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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ジャスティス白井の本気 その2

 『つ、ツカサくん!? 流石に無理はいかんぞ!』

 通信機越しにカシワギ博士の焦ったような声が響く。

 確かに巨大浮遊戦艦相手に個人で挑むのは無謀かもしれない。

 このヒーロー一強時代に大艦巨砲主義を持ち出してきたのだ。おそらくそれなりの自信を持って挑めるような、そんな装備が多数積んであるに違いないだろう。

 しかし、どの道黒雷達に逃げ場はないのだ。他のヒーローが到着するまでにどれほどの被害が出るかも分からないこの状況で、悠長な事は言っていられない。

 「大丈夫ですよ博士。貴女の作ったこのスーツがあんなのに負けるはずないでしょう」

 黒雷は本心でもってそう言い切る。

 己が強いなどと過信するつもりは毛頭ないが。それでもこの黒雷スーツのチカラは何度も窮地を救ってくれたのだ。それを“弱い”だなんて少しも思わない。


 「そうだぞ博士。それに、黒雷ひとりだけではない」

 そんな声と共に、黒雷の横へと並ぶもう一頭の飛竜。

 雷瞳ミカヅチ。黒雷(ツカサ)を相棒と呼ぶ、頼りになる漢。

 「俺と、相棒と、ミソラと、ノア。四人で挑んで負けるワケがない。……そうだろう、相棒」

 彼は笑ってそう言い切り、自信満々に胸を叩く。

 彼は今回がミカヅチスーツでの初戦闘だと言うのに、微塵も恐れている様子はない。

 「怖くないのか?」

 黒雷は疑問に思った事を口にし、ミカヅチを見やる。

 大型のデブリヘイムすら遥かに超える巨大兵器を前に、ほとんど生身で挑もうなんて正気の沙汰ではないのだ。黒雷が行く気になっているとはいえ、無理に付き合う必要はない。


 「……くっくっくっ……。だーっはっはっはっは!」

 だのに、ミカヅチはその疑問を笑い飛ばし、バンバンと黒雷の肩を叩いて言うのだ。

 「怖くないかだと? 俺は多分、相棒と同じ事を考えていると思っていたが?」

 それが彼の答えだった。

 「……そうか、そうだよな………」

 そんな事を言われてしまったら、黒雷には反対する理由はない。

 何故なら、彼が戦う理由が黒雷のモノと一緒だと言うのなら。それは酷く()()()()()()個人的な理由に他ならないという事だからだ。

 即ち、

 「──やっぱ個人戦力で要塞落としってやってみたくなるよね!!?」

 「だよなっ! ジャイアント・キリングは漢の華! やれる時にやっておきたいよな!!」


 いくつになっても男の子なふたりが拳を打ち合わせ意気投合する中、通信機の向こうでは椅子から転げ落ちたような音が鳴り、地上からは会話を聴いていたであろうシルフィからの「バカーッ!」という声が空に響いた。



 ◇



 「光学迷彩解除率、現在78.5%」

 「全天モニタ解析開始。……周囲10km範囲に敵影なし」

 「管制AI“イサド”からの報告が二点。脅威度はどちらも『軽度』……いえ、追加で一点。第62番砲塔に海鳥が侵入し、その死骸が内部に取り残されているとの事。整備班、すぐに迎えますか?」

 「海上にて力場に巻き込まれた漁船らしき船を発見。ナンマンダブナンマンダブ」

 大勢のスタッフによる報告と対処が成される中、とある男はひとり静かに、華美なほど立派な席にへと腰を掛け、その全容を眺めていた。

 男の名はアームストロング五花(イツカ)。ネーミングセンスからもわかる通りジャスティス白井の幹部であり、この第四浮遊戦艦オルガノートの艦長を務める白髪褐色肌の筋肉モリモリマッチョマンである。


 「……くっくっくっ……!」

 アームストロング五花は笑う。ようやくこの国から醜い怪人や、悪しきヒーロー達を一掃できる日が来たと。ようやくジャスティス白井の掲げる正義と平和の世界が訪れるのだと。

 その先に待つ、あらゆる者がジャスティス白井という正義にひれ伏す世界を想像するだけで、その笑みを抑える事ができないのだ。

 「団長、ワインの準備出来ましたっ」

 「おーう。……いや、団長じゃねぇよ艦長だよ」

 アームストロング五花が艦長席でほくそ笑む中で、カートに赤ワインとチェダーチーズのセットを載せて話し掛けてきた人物がいる。

 彼の名はライドー武本。ジャスティス白井の下位構成員であり、アームストロング五花の付き人をやっている少年であった。


 「団長、上機嫌ですねぇ」

 ライドー武本はアームストロング五花の持つグラスにワインを注ぎ、傍へと控える。彼の顔もニヤニヤしている事から、きっとアームストロング五花の内心を分かっていて言っているのだろう。

 相変わらず艦長と団長を勘違いしているようだが。

 「こっちにはヒーローのロボットもいないし、本州とはエラい違いだ」

 「ああ……。ヒーローやダークエルダーの主力は軒並み本州に回してるのかもな」

 アームストロング五花達の乗る《オルガノート》が配置されたのは北海道の日本海側。ここの海は本州のように迎撃に打って出る巨大ロボットが存在しないのか、光学迷彩を解除し始めた後でも平穏を保っている。


 他の艦隊は激戦区に配備されたようだが、皆の認識としてのハズレくじとは()()だ。

 先の戦闘で疲弊した敵を叩くだけという認識なので、武力を行使できない場所に配備されるのを皆が嫌がったのである。

 なので楽をしたいアームストロング五花はむしろラッキーとばかりにこの配置を指名したのだ。

 おかげでワインを片手に優雅という物を味わえている。

 「これでようやく国民は助かりますねっ! アンドゥー高樹も頑張ってるし、俺も頑張らないと!」

 無駄に気合いを入れているライドー武本に、ああ、と気のない返事をしつつ、アームストロング五花はワインの香りを楽しみながら全天モニタを見やる。


 ジャスティス白井がやってきた事は、全部が今この瞬間の為のものだ。それはこれから先に何が起ころうとも、決して無駄にはならないだろう。

 これからも、ジャスティス白井という組織が正義を掲げ続ける限り、日本という国の繁栄への道はどこまでも続いていくはずだ。

 ……そう、アームストロング五花が物思いに耽ている、そんな時だった。

 急ブレーキを掛けたような音と共に何かが破裂する音が続き、それと同時に全天モニタの一部の映像が落ちて、戦艦に急制動が掛かる。

 「うおおおぉぉぉっ!!?」

 「団長っ! 何零してんだよ、団長!!」

 前につんのめった勢いで高級なワインが零れ、下のフロアに居たオペレーターの制服が濡れる。ワゴンから落ちた時に割れたワインボトルの周囲は、さながら血溜まりのように赤い液体溜りが広がっていた。


 「“イサド”が敵影を捕捉! 北海道内陸部上空に小型の機影が2! データ照合結果……出ましたっ! 秩父山中で目撃されたとされている飛竜(ワイバーン)ですっ!!」

 驚きと困惑に苛まれながら、彼らはモニタに拡大表示されたソレらを睨む。

 飛竜と呼ばれたソレらは、まるでコチラを獲物だと定めたようにまっすぐ向かってきていた。

 オルガノート……五花……ライドー……


 キボウノ、ハナ……

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