先に雷刃を纏わせた。

 いくら頑丈で分厚い扉とはいえ、所詮は金属。溶断してしまえば多重ロックだろうとなんだろうと関係ないのである。


 たっぷり数十秒をかけて丁寧に扉を切り取り、敵の足止めも兼ねて通路のど真ん中へとぶっ刺しておく。

 ひと仕事終えたように手の平を叩きながら元・扉をくぐり抜けた先にあったのは……。

 【警告:ここは部外者の立ち入りが禁止されているエリアです。即刻立ち去りなさい】

 そんな合成音声と共に、ノータイムで効きもしない豆鉄砲を掃射してきたナニモノか。

 “ふふん、いいじゃない。人工物でありながら、自律思考を持った存在。AIなんて呼ばれた、電子の織り成す完成系に近いモノ”

 それは、八面体の内部にありながら広大な部屋面積を誇るサーバールームに鎮座した心臓部。


 人工知能を内蔵した、巨大なマザーコンピュータであった。

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