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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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雷竜降臨 その1

 一発の銃声と、僅かな硝煙の匂いが空へと散った。

 ノーム達が要求をすぐに飲まなかった罰として、男が少女……ミチルへと銃口を向けて銃弾を放ったのだ。

 「……あっ……あぁ………」

 周囲のほとんどの者が動きを止める中で、ブレイヴ・シルフィとノームはその衝撃的な光景を前に思わず地面へとへたり込む。

 どうして、なんでという言葉が脳裏にリフレインする中で、やっとの思いで絞り出した言葉はひとつ。



 「──本当に、来て……くれたんだ」



 少女達の想いに応えるように、彼は言う。

 「待たせたな。もう、大丈夫だ」

 彼は咄嗟に掴んだ銃弾を投げ捨て、ついでにミチルを捕らえていた男の首根っこを摘み上げて同じく放る。

 そうして全身の姿が垣間見れるようになると、その姿はなんというか、人とはかけ離れた物だった。


 一言で表すならば、竜。

 全身を覆う鎧は刺々しく、赫く灯る瞳は禍々しく。

 片翼ですら2m近くあるんじゃないかとも思わせる巨大な翼を背にし、長く伸びる尾は苛立たしげに大地を打つ。

 そんな異形は、震えるミチルの背に手を置いて慰めるように撫でていたのだが。

 ふと、己が来た方向へと振り向き、

 「いかん、少々やり過ぎた。今すぐ伏せて目を閉じ耳を塞いで口を開けろ」

 それだけ言って自身はミチルを己の翼の陰に置き、そっと彼女の耳を塞いで屈ませる。

 誰もが状況を理解できぬ中、それは来た。

 突風と言うには生ぬるい、ソニックウェーブのような衝撃波。超速で物体が通り過ぎた後に起こる爆風が、遅れてやってきたのだ。


 「な、なんじゃぁぁぁぁぁ!!?」

 集まっていたジャスティス白井の面々が抵抗もできず、ボウリングのピンの様に弾き飛ばされ宙を舞う。

 ダークエルダー製のシールドすらも軋むような音を立てるほどの風に、聖色四天王すらも身動きが取れない状況だ。ただの人間が耐えられるものではない。

 精霊シルフィが咄嗟に風の加護を掛けていなければ、今頃ノーム達も吹き飛ばされていただろう。

 爆風は時間にして数秒ともせずに収まったにも関わらず、その場に居たジャスティス白井の面々は全滅。


 現場に残ったのは、ブレイヴ・エレメンツのふたりと聖色四天王。そして、

 「はっはっはっ。すまないな、つい全力で飛んでき過ぎてしまった」

 状況を理解できず、ただ目をぱちくりとさせているだけのミチルと、その彼女をお姫様抱っこしている竜。

 その者の名は、黒雷。

 予知されていた最悪の未来を変えるためにやってきた、悪の組織の怪人である。



 ◇



 少し時は遡る。

 「……い………おい………。……おい、相棒。おきろ」

 力強い筋肉によって前後左右へと揺さぶられ、その振動によって意識が微睡みの淵より呼び戻される。

 ゆっくりと瞼を開けたそこは、鋼鉄に囲まれた閉所。嵌め殺しの覗き窓からのみが外界との繋がりを感じられる、手狭な空間であった。

 “鬼灯”の搭乗者スペースである。

 「おお、悪い……。寝てたみたいだ」

 そう言って黒雷は大きく欠伸をし、眠気に負けじと背筋を伸ばす。

 隣り合わせの座席と小さな冷蔵庫のみが置かれたその狭い空間では到着までの暇を潰す手段がなく、ボーッとしている内に眠ってしまっていたらしい。


 「ふむ。まぁ緊張しているよりもリラックスしているくらいが丁度いいのだ。張り詰めっぱなしでは鍛え上げた筋肉ですら萎えてしまうからな!」

 そんな事を言いつつ適度にポージングをキメながらハンドグリップを握るミカヅチ。

 人にはリラックスしろと言っておいて己は筋トレしているじゃないかとか、変身状態でやってて効果あるのかとか色々とツッコミたくもなるが、これがこの男の平常なのだ。言うだけ野暮である。

 「……で、起こしてくれたって事はそろそろか?」

 ミカヅチがウムと頷くのを見て、黒雷は改めて窓の外を見やる。


 そこには広大な大地が広がって……いるはずもなく、高度一万と数千メートルの高さまで打ち上がった“鬼灯”からでは青と白しか視界に入らない。

 なんでこんな小さな覗き窓しか付けれなかったのかと設計部を問いただしたくなるが、そもそもの使用用途的にこれ以上の物は必要ないのだと判断したからとしか答えられない気もする。

 何せこの“鬼灯”は、限界高度まで上昇した後に搭乗者を空に置き去りにしたままバラバラに分解されるというのだから。

 一応パーツは全て回収するらしいが、片道切符のミサイルに景観を期待する方が間違いなのかもしれない。


 《当機は所定の座標へと到着。高度・速度共に設定値の誤差範囲内。これより当機は搭乗者を射出し、本体の分解格納を開始致します。搭乗者は速やかに着席し、シートベルトを装着してください。繰り返します……》

 スピーカーからそう音声が流れ、警告音に似たブザーが鳴る。

 問題なく飛行できたという事は、既に北海道への侵入は果たしているという事だろう。

 ならば後は、新装備に頼るのみである。

 《……繰り返します。当機は所定ののののの………。ふぅ、やっと止まった。このアナウンスもう要らないわよね? アタシ、今なら歌っていい? あっごめんなさいノアやめてそのデータはアタシ苦手なのだから送り込まないでやめてやめてやめて………だらしねぇな♂》


 ……どうやら“鬼灯”のアナウンスを乗っ取って何かしでかそうとしたミソラに対し、ノアが何やらアヤシイデータを送り込んだらしい。

 毎度の事ながら、懲りないいたずらっ子である。

 「悪はガチムチでくんずほぐれつなレスリング沼へと落としたわ。搭乗者の射出は今から62秒後。悠長にしていると舌を噛むから覚悟しておきなさい」

 ひと仕事終えたノアがヴォルト・ギアからひょっこりと顔を出してそう伝えてくれる。

 彼女達には“鬼灯”の発射から今に至るまでの全制御を任せていたので、普通に顔を出したという事はやる事は全て終えたのだろう。

 この後の新装備の操作も彼女達に頼る事になるので、頼りっぱなしだ。


 「ありがとう、ノア。それにミソラも。帰ったらケーキでもご馳走するよ」

 わーいケーキだーとはしゃぐミソラに対し、ノアは頬杖をついて不満顔。

 「ケーキもだけど、ご馳走なら北海道の名物がいいわ。せっかく来たんだもの、カニとか色々あるんでしょう?」

 そう言われると、確かに北海道まで来たのだから食べていかないと損をした気分になりそうだ。

 帰りは急がなくてもいいらしいので、この事件が終わったらのんびり観光を楽しんでもバチは当たらないだろう。

 「そうだな。この事件が終わったら、のんびり食道楽でもしようか」


 まずはとにかく、目先の事件を物理で殴らない事には観光もクソもない。

 カレンや土浦さん達を助けられなければ、ここに来た意味などないのだから。

 「はいはい。それじゃあそろそろカウントダウンいくわよ。覚悟の準備をしておきなさい」

 ノアもそれは分かっているのか、茶化すことはしない。

 「10秒前」

 ミソラのイタズラの影響か“鬼灯”のアナウンスは聞こえてこないが、機体そのものから怪しい振動が発生しているのは感じられる。

 「5秒前」

 機体の接続面に意図的な亀裂が走り、音を立てて剥がれ落ちていく。

 「………3、2、1」

 隙間から入る光が徐々に強くなり、そして。

 「ゼロ」

 “鬼灯”が完全に砕け、黒雷達は空へと放り出された。



 ◇



 その日、北海道のある地域から道議会にこのような報告が届いた。

 曰く、突然現れた竜が二頭、北へ向かって飛んで行った。

 曰く、竜は火ではなく雷を吐く。

 曰く、その竜は道すがらに怪人達を吹き飛ばしながら去っていった。

 曰く、曰く、曰く。

 その挙げられた報告を時系列順に並べると、二頭の竜はどうやらとある地点で地上に降りたらしい。

 そこは北海道のとある都市。空港を所有する市である。

 「どうしてこんな大変な時に……!」

 敵か味方かは定かではないが、航空戦力が現れた以上は安全が確認されるまで飛行機の運行は不可能とみるべきだろう。

 議員たちは揃って頭を抱えた。

気分は完全に「英雄 二人」。

 蒼〇のファ〇ナーはとても、とても良いアニメなのでみんな観よう!

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁーたとんでもない物生み出してますね… 個人が持つ力としては過剰にも程があるよ。 まぁ今更なんですけど
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