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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ジャスティス白井の本気 その5

 浮遊戦艦が電磁障壁なんて小賢しいものを張って時間稼ぎをしようとしていたので、黒雷は躊躇なくソレへと張り付いた。

 バチィッという音と共に全身に電流が走った気もするが、電流であるならば黒雷……というよりはノアのご飯である。

 “あら、なかなかいい発電機積んでいるじゃない。でもこの量なら多分きっと16秒くらいね”

 特に根拠のある数値を言うワケでもなく、黒雷と一体化しているノアは黙々と障壁から電力を吸収していく。

 その間黒雷本人は暇なので、両手の指を立て扉をこじ開けるようなポーズをし、A〇フィー〇ド突破ごっこをしていたのだが、ふとこれが戦艦側からはどう見えているのか若干不安になってきた。

 引いたカメラから見たら良さそうな構図であっても、カメラの角度が違えばまた変わって見えるものだ。


 もしかしたら今の黒雷は、内側から見る網戸に張り付く蝉のように見えているかもしれないと考えると、途端に気恥しさを感じてしまい、早く障壁よ割れてくれと切に願ってしまう。

 なお戦艦にいる者達からすれば、何をやっても死なない化け物が現在唯一の拠り所である緊急防壁をぶち破ろうとしている状況なので、誰一人心穏やかではいられず黒雷のポーズなぞ気にしていられないのが現状であるのだが。

 “……はい、ご馳走様”

 そんな気恥しさに耐えて十数秒。電力が低下した障壁は簡単に砕け散り、八面体の表層が露わとなる。砲塔がすぐ様に黒雷へと向くが、そんなもので止まる黒雷ではない。


 「ひーっさぁつ! 味方識別信号ドローンキィィィック!」

 まだ対応し切れていないだろうドローンを盾に、砲塔のひとつを狙って蹴りを放つ。

 五機のドローンによる無誘導爆弾の射出と、黒雷の強力な蹴りによる一撃。流石に戦艦の装甲とはいえ、そんな衝撃に耐えられるはずもなく。

 爆音と閃光と共に、その装甲に風穴を開けた。



 ◇



 「お邪魔しまぁぁぁぁす!」

 風穴を通り、戦艦の中へ。やはりと言うか、大半が自動化されているようで、爆発に巻き込まれた人等はいない様子であった。

 その事に黒雷はホッと胸を撫で下ろすと、キョロキョロと辺りを見回し、あるものを探す。

 「……みっけ」

 それはそれは壁に取り付けられた三つ穴。いわゆる200V用のコンセント。

 いくら謎の技術によって浮かんでいる戦艦といえど、電気に頼らないで船員の生活は維持できないだろう。ならば電気配線くらいはあると思っていたのだ。

 「それでは先生、お願いします」

 “うむ、くるしゅうないぞ”

 簡単な茶番と共に黒雷は右手の人差し指を立てると、コンセントに向けてソレを伸ばす。


 何故そのような行為をするのかと問われれば、答えは黒雷の身体にある。

 正確には黒雷と一体化している雷の大精霊ノア。彼女が浮遊戦艦という隔離された空間の電気配線に触れる事で、一瞬で電気の流れや設備の配置、運用状況などを知ることが出来るのだ。

 分かりやすく例えるなら、『黒雷は マップ を入手した ▼』という事である。

 “大型発電機が上部と下部に各四基。わお、この戦艦、半分に割れて中から巨大な超電磁砲を出す構造みたいね。プログラム消しておくわ。あ、隔壁封鎖の指令が出たから全てキャンセルしておいたわよ。逆に周囲の罠は全て作動するように設定したから楽ができるわね。後は……”

 今日のノアは生き生きとしていて、楽しそうに逐一何があってどうしたのかを黒雷へと報告してくれる。その様子は普段のクールな彼女からはなかなか引き出せないので、黒雷はニコニコ顔でその報告を受けるのであった。


 このままいけば何もしなくても戦艦を落とせるんじゃないかと、そう思い始めたころ。

 “……あっ! すっごーい。判断と思い切りがいいわね”

 ノアのそのセリフの直後、周囲の電灯が全て落ち、辺りが静寂に包まれた。

 破壊した砲塔の部屋から通路に出て見回したものの、端から端まで全て同じ状況の様子。

 「……壊したのか?」

 “私じゃないわよ。相手方がこの辺の電力を担ってた発電機を停めたの。お陰で何もかも掌握できそうな所で取り返されちゃったわ”

 黒雷の言葉に、楽しそうな声で反論するノア。

 どうやらノアの侵入に気付いた何者かがその手段を特定し、即座に対策されたということであろう。

 普通ならウィルスによるクラックを疑うべきところだろうが、相手は発電機自体を停止させるという強行手段に出たのだ。強引な手とはいえ最善手。侮れない相手である事は間違いない。


 「で、お宝は?」

 “それは見付けてあるから大丈夫。道順も覚えたから、案内するわ”

 「物が何かをまだ聞いてないんだけど?」

 “それは見てからのお楽しみ。きちんと価値のあるものだから安心なさいな”

 「司令室とか先に強襲しない?」

 “お宝の確保が先決。暴れて壊したりしたら復元できないんだから”

 「へーい」


 敵陣のど真ん中だと言うに、ふたりは至って平常運転。

 無駄話をしている間もジャスティス白井の面々は一向に現れず、足音すら響かないのだから気も抜けるというものだ。

 まぁ、それもそのはず。黒雷達が居るのは空と外壁一枚で隔てただけの場所であり、通路は全て狭いメンテナンス通路でしかない。

 どう見ても普段から人が出入りするような場所でなく、艦内戦すら想定されていない簡素な鉄骨剥き出しの一本道。そんな場所に停電している中、駆けつけようというのは無茶であろう。


 「あ、そういえば博士。この戦艦、鹵獲できそうなら要ります?」

 ふと思い至って、黒雷は通信機の向こうで呆れ返ってものも言えないカシワギ博士へと問い掛ける。

 最初は叩き落としてやる気満々であったが、中に入ってみれば大した脅威ではなさそうなのが分かった。ノアがこのまま十全に能力を用いれば鹵獲は十分に可能であろうが。

 『はっ、いらんわいそんなもん』

 しかし、返ってきた返事はそんなつれないものであった。

 「何でですか。浪漫の塊みたいな物ですよコレ」

 黒雷は一応食い下がってはみるものの、なんとなく不要と言っている理由も分かる気がする。


 それは、

 『そんな戦艦大和以上のバケモノ、維持費だけでこっちの予算が消し飛ぶわい。信者から金を毟り取れる組織ならいざ知らず、ウチにはそんな八面体を飼う余裕はないんじゃよ』

 と、そんな分かりきった答えであった。

 ですよねー、と黒雷は笑いながら、停電によって開かなくなった扉を蹴破って進む。

 国家を丸々飲み込んだダークエルダーとはいえ、これだけのデカブツは維持する気すら起きないのだ。

 それを今日この日のためだけに製造から維持まで続けてきたジャスティス白井という組織は、余程潤沢な資金があったのだろう。

 ……いや、資金があったら幹部が直接出向いて銀行強盗なぞしていない気もするが、そこは置いておいて。


 『あーでも貴重なデータとか高価そうなサーバーとかならいくらあっても困らんから、小分け(バラ)で送れそうな物はじゃんじゃん転送してくれて構わんよ。物によっては追加報酬も出るから、ヨロシク♪』

 と、カシワギ博士は全てを黒雷へと委ねて通信を切る。元々こんなデカブツの相手まで想定していなかったからか、楽ができそうだと分かった途端にコレである。

 とにかくこの浮遊戦艦を撃墜し、火事場泥棒ができそうなら好きにやれという事だ。

 もはや楽勝にも思える任務となりつつあったが、


 「そこまでよ!」


 遂にというか、やっとというか。

 ようやく黒雷達の目の前に、()が現れた。

 五花「おい“イサド”、何とかしろ!」


 イサド【了承。Cブロックの発電機を緊急停止。なお復旧にはクールダウンを含め180分を要します】


 五花「誰がそこまでやれっつったよ!?」

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