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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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オルガノート艦内戦 ~インク・マルクトの視点~

 箸休めみたいな別視点回です。

 書いてて「特に本編進まなくね?」とも思いましたが、まぁ箸休めという事でご容赦ください。

 ──インク・マルクトは勇者である。

 かつてこの地球とは異なる世界【パンデミオン】にて、強大なる魔王と呼ばれた【飛竜王ジョナンス】との決戦に挑んだ者だ。


 ──インク・マルクトは魔術師である。

 飛竜王に単独で挑み、瀕死の重症を負った彼女は、その場に異界の門を創造して飛竜王を道連れに門へと飛び込んだのだ。


 ──インク・マルクトは豪運である。

 永遠に時の狭間に迷う可能性すらあった門の先で、彼女は運良く地球へと流れ着いた。


 ──インク・マルクトはジャスティス白井の食客である。

 打ち捨てられた己を拾って、この世界の知識を授けてくれ、治療や衣食住を恵んでくれた優しき彼らの志に共感し、彼らの剣となる事を選んだ。



 そして私はここに居る。

 おるがのうと? という謎の乗り物へと同乗し、国に巣食うという悪の組織を打倒する為、私は決戦の時を待ち望んでいたのだ。

 「そこまでよ!」

 私は個室での待機を命じられていたが、危機的状況になって居ても立ってもいられずに部屋を飛び出し、こうして彼の前へと参上した。

 暗闇の中に立つ、黒き人とも竜とも区別が難しい何者か。

 そんな彼に、私は見覚えがあった。

 「──っ! やはり、貴様も生きていたのか、ジョナンス!!」

 私は叫ぶと、己の得物たるポールアックスを構える。

 己が生きてこの世界に流れ着いたのだから、ジョナンスもきっとそうなのだと、自身の中で妙な確信があったのだ。

 そして今、怨敵が目の前にいるという事実を突きつけられた。


 【飛竜王ジョナンス】。決して生かしてはならぬ相手。人類の天敵。

 一度は不覚を取ったが、今度こそは。

 脳漿をぶち撒けさせ、腹綿を引き抜き、心臓を瓶詰めにした上で五体を骨と皮と肉へと分けてやるのだ。

 それを彼が今まで殺してきた人々の家族へと分け与え、生活の糧とする。それが極悪非道を極めた飛竜王へと天罰になると、私は信じている。

 だから、

 「死にさらせぇぇぇええええっ!!」

 私は振り上げたポールアックスを、なりふり構わずに叩き付けた。



 ◇



 初撃を紙一重で避けられた後、私とジョナンスは艦内を駆け回りながら剣戟を交わし続けている。

 明かりが全て消え、日光すら差さない室内の中。

 私は微かな非常灯の光と、小さな光源を自身の周囲に浮かべる魔術によって視界を確保し、ジョナンスへと迫った。

 「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁっ!!」

 魔術によって強化した膂力により、私は得物たるポールアックスを一般人の扱う小剣よりも軽々と振るう事ができる。この世界の鉄と打ち合おうとも刃こぼれひとつしない自慢の逸品は、手すりや壁を難なく切り裂いてジョナンスを追い詰めていた。

 しかし、ジョナンスとて剛の者。その皮膚は万物によって傷つかず、その爪はあらゆる防御を紙のように切り裂く。

 かつての世界での戦闘でさえ、数時間に及ぶ激闘の末にようやく幾ばくかの傷を与えたに過ぎなかった。それほどまでに強大な相手だったはずなのだが。


 「──どうした、ジョナンスっ! 異界に流れ着いてから身体が別物にでもなったのか!? まるで()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 私は嗤う。

 前の戦闘の際にはコチラの攻撃を避けようとすらしなかったあのジョナンスが、私の攻撃を怖がるようにして後ろへと下がっていくのだ。

 もしかしたらジョナンスは、この世界へと降り立った際に何かしらの要因で弱体化したのではないか。ならば、私にも勝機はある。

 これこそが不幸中に幸いと言うのかもしれない。


 異界に送り付け、相打ちを狙ったのまではよかった。しかし、その異界にも人の文明が存在し、あまつさえ【パンデミオン】とは異なる進歩を辿った科学というモノが発展した世界があったのは誤算だった。

 こちらの世界は、【パンデミオン】に比べて一般人と呼ばれる市民層は皆非力だったのだ。数はやたらと多いが、それはつまりこの世界には天敵となる者が少なかっただけとも取れる。

 そんな世界に、飛竜王なんて厄災を送り込んでしまったのをずっと後悔していたのだ。


 だが、それも今この場で全て終わらせることができる。

 私がコヤツに打ち勝ち、殺してしまえばそれで済むのだから。

 それが終われば、この世界の悪という悪を焼き付くそう。

 贖罪が済めば、私もまたこの地に骨を埋めよう。

 だから、だから、だから──っ!

 「死ねぇぇぇぇっ! 飛竜王ジョナンスゥゥゥゥゥゥウウウ!!」

 体内の魔力を全て燃料とし、爆発させた最後の強化魔術。

 この攻撃が唯一、前回のジョナンス戦で有効打だった。

 ならば今なら殺し切れるはず。


 「だから……」

 私はポールアックスにその魔術を掛け、その刀身を倍以上のサイズへと巨大化させる。もっともそれは、溢れ出た魔力がポールアックスの形を象っただけの一時的な物に過ぎないが、火力は十二分にある。

 振りかぶった際に周囲の物がバターのように裂け、切り落とされていくが、ジョナンスさえ仕留めればお釣りがくるので後で彼らには謝ろう。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁっ!!」

 全力で振ったポールアックス。それは狙い違わずジョナンスを捉え、真っ二つにする死神の鎌と成ったはずだ。


 ……そんな時に、気が緩んだのだろうか。


 「だからジョナンスって誰の事なんだよォ!?」

 叫んだジョナンスがコチラの懐に入り込み、私の腹部へとその拳が叩き込まれるその瞬間を、私は知覚する事すら叶わなかった。

 「──ぁっ」

 全身に痺れるような痛みが走り、神経が焼き切れるような妙な感覚が襲う。

 胃の中から何かが込み上げてくるその感覚すら曖昧となり、そして。

 「……ジョ、ナ………」

 私はその瞬間を最後に、意識を手放した。

 Q:飛竜王ジョナンスって誰?


 A:秩父突入時、最初に出会った飛竜くん。彼の肉が一番引き締まってて美味しかったらしい。


 Q:滅茶苦茶強かったんじゃないの?


 A:瀧宮 帝とかいう作中のジョーカー的存在が敵でさえなければ、或いはプリンセスとの大怪獣バトルを繰り広げた可能性があった。


 Q:この回いる?


 A:一応次回作のシナリオフックみたいな感じで先行登場させたつもり。次回作を書き出す頃には忘れているかもしれない。

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